普通に面白かった。

デレク・ジャーマンヴィトゲンシュタイン

 

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20世紀最大の哲学書の1つであろう、『論理哲学論考』を著した哲学者、ルードウィヒ・ヴィトゲンシュタインの生涯を描いた作品。

 

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実際のヴィトゲンシュタインオーストリア帝国の大富豪の生まれで、西部劇やミュージカルを見るのが趣味でした。


脚本にテリー・イーグルトンがジャーマンと共にクレジットされているのに驚きますが、過激な作風で知られるデレク・ジャーマンとしては、意外なほど真っ当な伝記映画なので、彼の作品の入門編としてもいいかもしれませんね。

生前のヴィトゲンシュタインを知っている人のいろんな証言がありますけども、どう割り引いてもかなりの奇人変人だったようで、やっぱり天才というのは、なんとかと紙一重ではあります。

この作品はものすごく低予算で作られているんですけども、それは極端なほどに簡便なセットと限られたキャスティングのみで映画が構成されている事に由来します。

 

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ほとんど北野ファン倶楽部並みの簡素なセットです(笑)。

 

背景は基本的に黒で、そこにイスやテーブル、ベットなどの最低限の小道具が置かれているだけで場面ができていて、時には、時代考証を無視した電話機が出てきたり(1920年代頃なのに、プッシュホンを使っています)、ちょっとしたイタズラもあります。

 

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経済学者のケインズヴィトゲンシュタインケンブリッジ大学で働けるように尽力しました。


また、登場人物は、バートランド・ラッセルケインズ、そして、その助手でケインズの愛人であるジョニー、ケインズの奥さんのリディア・ロポコワ、そして、ヴィトゲンシュタインの姉と兄くらいしか出てきません。

 

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左がバートランド・ラッセル衣装デザインが素晴らしいですね。


ヴィトゲンシュタインは、20世紀最大の哲学者の1人として、有名ですが、いわゆる哲学書の類いはほとんど読んだ事がなく、アリストテレスヘーゲルといった著作は一切読んだことがないらしい(笑)。

 

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ケン・ラッセルの影響を感じますよね。


ハイデガーとは真逆の態度で哲学していた人で、ハイデガーは、シャレにならないほど膨大な著作を遺しましたが(とても長生きで、第二次大戦後は、一切公職に就かず、ほとんど隠遁して著作に専念してました)、ヴィトゲンシュタインは、生涯に発表した哲学の著作は、ケンブリッジ大での博士号取得の契機となった、『論理哲学論考』と、教師時代に作った、ドイツ語習得のための単語帳だけです。

 

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一応航空工学の実験です(笑)。この研究が実は後にヘリコプターの開発に役に立ってるそうです。

 

ヴィトゲンシュタインの著作のほとんどは死後に発表された遺稿でして、晩年に『哲学探究』という著作に取り組んでいたのですが、完成せずに亡くなってしまいます。


本作は、そういう過程を、非常にうまく省略してコンパクトにまとめた好編でして、途中に挿入される、いわゆる、前期ヴィトゲンシュタインと後期ヴィトゲンシュタインの思想の展開の違いを、とてもわかりやすく伝えているのが、とても好感が持てました。

 

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犬はウソをつく事はできない。


さすが、テリー・イーグルトンですね。また、そのヴィトゲンシュタインのユニークな哲学を形成する過程を、ヴィトゲンシュタインと彼の妄想であろう、火星人の「Mr.グリーン」との対話によって作られているのが面白かったですね。

 

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Mr.グリーンと子供時代のヴィトゲンシュタインの対話。


サン・ラやジミヘン、ユングのように、天才というのは、宇宙に向かうしかないのだと(笑)。

ちなみに、筒井康隆岩波書店から発表した小説『文学部只野教授』のプロットは、テリー・イーグルトンの『文学とは何か』を用いている事は有名です(大変面白い小説です)。

 

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デレク・ジャーマンは決してとっつきやすい作品を撮っている人とは言い難いですが、本作は上映時間たったの75分というものあり、展開もサクサクしていて、見ていて面白かったです。おススメです。

 

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