小林正樹『怪談』
オープニングがものすごくカッコいい!
これまた、美術戸田重昌、音楽武満徹と組んだ、3時間を超える大作。
音楽というのか、音響効果がすごいです。
立身出世のために棄てられた女性。
今聴いても驚きますね。
日本における「音響派」と呼ばれる音楽のルーツのひとつは、間違いなくこの映画の音響効果だと思います。
ナレーションの音一つとっても、とても神経が行き届いていて、ホントに素晴らしい。
武満徹の最良の仕事のひとつといってよいのではないでしょうか。
衣笠貞之助『地獄門』、黒澤明『羅生門』からの伝統なのでしょう、中世の日本の伝奇ものを、時間とお金をかけて見せる。というものは、カンヌやヴェネツィアではウケがよいらしく、この映画の評価は高かったようです。
ただ、興行的にはまったくダメでしたが。
多分、小林正樹も、海外からの評価は間違いなく狙っていたものもと思います。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の原作から、「黒髪」「雪女」「耳なし芳一」「茶碗の中」という四つのエピソードが選ばれているのですが、正直、現在これらを見て面白いですか?と言われると、それはなかなか厳しいものがありますね。
撮影技術もとても古臭ささの方が際立っているような気がします。
こういう所は、溝口健二の方が圧倒的に優れていると言ってよいでしょう。
それでも驚いてしまうのは、やはり、サントラですよね。
非現実の音をどうやって表現したら良いのか?という事に、これほど見事に応えた武満徹や秋山邦晴らの仕事ぶりは、見事という他ありません。
映像的には、やはり、海岸のシーンのロケーションが実に生々しく、「耳なし芳一の話し」は映像としては白眉です。
このシーンはロケーションです。
ジワーッとくる怖さは現在でもチャンと伝わってきますよ。
平家一門の前で『平家物語』を語るというのもスゴいですなあ。
芳一の全身に書かれる『般若心経』のシーンは、唯一小林演出がピタリと当たったシーンです。
コレは必見。
竹光で切腹するとか、両耳を平家の怨霊に引きちぎられるとか、そういう痛みを表現することについて、何か執着がある人ですね、小林正樹は。
また、琵琶の弾き語りが素晴らしく、コレが後に、武満の代表作である、『ノヴェンヴァー・ステップス』に結実していくのではないでしょうか。
最高の「茶碗の中」の美術は、見事です。
また、オープニングクレジットのデザインは今見ても斬新で美しいです。
勉強として見てるのはとてもよいと思います。
妖怪話しというより、「不思議な話し」という方が正しいです。