祝!スパイク・リー復活!!

スパイク・リー『ブラック・クランズマン』

 

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1979年をお話を敢えて1972年に変えて映画化しています。

 

ドゥ・ザ・ライト・シング』、『マルコムX』という強烈なインパクトを与える作品を撮りながらも、その後はあまりパッとしない作品を作り続け、知らないうちに大学で映画を教えるようなエラい人になっていたスパイク・リーですが、ほとんどアメコミのヴィランのような大統領が就任したのが大きいのでしょう(笑)、本作はまるで永き眠りから覚めたような快作でした。


コロラド州コロラド・スプリングス(コロラド州第二の都市で、人口は現在で約46万人)で実際にあった黒人警官によるKKK潜入捜査のお話しです。


映画ではニクソン政権時代に少し遡らせているのですが(元ブラックパンサー党のリーダーの支持者を主人公の彼女という設定にしたかったからでしょうね)、主人公のロン・ストールワースがコロラドスプリングス市警で初めてのアフリカ系アメリカ人の警官だったのは、事実です。


このロン・ストールワースを演じるのが、ジョン・デイヴィッド・ワシントン。

 

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1972年までコロラド・スプリングスには黒人の警官がいませんでした。


ななんと、デンゼル・ワシントンの息子です。


マルコムX』って、そんな昔の映画だっけ?と一瞬気が遠くなりましたが、本作は彼の好演がやはり光りました。


それにしても、黒人がKKKに潜入捜査するってどういう事か?と思うかもしれませんが、ロンが考えた方法がすごいんですね。


電話応対はロン本人が行い(電話で黒人とバレないのがミソです)、実際にKKKのメンバーに「ロン・ストールワース」として会うのは、フィリップ・ジマーマンという「白人」なんです。

 

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この電話の使い方がとにかくおかしいんです。


ジマーマンというのは、ユダヤ系の人に多い名前で、彼もユダヤアメリカ人なんです。


アダム・ドライヴァーが演じていますが、彼は最近、いい映画によく出ていますね。

 

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KKKの白人至上主義にはプロテスタントの信仰があり、異教徒であるユダヤ教への強い反感があります(アメリカにおける親ナチスというのも、そういう文脈にあるような気がします)。


KKKユダヤアメリカ人の事を「白人」とは見なしません。


つまり、この潜入捜査は、ユダヤアメリカ人とアフリカ系アメリカ人という、KKKが憎悪の対象とする人種の2人が組んで行われたという、全くもって奇想天外な、捜査だったんですね。


このユダヤ系とアフリカ系が組むというのは、アメリカの黒人音楽の歴史に実は結構あった事で、その事を知っていると、余計にこの設定がおかしいのですが。


本作は捜査によるサスペンスみたいな事はそんなに重点が置かれていなくて、スパイク・リーがやはり力点を置きたいのは、アメリカの黒人差別の歴史です。


本作の冒頭は『風と共に去りぬ』のワンシーンであり、劇中でKKKの連中が見ている映画は『国民の創生』です。


後者がKKKを美化して描いている事はすでに有名ですが、実は前者にもKKKが出てくるんです(ただし、南北戦争の頃のKKKはかなり違いますけどね)。


ただし、映画版はココをかなり希釈してボヤかし、人種問題とは結びつかないようにしてますが、リーは、この不朽の名作の根底にある黒人差別をやはり見逃さなかったのです。

 

ちなみに、KKKというと、あの白い装束が有名ですが、『国民の創生』に出てくるKKKの衣装から取ったものなんです。

 

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コレがKKKの現在に至るイメージを決定づけた衣装です。

 

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現在のKKKです。

 

 

つまり、現在につながるKKKの生みの親は、実はDWグリフィスという映画監督なのだ。という事を言いたいんですね、スパイク・リーは。

 

ものすごくゴダール的ですねえ。

 

ラストシーンに映画にも出てくる登場人物によって、この映画はフィクションだけど、コイツはリアルだからね。という観客への一発かましているのも痛快でした。

 

スパイク・リーは、動乱があると元気になるタイプの監督なのでしょうね(笑)。

 

そして、彼の代表作がワシントン親子(しかも初代大統領と同じ名字!)というこの奇跡にも驚いてしまいます。

 

今度こそ作品賞を取りましょう!

 

 

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