ポール・ハギス『クラッシュ』
この映画の事を全く知らないまま、テレビでの放映で見ました。
ロサンジェレスの一日の出来事を、特定の主人公なしに、かなりの登場人物が複雑に絡み合いながら、進んでいく作品で、キャスティングはなかなか豪華ですが、それがそんなにウリでもないですね。
一応、有名どころのキャスティングを言いますと、テレンス・ハワード、サンドラ・ブロック、リュダクリス、マット・ディロン、ドン・チードルなどなどと。
ドン・チードルは刑事です。
これだけのキャスティングで、主演がいないという、ロバート・オルトマンを思わせるお話しですが、オルトマンの70年代の映画のような、ラストに、ズゥゥゥンと来るコワさみたいなところに持っていってない、実は、ちょっとしたクリスマス映画なのです(この辺はオチなので、実際に見てください)。
サンドラ・ブロックは検事の奥さんで、リュダクリスらにクルマを強奪されてしまいます。
2005年公開で、私はしらなかったのですが、アカデミー作品賞だったと(この頃、一番アメリカ映画を見てなかったんですね)。
タイトルを見たときに、「クローネンバーグの映画かな?」と勘違いしている程知らなかったんですけども(笑)、絵を見ていたら、明らかにハリウッド映画で、ベツモノである事に気がついたわけですが、数分画面を眺めていたら、「アラッ、コレ、いい絵だなあ」と気がついたんですね。
いやらしい言い方ですけどとも、いい映画かどうかって、五分も映像見てたら、わかってしまいますよね。
で、コレは何も知らなかったんですけども、やっぱりよかったんです。
こういう経験をする確率は、なぜかテレ東で多いですね(笑)。
リチャード・フライシャー『絞殺魔』とか、ニューポート・ジャズ・フェスティバルの模様を撮った『真夏の夜のジャズ』は午後ローで偶然見ましたなあ。
それはさておき、本作が2005年公開というのが、やはり、重要ですよね。
2000年9月11日に起きた複数の飛行機を用いたテロ事件がアメリカ社会を神経症的な発作に駆り立て、それがイラク侵攻、フセイン政権の崩壊へとつながるわけですが、そういう、最中にこの映画が発表されたというのが、やはり素晴らしいんですよね。
本作のテーマは、昨今またしても再燃している人種差別問題であります。
それが白人/黒人という、単純な二元論対立ではなく、ここに、白人の中でも裕福な白人とプアホワイト、黒人の中にも同様の経済格差/社会階層があって、より複雑化しており、更に、イラン系(映画内ではペルシャ人と名乗ってますが)のアメリカ人の家族が出てくる事で、重層的に人種問題を描いていますね。
テレンス・ハワードはテレビのプロデューサーです。
出てくる登場人物も、刑事、検事、テレビプロデューサー、カギの修理屋、雑貨商、警察官など、一見結びつきそうもない人々が、それぞれひょんなことから結びついていくんですが、それらの結びつきが人種差別問題を着火点としている点が、本作の特徴です。
マット・ディロンは、人種差別的な警察官を演じてます。
タイトル通りの様々な「衝突」を描いているんですけども、とかく、こういうお話は、アタマでっかちになりがちで、そこが白けちゃうんですけども、この作品はそういうものがなく、単なる人々のイザコザを殺伐と描いているんではなく、根底にアメリカらしいニューマニズムが流れているのがとても好感が持てました。
見終わった後も後を引く、ジンワリと来る静かな感動がなんとも心地よい映画でした。