イェジー・スコリモフスキ『シャウト』
なんとも不思議な雰囲気の映画ですね。
おお、『ロッキーホラーショウ』の主人公だった、ティム・カリーが出てます。
ショットの積み重ねが誰とも似てない。
どこか不穏です。
クリケットの試合から始まる映画なのですが、状況説明がない。
淡々と出来事が進み、二人の男性がそれを見ている視点で描いてますが、一切状況とは関係のないことを話してます。
この、ポーンと見ている側を置き去りにしながら、「コレは一体なんだろう?」と惹きつけるところがとても上手いですね。
1人がクリケットのスコアラー1人が「私が見た不思議な話し」を語るというところからようやく話しは動き始めますが、それがオープニングのクレジットと繋がります。
ジョン・ハート演じる、アンソニーというかなりアヴァンギャルドな作曲家は、いろんな物音を使って曲を書いているのですが、このシーンが面白く、音響効果が存分に使われています。
アンソニーは、教会でオルガンを弾くアルバイトをしているのですが、ここで出会ったチャールズ・クロスリーという得体の知れない男と出会います。
ある日、この男がアンソニーの家の前で行き倒れていて(?)、彼を昼食に招待します。
このクロスリーという男が言うには、18年もアボリジニの社会で生活していて、アボリジニと結婚もし、子供も設けたのだそうです。
しかし、全員死んだと。
また、アボリジニの呪術師から秘術を体得して、それで人を殺す事も出来るようになったのだと。
普通に考えて、彼は完全に狂人ですが(笑)、アンソニーは音楽家として、彼の秘術、すなわち、叫び声で人を殺す事ができるという、その声に興味が出てきました。
どれくらいすごいのか。というのを、恐らくは5倍は超えるものが、実際に繰り広げられます。
耳栓してるのに、アンソニーは砂丘を転げ落ちます。
周りにいた羊は死んでしまいました。
よく見ると、誰か死んでます。知らんけど(後で誰だかわかりますが)。
たしかに、アレは死にます(笑)!!!
なぜか藤子不二雄作品のように居候状態になるクロスリーは、完全にこの作曲家夫婦の家に馴染んでいるのがすごいですね。
人妻にグイグイ食い込んでいく、エロドラえもんです(笑)。
嫁は、なんと、ダンナに「お使いに行ってきてよ」なんてな事まで言い始める始末ですよ。
なんも言えねえ男の悲哀が見事なジョン・ハートです。
かれがお使いにいったらどうなるのかはもうヤボなので言いませんが。
そして、スナフキンのように、クロスリーは出て行ってしまいます。
でも、出て行ってるわけですから、クロスリーはその後を見てるはずがないのに、あたかもクロスリーが見てるかのように話しが進んでいるのがおかしいですね。
この話、どう見ても、アンソニーの視点で進んでいるように見えるんですよ。
と思ったら、またクロスリーが戻ってきて更に態度が横柄になり。
しかし、ココでよく考えてみると、この奇妙な話をティム・カリーにしているのは、クロスリーなんですよね。
全部ウソかもしれないわけですよね。
しかも、話している場所はどこでしょうか。
精神病院です。
アンソニーは患者という事でしょうか。
そうすると、クロスリーも患者ですよね。
一体どういう事だかわからなくなってきましたね。
ラストは全くオチを示さないまま終わってしまいます。強烈です。
アラン・ベイツの怪演ぶりは素晴らしく、『まぼろしの市街戦』とならぶ、彼の代表作と言っていいのではないでしょうか。
とにかく、類例がない映画です。
とにかくすさまじい「シャウト」です!