サム・ペキンパーもビックリな凄絶な戦争映画です!

岡本喜八血と砂

 

f:id:mclean_chance:20190506134933p:image


経営が傾いてきた東宝を救うべく、三船敏郎は、三船プロダクションを設立し、数百人の従業員を抱える経営者となりました。


コレが、時間拘束がとても長い黒澤明との仕事を困難にしてしまった。というのが映画評論家春日太一氏の説ですが、コレは相当説得力があります。


さて、三船プロの初期のいい仕事の1つは何と言っても岡本喜八との一連の作品で、とりわけ本作は、三船敏郎岡本喜八の反骨精神が反映した痛快作です。


岡本作品のほとんどには、第二次世界大戦での自身の辛い体験が何らかの形で滲み出ている事は、すでに有名ですけども、三船敏郎もまた、かなり凄絶な体験をしています。


彼の実家は写真店で、三船は家業を継ぐべく、写真撮影の技術がありました。


その技術を買われ、三船は神風特攻隊として出撃するパイロットの最後の記念撮影(要するに遺影となるわけです)という、かなり辛い仕事をしていました。


これから死んでいく人たちの、しかも、戦争末期には、10代後半の、大して訓練も積んでいないような少年パイロットの遺影を撮り続けていたらしく、ホントに辛い思いだったようです。


この事を息子に泣きながら語っていたそうですね。


三船は、徴兵されて、なんと、7年間も兵役にいたのですが、上等兵までしか昇進していません。


普通、こんな事はあり得ないのですが、三船はよく上官に意見をしたりする、上からかなり睨まれていた存在であったらしいです。

 

三船軍人役を結構やってますが、勇ましい役は全くやっていません。


岡本喜八の代表作の一つ、『日本で一番長い日』で三船が演じる阿南惟幾陸相は、中国大陸に展開している多くの陸軍将兵の立場を考え、彼らを守るべく必死で抗弁し、最後は責任をとって切腹するという役回りです。


本作も、能力はありながら、上官に反抗するために、中国北部の激戦地に左遷されてしまう曹長です。

 

f:id:mclean_chance:20190506135031j:image

三船敏郎のアクションが素晴らしいです。


しかも、その部下は学徒動員された音大生です。


派遣された先の司令官が仲代達也というのは、なかなか笑えます。


三船と仲代は、黒澤明椿三十郎』でも浪人と悪徳大目付の右腕役で対決していた事を踏まえての配役ですね。

 

f:id:mclean_chance:20190506135114j:image


椿三十郎』は大ヒットしていましたから、岡本監督のイタズラですね。


兵員不足を理由に、軍楽隊は実働部隊に改編され、三船はこれを訓練し、八路軍のゲリラに奪われた陣地の奪回をすることとなるんですね。

 

f:id:mclean_chance:20190506135211j:image


岡本作品らしい、太々しいまでのバイタリティで描いているのですが、よくよく考えてみると、こんな状態になっての戦争というのは、もはや正気ではないですよね。

 

f:id:mclean_chance:20190506135305j:image
f:id:mclean_chance:20190506135309j:image

伊藤雄之助佐藤允、団令子というキャスティングがこれまた絶妙!


三船たちの悲劇的な顛末は実際見ていただくとして、サム・ペキンパーもビックリなほどの凄絶な戦闘シーンは、今もって驚きます。


役者としての三船のキャリアハイは本作かもしれません。


あまり知られていない作品かもしれませんが、是非とも見てもらいたい作品です。

 

f:id:mclean_chance:20190506135249j:image

黒澤明作品とはまた一味違う三船敏郎を見ることができます。