イェジー・スコリモフスキ『早春』
流浪の監督、スコリモフスキの過去の作品はまだ日本では見ることができないものが多いですが、1970年公開の本作もようやくDVD化しました。
主人公の男の子は、『ルートウィヒ』の、普墺戦争に参戦した事が原因で精神疾患になってしまう、オットー親王役だった、ジョン・モルダー・ブラウンですね。
このマイク役で注目されました。
『ルートウィヒ』ご覧になったら分かると思いますけど、この俳優さん、ホントに繊細な美少年なんですよね。
そんな彼が演じるマイク少年は、個室の銭湯(そういうのがイギリスにあるんですね。この辺はよくわからないです)みたいな所で働くことになりました。
ちょっとフェリーニっぽいシーンですね。
しかし、そこに勤めている歳上のちょっとツンデレなお姉さんのスー(『ルパン三世』第1作の峰不二子っぽいですね)にイジワルをされるんですね。
スーを演じるジェーン・アシャーの小悪魔的な魅力が横溢しております!
そういうお姉さんにジワジワといじめらる映画なんですよ、コレは(笑)。
スコリモフスキは、現在も現役で映画を撮り続けていますが、彼の作風はホントに謎というか、難解なアート作品みたいなのは皆無で、常にものすごく具体的な事を映画にしているはずなんですけども、作風が全く見えてこない(笑)。
しかも、老成もしないで、ひたすらアグレッシブな作品ばかり作るんですよ、未だに。
強いて言えば、あんまり人が思いつかないようなシチュエーションとかを設定して撮るのが好きな人なのかな?とは思いますね。
『シャウト』は、ホントに誰とも似てないし、誰にも影響を与えようがないほどに独特すぎる映画です。
本作はそこまでエクセントリックではなく、彼のフィルモグラフィでは相当万人向けな青春映画で、長い労働党政権時代の、気だるい停滞感がなんとなく当時の東欧の停滞感とも呼応しているような感じで、チェコスロヴァキア映画なのかな?と一瞬思ってしまったりもします(ちょっと『ひなぎく』っぽい色使いです)。
しかし、小悪魔なおねえさん(実は婚約者がいます)にイジワルされる。つまり、林家こぶ平がヒロミと所ジョージにいじられまくって「なんだよ~やめろよ~」というあの懐かしのシチュエーションと言いいますか(笑)、それがホントにうまく撮れているんですね。
ホントになんでも出来る監督というのか、このトリュフォーのアントワーヌ・ドワネルものっぽさのありながら、英国独特の毒々しさがあって、撮っているスコリモフスキはポーランド人という、もうなんだかわからないインターナショナルなのか何なのかすら判然としないところが面白いですね。
ロンドンが舞台なのに、資本はアメリカから出てますし(笑)。
非常に優れたロケーション、撮影、スコリモフスキ演出のみずみずしさ、どれを取っても一級品であり、青春の残酷さを見事に切り取った傑作だと思います。
アシャーは一時期、ポール・マカートニーの恋人でした。キーッ。
トリュフォーとかマルの初期の作品にあった鮮烈さが、このポーランド人の監督によって見事に蘇った感があります。
もっとスコリモフスキの映画を気軽にみることができるようになればいいなあ。とつくづく思いました。必見。