タランティーノが多大な影響を受けた大傑作!

セルジオ・レオーネ『Once upon A Time in The West』


そんな映画あったっけ?in Americaの間違いでは?といわれそうですが、たしかにこの映画は存在しており、in The Westなんです。


タイトル通りの西部劇なのですが、マカロニ・ウェスタンの監督が、このジャンルを締めくくるべく作ったのではないか?というくらいの入魂の3時間近い大作です。


が、ストーリーのスジは別に難解でもなんでなく、レオーネの演出の仕方がどうしても長時間にならざるを得ないためなのですが、その事への無理解が、映画会社からの約20分のカットを食い、日本では、『ウェスタン』という、あまりにも酷い邦題がつけられ、そのカット版が上映されました。

 

まあ、『in America』は、もっと悲劇的なカットと編集をされてしまい、更に興行的にも散々だったのですが。


DVDではすでにカットされたシーンをもとに戻したものが販売され、レンタルもされてますが、映画上映は日本では今回が初めてです。


さて、問題はなぜレオーネ作品は長くなるのか?という事なんですけども、それを説明するには、この映画の冒頭、約15分もの時間をかけた主人公、チャールズ・ブロンソンの登場シーンですね。

 

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冒頭のカッコよさはもう言葉では説明不可能です!


時代は鉄道敷設ブーム真っ只中の

カリフォルニア州の某所。


その駅に明らかに怪しげな男が三名やってきます。


駅にいるのは、小柄なおじいさんの駅員と、汽車に乗ろうとしていたネイティブ・アメリカンの女性。


この3人の男たちはとても電車に乗ろうとしているようには見えず、明らかに誰かに雇われているガンマンです。


汽車に乗っている男を殺そうとしています。


その待ち構える3人の殺し屋の様子を延々と10分は撮り続けるんですね。


この辺は映画館よりもDVDでディテールを確認しながら何度も見たくなります(本作のDVDはそのためにあると思います)。


極端なアップと引きの絵を巧みに組み合わせ、そこに風力計がキイキイと音を立てて回る音、しずくがテンガロンハットに落ちていく音、指をポキポキと鳴らす音を延々と写すんです。


このジリジリとする緊迫感をコレだけで継続させていくようなレオーネの演出は、映画という表現意外ではなし得ない表現です。


とりわけ、殺し屋の一人の顔にまとわりつくハエをアップで撮り続けるシーンですね。

 

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当時はCGなどありませんから、このまとわりつくハエはほんものなのです!


このハエは演技をしているのではないのか?と思うほどシツコク男のヒゲにまとわりつきます。


コレをストーリーに関係のない、意味もないものとしてカットしてしまっては、全くもって台無しです!


そこに汽車がゆっくりと到着するのですが、目当ての男が降りてこないので、3人はうろたえますが、チャールズ・ブロンソン演じる男は反対方向に降りていて、列車が走りすぎると現れます。

 

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同じ場面をあえて両側から超ロングで見せるという演出!やりすぎですが、レオーネだと許せてしまいます!

 


そこから銃撃戦が始まるのですが、コレがあっという間に終わります。


ココにレオーネのバイオレンス表現の緩急の凄さがあらわれてますよね。


この早撃ちシーンを印象付けたいがためのタメだったんです。


ものすごい演出ですよね。

 

こういう大きな構えがレオーネの演出の基本なので、どうしたって長くなってしまいます。


この演出をどう評価するのか?がこの監督の作品への評価軸になると思うのですが、私はココに酔いしれてしまいますね。


『in America』は1920〜68年のニューヨークを描いた大作で、その背後に、民主党が政権を握るために労働組合とマフィアが結託していたという、アメリカ史の暗部を背景としていましたが、あそこまで手はこんでいないものの、鉄道敷設という一大事業と、土地をめぐる争いが大きな背景になっており、マクベインというアイルランドから移民した一族がもつ土地を相続する事になってしまった、ニューオーリンズからやってきたクラウディア・カルディナーレが、マクベイン氏が自分の土地を駅に作り変え、街にするという、壮大な計画も引き継ぐ事になります。

 

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フェリーニヴィスコンティが取り合っていたクラウディア・カルディナーレヘルツォーク『フィツカラルド』もよかったですね。

 

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フランクたちはマクベイン一家を皆殺しに!


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結婚するためにやってきたカルディナーレは、いきなり一家が惨殺される羽目に。。

 


この土地を奪いとって駅の利権を奪い取ろうとしているのが、モートンという資本家で、その彼が組んでいるのが、ヘンリー・フォンダ演じる、フランクという悪党です。

 

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ドーン!

 

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バーン!こういうドアップがとにかく連発するんです!

 


ストーリーが進むとだんだんわかってくるのですが、ブロンソンを襲撃しようとした3人の殺し屋は、フランクの手下でした。


なぜ、フランクはブロンソンを襲撃させたのか?というのは見てのお楽しみですが、土地争いの描いた西部劇というのは、『シェーン』など、本家のアメリカの西部劇にもある題材ですから、別に新しくないんですけども、鉄道敷設が絡んでいるのがユニークでして、実際、ストーリー上、線路がドンドンとできていくんですよ。


この土地争いにフラリとやってきた凄腕の早撃ちの男が、争いに偶然巻き込まれていくのではなく、むしろ積極的に初めから関与している点がかなり異色であり、また、従来、女性が西部劇で重要なキャラクターになる事はとりわけレオーネの撮るマカロニ・ウェスタンには少なかったですが、クラウディア・カルディナーレは終始、ストーリーに関与し続け、コレはネタバレしても構わないと思いますけども、実は彼女こそがこのお話しの勝利者です。

 

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話しの持っていき方で説明をカットしましたが、シャイアンという賞金首のかかったガンマンを演じるジェイソン・ロバーズもすごくいいです。

 


単純に図式化してしまうと、ガンマンたちは全員敗北し、勝利するのは、なもなき民衆である。という、ほとんど『七人の侍』のようなラストになっていきます。

 

この点が、アメリカの西部劇も含めて、ほとんど見られない結末でしょうね。


ヘンリー・フォンダが冷酷が悪役を演じているのが、意外なほどハマり役でして、コレはホントに驚きました。

 

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一応、ラスボスはモートンなのですけども、『コマンドー』におけるアリアス大統領のような存在感です(笑)。

 

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フォンダ演じるフランクは冷酷非道なキャラクターですが、とても魅力的です。


この頃は、もう過去の名優扱いになりつつあったフォンダですが、コレはもはや彼の異色の代表作と言って良いと思います。


主人公の名無しのガンマン(最後まで名前が不明です)を演じるブロンソンはフォンダやカルディナーレと比べて、当時は明らかに格下だったと思いますが、堂々と渡り合っております。

 

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名優ヘンリー・フォンダを相手に頑張っております、我らがブロンソン


撮影監督トニーノ・デリ・コリ、音楽エンニオ・モリコーネの布陣も鉄壁です。


『さらばわが友』で一挙に大スターになる寸前の機が熟しきったブロンソンの素晴らしさも堪能できます。


できれば映画館で堪能し、確認のためにDVDをご覧ください。

 

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