奉俊昊(ボン・ジュノ)『母なる証明』
ポン・ジュノが『グエムル』の次に放ったのは、なんと、知的障害を持つ冤罪事件でした。
キム・ヘジャ演じる母親の熱演が見事でした!
コレが熊井啓なら、超がつくシリアスに、野村芳太郎だったら、後味がものすごく悪い映画となる事必定ですよね?
しかし、ボン監督は、コレを喜劇として描いているのがすごいんですね。
重いテーマなのに、妙なおかしさがある。といえば、今村昌平ですが、ポン監督は今村の系譜の監督と言えます。
こういうシリアスなテーマなのに、どこか笑ってしまうというのは、彼の監督作に一貫してますね。
黒澤明は、ハリウッドで『暴走機関車』という映画を撮る企画があったのですが、黒澤は機関車が暴によって起こる、様々な人間の滑稽な様子を描きたかったらしいのですが、映画会社に拒否されてしまい、企画は頓挫しました。
後にハリウッドで映画化されたんですけども、黒澤明が作ったらなあ。とやはり思ってしまいます。
閑話休題。
『グエムル』と全くテーマは違いますが、やはり、根底にある、韓国社会の厳しい経済格差が描かれていて、役人批判(ここでは特に警察です)がとてもありますね。
ハナから犯人と決めつける警察。
殺人事件の冤罪として逮捕されてしまうのは、トジュンという知的障害がある青年で、コレを演じているのが韓流四天王のウォンビンなのが驚きですね。
しかも、兵役から復帰後初の映画出演です。
日本で言えば、木村拓哉が知的障害者を演じているようなもので、かなり衝撃です。
トジュンの家族は漢方薬店をやっている母親だけです。
この母親が息子の無罪を信じて、そこまでやるか?という行動を次から次へとやるんですが、これがもうすごいんですね(笑)。
どうすごいのかは映画を見てのお楽しみですけども、『宮本から君へ』みたいな暑苦しく濃厚な喜劇です。
が、ポン監督の凄さは単に面白いな。ではないんですし、社会が悪い!にも落とし込まない、何とも名状し難い重さがやってきます。
しかし、それすら跳ね除けてしまう恐るべき豪腕とも言えるラストの太さ。
この表現の太さ、強さがポン監督の最大の強みですね。