深作欣二『仁義なき戦い』
戦後の広島の呉を舞台とする、今や伝説となったシリーズの第1作。
深作欣二は当初、シリーズ化するつもりはなかったらしく、大ヒットしている最中に東映の社長の一声でシリーズ化が決定したらしいです。
いかにも東映っぽい(笑)。
これまでの加藤泰や山下耕作などが作ってきた、鶴田浩二主演のヤクザ映画と本作が一線を画すのは、とうとう戦後、しかも、敗戦直後のヤミ市の抗争からヤクザが高度経済成長に乗ってのし上がっていく様を、東京や大阪ではなく、広島の呉を舞台としている点に非常にユニークさがあります。
しかも、実際の広島県でのヤクザの抗争から着想を広げているところが、全く異質な作品で、この作品以降、映画におけるヤクザの描き方は全く変わってしまいました。
のちのタランティーノなどにも影響を与えたであろう、圧倒的なバイオレンス、登場人物と揉みくちゃになるようなカメラワークは、恐らくは、70年安保闘争での報道などにアイディアを得たのだと思いますが、今見ても圧倒的なパワーを感じます。
今見てもすさまじいバイオレンス!
とにかく、主人公の菅原文太以下、ほとんどの登場人物が自分の欲望のままに行動するという映画表現は、日本映画には全く見られなかったことであり(ヤクザ映画はむしろ主人公がしがらみに絡め取られていく映画ジャンルでした)、この映画が後世に与えた影響はもはやヤクザ映画という枠を超えて、余りにも多大であると言わざるを得ないでしょう。
恐らくは中国からの帰還兵であろう菅原文太は、帰還した港の呉のヤミ市にフラフラと漂っているのですが、ひょんな事から、ヤクザ同士の揉め事の為にピストルで相手を射殺(躊躇なく撃ってるのは、彼がホンの少し前まで軍隊生活をしていたからです。この事がだんだんわからなくなってきていると思いますが)。
これによって懲役12年となってしまいますが、組の代わりに殺人罪をかぶってくれた事で保釈金を積んでもらって保釈となります。
ちなみに、刑務所の中で、梅宮辰夫と兄弟分となっています。
実録でなければ名バディであった。
こうして見ると、菅原文太は、別に極悪人でもなんでもなく、成り行きで殺人を犯し、それを助けてくれたのがヤクザであり、彼は自然にその構成員になっていった。という事なんですね。
この辺の描き方は、とても生々しいですよ。
あっという間に呉で一大勢力となった山守組は賭博などを仕切って利益を上げていますが、菅原文太演じる広能は、組の武闘派です。
この映画をユニークなものにしているのは、広島弁。という、ヘタをするとこの映画で初めて知る事をなる独特の方言ですべての登場人物が話している事が独特の生々しさを出してします。
組長の金子信雄は、東映ヤクザ映画で、主人公を食い物にしてのし上がっていく、まあ、ある意味、ホントのヤクザを演じているのですが(笑)、その役割はこの映画でも変わらず、彼が出てくると必ずシーンがコミカルになります。
年月が経つにつれて家やファッションがドンドン金満になる(笑)。
ひたすら緊迫のバイオレンスだけでなく、笑える要素、ワザとワキを甘く作っているあたりが、いかにも東映イズムです(笑)。
しかしまあ、出てくる登場人物のツラ構えがホントにヒドイ(笑)。
なんと田中邦衛も小物キャラでした。
みんなヤクザ者にしか見えないです。
最近の日本人からはスッカリいなくなってしまったタイプの顔なので、もう、こういう映画を作る説得力はないでしょう。
この映画が面白いのは、とにかく、キャラ立ちが滅法すごい役者ばかりというか、もう、そこである意味勝ちというか(笑)。
広能がトラブルの責任を取って指を詰めるシーンはなかなか面白いです。
何しろ、指の詰め方すらよくわかってないほど、ワイルドなのですね。
市会議員とも癒着し、敵対する市議会議員への工作まで山守組はやっていきます。
今も大して変わってなかったりして。
しかし、このお話は実は、菅原文太たちが暴れまわる事が痛快であるというだけではない、構図が出来上がっています。
呉には、もう1つの勢力があり、コレを土居組というのですが、しかし、山守組も土居組も大久保という、大親分と杯を交わしている関係なんです。
要するに、大久保は呉の街に2つのヤクザの勢力を争わせる事でバランス・オブ・パワーを保ち、強大な勢力ができないようにコントロールする事で儲けている構図です。
ちなみに、梅宮辰夫は、土居組の幹部です。
彼が本作で最もハト派のヤクザで2つの組が抗争にならないように身体を張っています。
土居組の組長と対立したので、山守組の客分になりました。
つまり、全員が大久保の手の中で踊らされている。という構図ですね。
しかし、土居組の組長を菅原文太が拳銃で至近距離から破茶滅茶に撃って殺害した結果、また、刑務所送りになりますけども、これ以降、土居組は衰退します。
このお話しで呉の権力の均衡を最初に壊して、山守組の繁栄の基礎を作ったのが実は、菅原文太なんですね。おそるべし!
朝鮮戦争の特需と覚醒剤の密売で、山守組は大儲けしながらも、警察からの捜査を食らい、組の統制が崩れます。
床屋に行けなくなる!
後半は、刑期中の菅原文太と、警官との銃撃戦で死亡した梅宮辰夫が出てこないので(文太は日米安保条約締結の恩赦で出所します)、議会工作を請け負ったため、しばらく雲隠れしていた松方弘樹がお話の中心となりますが、ちょっと生々しすぎる気はします。
山守組の覚醒剤密売を巡る内紛に今度
市議会議員が介入するという救い難い展開が、菅原・梅宮コンビの痛快さにはどうしても見劣りしてしまいますね。
いずれにせよ、凄みと愛嬌が同居した、菅原文太という、不世出の役者なくして、本作はあり得なかったでしょう。
昭和21年から31年までの山守組の栄枯盛衰が描かれているのですが、たったの100分で映画は終わります。素晴らしい。
とにかく見てつかいや。