ジャンル分け困難な変態映画です。

ポール・バーホーベン『ELLE』

 

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現在はヨーロッパを拠点として映画を撮っているバーホーヴェン監督の新作ですが、はじめの30分くらいは、一体どういう映画なのかよくわかりません。


主人公でゲーム会社の社長をしているイザベル・ユペールが一体どういう人間なのかが、見ていてもつかめないんです。

 

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最近当たり役の多いイザベル・ユペールホン・サンス作品でも主演でした。


しかし、それが突然明らかになります。


ユペールの父親は、無差別に27人もの人々を殺し、その後、刑務所に服役し続けているのです。ひいっ。


しかも、ユペールはその父親の犯行後の姿を見ているのです。ぎゃっ。


しかし、そういうエグいところをバーホーヴェンはものすごく淡々と見せるんですね。


そして、ここで冒頭に戻るわけですけども、ユペールは覆面をつけた男に突然レイプされるところから始まります。

 

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いきなりレイプシーンから始まるというすごさ。。


しかし、警察に電話するでもなく、風呂に入って、寿司を注文して次の日、何事もなかったかのように自分の経営するゲーム会社(なんだか、エロとバイオレンスのわけわからんゲームを作ってるんですけど)で仕事をしてます。

 

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ハリー・キャラハンの精神を継承?


そして、その合間に病院に行ってると。異常な出来事があまりにもスッと描かれていき、主人公も何事もなかったかのように生活しているのが、なんだかよくわからんかったのですけども、そこに、少女時代の凄惨な出来事があった事がわかったときにすべて氷解するという。

 

要するに、警察やマスコミに「無差別殺人者の娘」として好奇の目にさらされてしまっていた事が彼女を大いに傷つけて

いたわけです。


アドモドバルだったら、その辺がもう少しポップな感じになると思いますが、そこはバーホーヴェンですので、やっぱりドギツいです。


こういう強烈な過去を持つ主人公をイザベル・ユペールが実に違和感なく演じているのがコレまたすごいですね。

 

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このレイプ事件から主人公の周囲ではおかしな事が起き始めるのですが、これとともにお話の中で進むのが、主人公と父親の問題が描かれます(この辺りは実際にご覧下さい)。

 

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何度も現れる覆面の男。

 

サスペンスそれ自体はそれほど入り組んでいるわけではなく、そこに時間があまり割かれてはいませんが、本作が際立つのは、「どうして主人公はそのような選択をするのか?」という事に時間を割いている事ですね。


安直な勧善懲悪とか、そういう所に落とし込もうとはしないのは、昔からからのバーホーヴェン監督の姿勢ですけども、本作ほど、どう考えたらいいのかが難しい作品はないでしょうね。


それでいて、見終わった感じが悪いどころか妙にスッキリ感がすらあります。


思えば、『ロボコップ』や『トータル・リコール』も、よく考えると問題解決から程遠いのですが、なぜが爽快でした。


問題は死ぬまで続き、何がスッキリと全面解決してハイ、おしまい。みたいな事はなく、とりあえずココで映画としては終わっときますね。みたいな事をずっとやり続けている人で、それはフランスで映画を撮っても全く変わってないんですね。


奇しくも、この映画が公開される前後から、ハリウッドでMeToo運動が始まり、それは2018年現在も進行中であり、そのきっかけとなったプロデューサーのワインスタインがついに起訴されましたが、こういう嗅覚の鋭さも、バーホーヴェンが作家として未だに現役である事を感じます。


ジャンルわけや予定調和を拒否する、大変強烈な映画でした。

 

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