とにかく見せ方のうまさに感心しました。

クレイグ・ギレスピー『アイ、トーニャ』


正直、そんなに期待して見たわけではないんですけども、コレがめちゃくちゃ面白かったですね。


ナンシー・ケリガン選手が、リレハンメル・オリンピックの直前に何者かに殴打された事件は、まあ、大々的に当時騒がれていて、日本でもワイドショーでデイヴ・スペクターが大活躍してましたよ(笑)。


でも、なんも頭に入ってこないんで、当時は何の事がわからず、トーニャ・ハーディングが襲撃したのか?とすら思えてくるような報道の勢いでした。


しかし、真相は、アホなDV元夫が虚言癖のデブのショーン・エカートと共謀して行われた犯罪でした(本来の筋書きをショーンが暴走させて起きたのでした)。

 

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アホのジェフ(左)とただのデブのショーン(左)。


この事件の経緯を明らかにするだけだったら、別にドキュメンタリーでもいいわけなんですけども、本作は、あたかもドキュメンタリーのような手法を使いかながらも、トーニャ・ハーディングという1人の人間を巧みに浮かび上がらせていくんです。


オレゴン州ポートランドに生まれたトーニャは、父親が愛想を尽かして出ていってしまうほど、母親が心底クソで(笑)、その独裁者のような母親の圧倒的な影響下のもとで、育っていくんです。

 

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鬼のように(という鬼そのもの)トーニャを追い込む母親。ものすごく口が悪いです(笑)。


元父親からの仕送りとウェイトレスの仕事でなんとかカツカツで生活しているビンボな家庭環境で、周囲にいる人間もやっぱりアホでクズみたいな連中ばかり。。


酷いことに、後に夫となる口ばかりが異様に達者で、すぐにトーニャに暴力を振るうどうしようもないジェフ(母親も相当なDVをかましますよ。ドン引きします)。

 

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こんなアホと結婚してしまうんですね。。

 

金銭的には相当苦しかったと思いますが、それでもど根性でスケート界で台頭していくんです。


まあ、要するに、ものすごくガラの悪い育ちでありまして、ほぼギャングスタの生活では。としか思えないような場面すら出てきます。


そんな悪童キャラをアメリカのスケート協会はとても嫌がってまして、彼女の得点を不必要に厳しくジャッジしてたんですけども、当時、伊藤みどりしか成功させていなかったトリプルアクセルを成功させる事で、評価せざるを得なくなるんです。

 

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トリプルアクセルを史上2番目に成功させた瞬間!


こうして書いていくと、なんとも暗い絵が浮かんでくるんですけども、ギレスピー監督はコレを実に手際よく、広告代理店にかつて勤務していたという経験を活かしての、流麗なテクニックで見せるんですね。


本作は、トーニャ、ジェフ、ショーン、ゴシップ専門のテレビ番組のスタッフ、そして、母親の証言という形で進むんですが、トーニャとジェフの夫婦ゲンカでトーニャがデカいう銃を撃った!とジェフが証言した絵をそのまんま再現させながら、その銃を撃ったトーニャがそのまんまカメラ目線になって、「私はこんな事はしてない」と言わせるんです。

 

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インタビューに答える体の現在の母親。反省している様子はなし(笑)。肩にとまっているオウムがツボです。


こういうシーンがいたるところで頻繁して、観客を心地よく混乱させるんです。


当時の語り手と現在の語り手がそのまんま地続きなんですよね。

 

コレに近い方法は、2019年現在放映されている、大河ドラマ『いだてん』でも多様され、ここでは、古今亭志ん生が演者と語り手、そして、50年ほどの年月を行ったり来たりさせてますね。


ケリガン襲撃事件はほとんど事実の再現のみに徹して、ここは面白おかしくしてません。

 

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ナンシー・ケリガン。銀メダリストですが、選手としては凡庸でした。

 

 

ぼ本作はとにかく、クズとクソがメインキャストで(笑)、こんなアホな連中がこんなとんでもない事件をしでかし、それに巻き込まれる形でフィギュア・スケート界から永久追放されてしまったというバッドエンドなのですけども、なぜか見終わった印象が不思議と全く悪くないです。


結局、トーニャを強くしているのは、どんなに否定しても、あのクソ独裁者のような母親から叩き込まれたド根性であり、それが彼女をリレハンメル大会に出場させたという事なんですよね。


トーニャは、恐ろしいほど母親と似てます。


余りに似すぎている事がこの親子の関係を煉獄にしてしまったとも言えますし、それが不屈の闘志の源にもなっています(現在は造園家として、娘と穏やかに暮らしているそうです)。

 

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細巻きタバコの吸い方がものすごくイライラさせます(笑)。


そんな「オイディプス王」を見事に演じたアリソン・ジャネイがアカデミー助演女優賞なのは、むべなるかな。


私はトーニャ・ハーディングをリスペクトしますよ、ガチで。


必見。

 

 

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