大林宣彦『ねらわれた学園』
2020年に惜しくも亡くなった大林宣彦の角川映画の痛快青春映画。
『時をかける少女』が余りにも有名で、その陰に隠れてしまった感がありますがこちらも傑作です。
眉村卓の、現在で言うところのラノベを原作としますが、コレも筒井康隆原作の『時をかける少女』とかぶっているんですけども(要するに、角川映画というのは、本を売るためのプロモートです)、大林監督は、あくまでもそれをネタというか、口実にして、結局は自分の世界を好き放題にやる。という手法です。
唐突に放り込まれるPV、明らかにそれとわかる書き割りの背景、チープな特殊効果、ちょっと笑ってしまうキャスティングなどなど、初期の大林作品は天才スピルバーグの初期作品のような、天衣無縫の遊びに満ち満ちています。
1980年代ってなんでこんなに恥ずかしいんだろうか(笑)。
思い切り書き割りです!
で、そういうおもちゃ箱のような映画の中で、薬師丸ひろ子たちは、実にのびのひしています。
原田知世とともに角川映画を代表する薬師丸ひろ子。『あまちゃん』でも元アイドル役が光りました。
コレは、お笑いウルトラクイズのリアクション芸人たちがドン引きするような凄絶な撮影を旨とする相米慎二『セーラー服と機関銃』と好対照です。
ストーリーはもう恐ろしいほどチープですが、しかし、それが魅力につながってしまうのが、天才の所業です。
ちなみに、脚本が適当な監督ではないです。誤解のなきよう。
超能力が発動してしまった薬師丸ひろ子が、宇宙からやってきた超能力者と彼の配下と戦うという、まあ、なんともこっぱずかしい、おっさんではとても映画館では見に行けない作品なんですけども(笑)、羞恥心を捨てて見てみますと、いやー、面白い!
こんな感じでしたよ、昭和末期の高校生(笑)。
タイトルがほぼネタバレというも素晴らしく、転校生が生徒会を通じて、自由気ままな新宿の公立高校(新宿高校がモデルなのでしょうか?)を秩序と規律で支配するというモノですが、こういう荒唐無稽なお話しに大林監督は、ファシズムへの批判を込めているのが、さすがですね。
ご存知のよつに、校則というものは、法律ではありません。
しかしながら、現在に至るまで、学校を運営していく上で自治の名の下にかなり首を傾げざるを得ない校則が、21世紀になっても現存しており、この映画で描かれている世界は存外ガチのリアルである事は戦慄してもよいのではないでしょうか。
また、自治であるが故に、教育行政はコレに不干渉とする事で、事実上の支配を獲得しているのだ。という点に気が付かなければならず、ファシズムというものが「正義」の面構えをしており、法律ではなく道徳を説いて支配している事を知らなくてはなりません。
そもそも、制服というものとファシズムは不可分の関係があるわけです。
また、ファシズムは快楽と結びつきます。制服はまさにカイ、カン。なので。
峰岸徹演じる、ほとんどマグマ大使のゴア、現在ではジャズメンのカマシ・ワシントンであるところの星の王子さまが目指す世界征服って何よ?というツッコミはさて置き(笑)、クローネンバーグ だったら、『デットゾーン』みたいな悲痛な映画となるところを、躁病質なハイテンション作品に仕上げてしまうところが大林監督の真骨頂です。
これぞ、スーパー歌舞伎、ジャパンクールなのです!
手塚眞演じるガリ勉君、ハナ肇演じる酒屋の店主、そこの従業員の鈴木ヒロミツなどなど、チョイ役、カメオ出演がいちいちツボにハマってしまうところも見どころです。
素晴らしい映画をたくさん作ってくれて、ありがとうございました!
大林宣彦は、作品を通じて、出演者とともに永遠に生きます!
現在は世界的な「ファシズム前夜」なのでしょうか。