「後味悪い映画」の中でもコレは相当な上位なのではないか。

野村芳太郎『疑惑』

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おなじみの、野村芳太郎松本清張映画ですが、今回の見どころは、なんと言っても、桃井かおり岩下志麻のぶつかり合いですね。


バディものでもライバル対決でもないという、かなり異色のドラマです。


というのも、桃井かおり富山県の資産家の夫の殺人容疑がかかっていて、その国選弁護人が岩下志麻という関係なんですね。

 

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事故シーンは結構冒頭に唐突に始まります。ここのクールさがうまいですね。

 

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警察の取り調べでも一切有力な供述は出てきません。


普通だったら、弁護士が無罪の被告人を救うべく奔走する姿が描かれそうですけども(岩下志麻は弁護士としての仕事はちゃんとやってますけど)、そこには力点は置かれていなくて、桃井かおりの暴れっぷりが裁判だろうと、回想シーンだろうと発揮されていて、ある意味、それがメインの作品です。


ショーン・ペン主演でスーザン・サランドンが弁護士役を務める『デッドマン・ウォーキング』もある意味似てますが、こちらは、現在のトランプ政権を支持しているようなかなり右翼的な男の人間的な変化がメインテーマなので、最後まで、ひどい人間性はそのまんまな本作は、ヒューマンドラマですらなく、恐ろしくドライとリアルしか伝えないという、そういう意味では、真の実録映画です。

 


いやー、それにしても、桃井かおりのクソ女っぷりは、ホントにすごいですね(笑)。

 


コレだけ憎たらしい人、そうはいませんよ。

 


しかも、カリカチュアとかでなくて、リアルに憎たらしい。

 


砂の器』という一大オペラを、橋本忍とともに作り上げた野村監督は、こういう作品はもう極め尽くした。と、考えたのでしょう、松本清張の本来の持ち味である、リアリスティックでビターな味わいを追求していきましたが、その方向転換を成し遂げるのに決定的な作品が、以前紹介した『鬼畜』で、ここでの岩下志麻の鬼気迫る存在感は、見ているコッチが震え上がるほどでした。

 


その岩下志麻がクソ女を弁護する。という、どう考えても普通に裁判が粛々と進むか筈がないではないですか(笑)。

 


しかも、本作がうまいのは、なかなか岩下志麻が出てこないんです。

 


初めは資産家の夫の顧問弁護士に弁護を頼むのですが、彼は東京の凄腕弁護士にまで頼んで、万全の体制なんですけども、これが相次いで弁護から降りてしまいます。

 


なので、民事を専門とする、岩下志麻が国選弁護人としてお鉢が回ってきたんですね。

 


その2人の拘置所での初めての面会から、桃井かおりは喧嘩腰(笑)。

 


それに対して「死刑になりたかったら、自分で弁護しなさい」と冷酷に言い放つんですけども、結局、弁護人を引き受けます。

 


さて、裁判のポイントは、いくつかありますが、埠頭からノーブレーキで海に落ちた時、車を運転していたのは誰なのか、彼女に保険金目当ての殺人計画はあったのか、という事なんです。

 

 

 


球磨子はもともとホステスで、いろんな前科があるのですが、それが裁判で検察側が曝露していく事となり、さらに、桃井かおりのかつての犯罪仲間であった鹿賀丈史(昔は、チンピラ役がとても多かったですね)の陳述書を岩下志麻が読んでいるシーンがやはり、そのまんま回想シーンになるので、要するに、桃井かおりのサグライフがコンパクトにまとめられており、どう割り引いても『砂の器』と真逆のイヤーな感情しか湧いてきません(笑)。

 

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鹿賀丈史の陳述書を読む、岩下志麻


検察側が連れてくる、資産家の一族、白川家の人々は、悉く球磨子を憎んでいて(法定相続人の筆頭ですから・笑)、彼らのする証言はもう(笑)。

 


という感じで、裁判はもう酷いのなんのって(笑)。

 

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しかし、この裁判に決定的な証言が2人出てきまして(それは見てのお楽しみです)、コレによって球磨子は無罪となります。

 

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しかし、この映画は実はそこからが実は野村芳太郎の世界でして、岩下志麻桃井かおり双方にかなりビターなラストが待っています。

 


ラストに、2人は初めてシャバで会うんですが、『鬼畜』を見ている私は、「わー、やめろやめろ!口にゴハン突っ込まれて殺されるぞ(笑)!!」と、思わずココロの中で叫んでしまいました。

 


岩下志麻が受けなくてはならないサンクションは、実は、現在の女性も解決していないような実に辛いものです。

 


桃井かおり岩下志麻の双方にとってコレは代表作の1つと言っていいのではないでしょうか。

 

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