トッド・ヘインズ『CAROL』
ブランシェットが実にうまいですねえ。
パトリシア・ハイスミスの原作の映画化です。
日本だと、ヒッチコック『見知らぬ乗客』やルネ・クレマン『太陽がいっぱい』の原作者程度にしか知られてませんが、アメリカ本国ではとても評価の高い作家です(近年、翻訳が進み再評価が日本でも高まっているようですが)。
現在この原作はハイスミスである事が明らかになっていますが、刊行当初はクレア・モーガンという偽名で発表され、タイトルも『塩の価格』というものでした。
というのも、ハイスミスはレズビアンなのですが、この小説はその事について書いているためです。
1950年代に同性愛を文学などで表現するのは、プロテスタントの国ではかなり困難でしたので、ハイスミスは偽名でひっそりとタイトルから内容が推測できないようにして発表されたんですね。
後に自分の作品であることをハイスミス本人が認め、タイトルも映画のタイトルと同じに改題されました。
それにしても、1950年代前半のニューヨークが見事に再現されてますね。
写真志望だが生活のためにデパートの売り子をしているルーニーの元にお客として現れる美魔女ブランシェット。
ロックンロールの爆発がある前のアメリカのシットリとした大人の世界がいいですよ。
写真家志望のルーニー・マーラが美魔女レズビアンであるケイト・ブランシェットにクリスマスプレゼントをするシーンを見てますと、ビリー・ホリデイとテディ・ウィルソンが共演しているコロンビア盤のLPなんですよね。
今の感覚では激渋なプレゼントですが、案外普通の感覚なのでしょうか。
あれだけニューヨークが好きで西海岸をディスり続けていた、ウディ・アレンがイギリスに移住してしまい、古きよきアメリカを映画で再現する映画監督がとんと居なくなって寂しかったんですけとも、ヘインズ監督がその渇きを潤してくれました。
原作者であるハイスミスは、後に同性愛をカミングアウトし、数多くの女性との恋愛遍歴のあった自由奔放な方だったようですが、1950年代のアメリカで同性愛など公に認められるはずもなく、本作を見てもわかるように、アメリカのある程度ハイソな白人社会ではあってはならない事なんです。
そういう中での恋愛というものをやはりゲイであるヘインズ監督は、ホントに繊細に繊細に描いてますね。
同性愛というものを描いた映画はまだそれほど多いとはいえませんが、2016年度のアカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』や、エクトル・バベンコ『蜘蛛女のキス』と並べても遜色ない映画ですよね。
ほとんど内容に触れなかったのは、このデリケートな展開を説明しちゃうと、多分、台無しになってしまうだろうという私なりの配慮でございまして、各人のココロで感じて欲しいからです。
CGと、どやしつけるようなサントラと音響で目と耳に打撃ばかり与える昨今のウンザリするようなハリウッド映画に食傷気味の方にはオススメの映画でございました。