ポール・シュレイダー『魂のゆくえ』
ホアキン・フェニックスが狂気の悪役、ジョーカーを演じて話題となった『JOKER』。
DCコミックスを代表する悪役キャラクター、ジョーカー、というよりも、クリストファー・ノーラン監督による『バットマン』3部作における『ダークナイト』に出演した、ヒース・レジャーが演じたところのジョーカーに創を得たと思われる『JOKER』が、2019年にヒット中ですが、この作品の根底には、ある映画の存在が指摘されています。
それは、マーティン・スコシージ『タクシー・ドライヴァー』です。
ヴェトナム戦争による、PTSDで不眠症になってしまい、できる仕事がタクシードライヴァーの夜勤しかなくなってしまったという、ロバート・デニーロ演じるトラヴィスは、何か、『JOKER』の主人公、アーサー=ジョーカーのもつ、鬱屈したルサンチマンを社会に抱いています。
『タクシー・ドライヴァー』の脚本を描いたのが、本作の監督、ポール・シュレイダーなのです。
シュレイダーは、三島由紀夫の凄絶な最期を描いた『MISHIMA』(日本未公開、未ソフト化)という、これまた物議を醸し出す作品を撮ってます。
主人公のエルンスト・トーラーは、ニューヨーク州の小さな教会「ファースト・フォームド」(原題はコレです)の牧師。
ごくごく平凡な牧師、トーラー。
彼がとある日に相談を受けた男性が、銃で頭を撃ち抜いて自殺し、しかも、トーラー牧師にワザと第一発見になるように計画的に自殺してしまう男との経緯が丁寧に描かれます。
この自殺した男とその妻は、実は環境保護運動を行っていて、逮捕された事もあるのでした。
彼は「こんなひどい事態に生まれる子供が幸福になるはずがない」を思い込んでいて、奥さんの出産を望んでいません。
奥さんからの相談を受けるトーラー。
自然環境の悪化を訴える、マイケル。
という、まあ、その後自殺してしまうような人ですから、もう思い詰めてちょっとおかしくなっているんですね。
この辺は、ギリギリでシリアスですが、側から見ると滑稽寸前です。
しかも、爆弾まで製造していたんですね。
『タクシードライヴァー』でもそうですが、「それ、笑っていいの、どうなの?」というスレスレなところを描くのがシュレイダーはうまいですね。
問題はその後なのです。
相談を受けていた人がこれ見よがしに自殺をしてしまう。
聖職者である、彼を助ける事は出来たのでは?と苦悶する事になるのですが、その答えの出し方が尋常ではなく、トラヴィスやミシマもびっくりなんですね。
トーラー牧師は社会的な地位がそれなりにあるわけですから、トラヴィスではい。
また、ミシマのように完全に自分の美意識からの行動でもない。
トーラーは自らの信仰の問題としてとんでもない事をしでかそうとするんですが、その終わり方がこれまた秀逸ですね。
『JOKER』ともども、「正義とは何か?」もしくは、「悲劇と喜劇は紙一重」がテーマとなる映画が相次いで公開されたという事は、とても興味深いですね。