クレイグ・ブリュワー『ハッスル&フロウ』
タランティーノ作品っぽいタイトルロゴがイカしてます。
最初の10分の主人公のDジェイのピンプ&ハスラー生活(よい子はググっちゃダメだよ!大人は自己責任でググってね!)の荒みきった様子は、お子さんがいらっしゃる方にはとてもみせらんない映像です(笑)。
荒んだ生活からいかにして脱するのか。
まあ、とにかくメンフィスの最下層の人々を見てますと、イラクやアフガニスタンでドンパチやってる場合なのですか、ブッシュ大統領(本作は2005年の作品です)?と言いたくなりすけども、そんな彼がメンフィス出身で全米でもヒットを飛ばすことに成功した、スキニー・ブラック(人気ラッパーのリュダクリスが演じてます)というラッパーの事を知りました。
そういや、オレもガキの頃は、ラッパーになろうとしてたよなあ。という事を思い出したDジェイ(名前はDジェイなのにラッパー元ラッパーなのがややこしいです。しかも、実在するトラックメイカーにもDee Jayという有名な人がいるのでますますややこしいです)は、ハイスクールの頃に一緒につるんでいた、キーの自宅に押しかけます。
MC漢に似てなくもないキー。プロデューサーを担当。
キーは録音技師として真面目に働いて、奥さんもいる堅気の暮らしをしているんですが、悪い旧友が必死で考えてきたライムを聴いているうちにだんだんと意気投合してしまいます。
ココからお話がロバート・オルドリッチ的に面白くなっていくんですね。
Dの小汚い家の一部屋が録音スペースになり、機材を搬入したり、キーが連れてきたトラックメイカーのシェルビーという、なんだか頼りなさそうな白人青年がああでもない、こうでもないと手探りで曲を作っていく過程は、面白いです。
トラックメイカーを担当するシェルビー。
サントラもうまくて、ヒップホップの映画だからヒップホップだろ。みたいな事はしなくて、むしろ、ソウル主体なんです。
この物語はサグライフを描いてるんではなくて、実は構造的には、努力と根性のお話なので、やはり、ソウルがピッタリくるんです。
そうそう、このフレーズだよ!
ラップミュージックはDたちが作っている曲を聴かせるという形で、ジックリと聴かせていき、同時にラップミュージックに詳しくない人たちにも、こうやって作ってるんですよ。という事を知ってもらっているんですね。
そこがとてもエンターテイメントとして上手いと思いました。
この制作過程は見てのお楽しみに。
さて、そうやって完成させた曲を売り込むのですが、Dがクサ(よいこはやってはいけません)を流しているお得意さんである店に、あのスキニーが来るという話を店長(なんと、アイザック・ヘイズです!)がDに教えるのです。
まさかのアイザック・ヘイズ!
満を持してDは店でスキニーと会うんですが、ココからラストにかけての二転三転ぶりがまさにオルドリッチ流儀のタダでは転ばない精神に満ちていて、よかったですねえ。
サウスの興隆を代表するラッパー、リュダクリスが演じるスキニー。
どうよかったのかは見ていただくしかないんですけども(笑)、スキニーにテープで渡した時の彼のセリフが2005年当時をとても反映してます。
「もうテープは古いぜ。再生する装置持ってねえよ」
しかし、2016年に公開された大傑作アクション映画『BABY DRIVER』の主人公の趣味はミックステープをカセットに録音してコレクションする事であり、現在はカセットテープは、世界的に見直され始めています。
映画で一度もインターネットを見ている場面がなく、携帯電話はあの折りたたみの携帯です。
たったの13年前なのですが、インナターネットがまだアメリカ全体に普及しきっていないんですね。
スキニーはCDアルバムが売れてスターになっているんです。
主人公のDの行為は、意図的なアングラ志向によって気をひこうとしているのですが、インターネットが普及しきった現在の若者から見ると、実はもう意味がわからなくなっている可能性がありますね。
ヘタをすると、カセットテープでまたミックステープを作るのがオシャレでカッコいい事になっているの可能性がありますよね、現在だと。
という事で、ラップミュージックの世界は10年どころか、もっと短いスパンでガラッと変わりうる世界で、現在はその速度はより増している気がしております。
前述のしたように、ギャングスタなサグライフではなくて、成り上がりたい人たちの努力と根性が基本なので思ったほどエグいシーンはないので、そういうのが苦手な人でも本作はオススメできます。
オルドリッチが好きな人でこの映画を見ない理由はないでしょう。
Dたちの計画はうまくいくのでしょうか。