市川崑『鍵』
市川作品のオープニングのデザインのカッコよさには、いつもしびれますねえ。
谷崎潤一郎の小説の映画化。
原作は1956年に連載されていた作品ですから、公開当時は谷崎の最新作を映画化しているんですね。
『卍』、『刺青』、『痴人の愛』はすでにこの映画評で語りましたが、同じ大映の監督である、増村保造が映画化していますけども、本作は市川が撮ることになりました。
増村が取り上げた谷崎作品は、谷崎のどこか変態的な側面が強い小説の映画化ですが、それをあのドライでスピーディな展開でスパッと描いておるところが見事ですが、市川は谷崎の持つ、ブラックユーモアの感覚を描いています。
何しろ、金持ちのジイさんがコッソリ精力剤を医者に注射してもらっているというお話しです(笑)。
ケツに精力剤を注射て(笑)。
薄ら笑いキャラの仲代達也。出世のために剣持一家とつきあっている。
ドスケベおやじを演じさせたら天下一品の二代中村鴈治郎。
なんというか、この大映の一連の谷崎原作の映画を見てますと、谷崎という作家は、決して高尚な感じが全然しなくて、結構俗っぽくて、どこか変態的なものを耽溺している、要するになかなかの変態オヤジであるなあと思います(笑)。
そういうところを市川監督は、あの流麗なテクニックで谷崎のヌルヌルと変態ゾーン突っ込みすぎずにサラッと見せますね。
何しろ、たったの90分の上映時間です。
つまりこれ、プログラム・ピクチャーなんですね。信じ難いですが。
こういう積み重ねが、後の大作『細雪』に結実していくのだと思いますが、今回は『鍵』です。
それにしても、二代中村鴈治郎のエロオヤジっぷり、京マチ子のムンムンのエロスを、名キャメラマンの宮川一夫が撮ってるというだけでもう最高ですね。
エロすぎる女優、京マチ子!
仲代は出世のためにだけ、叶順子に接近する。
そして、『人間の条件』という、超がつくハードコアな大作の主演で脚光を浴びた仲代達也が鴈治郎のケツに精力剤を注射しているインターンというおかしさ(笑)。
市川崑は大映の監督になる前は、喜劇映画を得意としていたんですけども、そういう才能が、こういうところに見事に活きてますねえ。
中村鴈治郎、京マチ子、そしてその2人の娘の叶順子の剣持一家と仲代がそれぞれに個別の事情で接しているんですが、鴈治郎の家では、全員がそんな個人的な関係は一切ないかのように振舞っているんですね。
あたかも「よい家族」を装う。
更に面白いのは、それぞれの個々の事情を剣持一家は仲代から探り出していて、みな知っていているにもかかわらず、家族全員がシラを切りながら、生活ところ本作の真骨頂がありますね。
それぞれの登場人物が、ある人物を介しながら事情を知り、直接的には仮面を被ったように「いい子ちゃん」で真っ当な家族を装っているという奇妙さ。
その最たるものが、鴈治郎の京マチ子への愛情表現の変態ぶりであり、その倒錯感は、是非ともご覧下さい。
変態鴈治郎が何をしているのかは、見てのお楽しみ。
こんな事、まず思いつきませんから(笑)。
えっ。それで終わりなの?という軽いラストにもニヤリとさせられました。
市川、増村がものすごいペースで競うように映画を撮っていた頃が、やはり、大映の全盛期でしたね。
ちなみに本作はR指定がつきました。
当時としてはかなりきわどいシーンが出てきます。