ホン・サンス
『アバンチュールはパリで』
邦題は内容を示しているようないないような。
しかも、ちゃんとフルオケ!
ザルドスなのかな?と思ったんですが、ゴダールの『ドイツ零年』で使ってるのか(笑)!
でも、キューブリックや黒澤みたいな面白さはないし、デイヴィッド・リンチみたいに「ホラ、こんなにドロドロなモノが隠れているんですよ」みたいなテクストのモノ読み替えができているわけでもない。
相変わらず、小津っぽい(笑)。
大麻を使ったのがバレたソンナムがパリにトンズラしました。
その慌ただしさをソンナムの後頭部の寝グセと無謀なまでの軽装が物語っております。
なんと本作はフランスでオールロケです。
多分ですが、彼の作品で最も制作費がかかっているのではないでしょうか。
話は、2007年の8月8日に始まり、10月までの(最後はハッキリとしません)お話しです。
韓国の男性は喫煙派が多いのか、ホンの作品の男性はまずタバコ吸ってますが、「フィリップ・モリス5.20ユーロ」って、ものすごく高い!
日本でもタバコがずいぶん高くなりましたが(私が子供の頃は180円くらいで消費税はありませんでし、お父さんのお使いで買いに行っても誰も怪しむ人はありませんでした)、フランスは更に高いんですなあ。
ソンナムは、韓国人と10人相部屋をして、要するに民泊をしてるんですが、もう、韓国の人々がヨーロッパに行くのは、結構普通なんですね。
日本ではホテルの部屋になぜか聖書がありますけども、ここでも出てきますね。
フランスでもそうなのだろうか?
ちなみに韓国は、プロテスタントがとても多いです。
その原因は日本の植民地支配にあるのですが。
それはともかくとして、ソンナムは一応画家なのですが、ボーッと何をするでもなく、観光らしい事もせずに無為の時を過ごしているのですが、思い出したように妻に泣き言を電話したり、タイトルがほとんど詐欺みたいな展開が冒頭です。
しかし、ソンナムがパリでバッタリと出会った女性から話しが展開します。
相変わらず、掴み方がうまい。
女性はソンナムを覚えてるのですが、ソンナムは誰だかなかなか思い出せないのですが、ようやくミンソンである事を思い出します。
元恋人です。
1日がホンの数分で過ぎていくように話しが進んでいくのですが、要するに逃亡生活なので、やる事がなくてどうしようもないわけですね。
なので、必然的にやる事がアバンチュールになっていくわけですが(笑)、コレを止めるのが『聖書』!!
そういや、ボザールに通っている女の子とオルセー美術館に行くシーンがあって、なんと、出てくるのがクールベ『世界の誕生』だけ(どんな絵かは、各人ググってね!)。というのは、陰鬱なゴダールへのオマージュなのか、何かへの当てつけなのかわからんですね。
この辺は、もっと後の作品になるとスッキリしてきて、上映時間も80分くらいでスッと終わります(ゴダールの老年になってから撮った映画は『映画史』は別として、だいたい80分くらい。でも、退屈で寝ちゃうんですよね・笑)。
個人的にツボだったのは、公園で太極拳している人たちをソンナムがボーッとカセットテープでフォースターの「僕のそばのマギー」を再生しながら見ているシーン。
音楽と映像が彼にしては珍しくシンクロしているんですね。
なんだか話しが逸れますが、そのボザールに通っている女の子、ユジョンの事を考えて生活するようになってくるんですね。
しかし、なかなか展開はなく、奥さんにテレフォン・セックスをせがむほどにアホになってくるんですが、そこが妙にリアルです(笑)。
もうしょうがなくなって、太極拳を自分でやったり。
だんだんおかしくなってきて(笑)。
しかし、民泊(というか逃亡先のアジトですが)のホストが親族の家に行ってから、このドローン状態になっている生活が変わります。
どう変わるのかがこのお話のキモなので、見てのお楽しみという事で。
これ見て改めて思うのは、どうして日本でコレができないのか?という事なんですよね。
この事を考えるのは私はとても日本の映画には有益なのでは?と思ってます。
後の作品と比べると、冗長な気がしますけども、ホン・サンスのフランスの、そして、韓国への愛憎が珍しく表出する作品。