フランクリン・J・シャフナー『パピヨン』
かつて仏領ギネアは、フランス本国には囚人を送り込む、事実上の流刑地でした。
金庫破りと殺人(殺人は冤罪です)で終身刑となったパピヨン(スティーヴ・マクイーン)と贋国債作りで逮捕されたルイ・ドガ(ダスティン・ホフマン)は同じ船で、ギネアに護送されています。
護送船がすでにクソ暑くてキツいんですね。
ちなみに、ギネアはアフリカにある現在のギネア共和国ではなく、南米にある、現在も海外県として存在する地域です。念のため。
現在は約20万人ほどの人口だそうです。
当時の囚人への扱いは恐ろしく過酷で、本作の見せ所はそれを克明に描くことです。
フランスの司法官僚の血も涙もない冷酷さ。というのは、映画史の1ジャンルと言ってよいと思いますが、本作は冷酷非道感(特に誰かを狙い撃ちして懲らしめているとかではないのに)がすごい映画で、当のフランス人は、コレを見てどう思ってるのか、聞いてみたいモノです。
『フレンチ・コネクションpart2』や『ジャッカルの日』など、ハリウッドは一時期、ヤケにフランスを舞台にした映画を撮ってましたが、本作は、その代表作といってよく、先ほど挙げた作品ともども、ホントに素晴らしいです。
人間を極めて合理的に管理する事を執拗なまでのタッチで描く監督の拳には、力がみなぎっているのが伝わってくるような作品で、ギネアに到着するまでに、フランスの役人たちの冷酷ぶりがイヤというほどに味わえますね。
チラッチラッとヴェトナム人と思しき人が肉体労働をしていて、足りない労働力を仏領インドシナからも連れ出してまで、囚人を徹底的に管理するすごさ。
サン・ローラン刑務所の所長の挨拶もすごく、整列している囚人たちの目の前にギロチンが設置されていて、「脱走を企てる者がこうである」と、宣告すると、ギロチンがサーっと降下してきて、瓜を真っ二つにするのです(笑)。
規則を守るように。以上。
南米の熱帯雨林気候のクソ暑さが全編にわたって横溢している、このイライラ感。
そして、ほとんどの映像がドロドロの泥んこ、ジャングル、そして刑務所という、モテ度-100万点の映像の中で、あのカッコいいアクションスターのマクイーンが、ストーリーが進むごとに酷くなっていく、なかなか壮絶な作品です。
独房入所前
独房入所後
私は、とりわけ、前半の刑務所シーンが圧倒的にすごいと思いました。
この、どんな逆境にも屈しない、不屈の精神。というものを脚本にさせたら、ダルトン・トランボーの右に出る者は、ハリウッドにはいないでしょうね。
クビだけを出させて、警棒でクビを締め上げて自供させるという、絶対抵抗不可能な仕掛けに見える、近代フランスの冷酷性。
なんとか脱走しようとするパピヨンと刑務所でなんとか快適に暮らしていこうとするドガ。
しかし、パピヨンとドガ、そして、ゲイの青年と脱走する、実際は大見世物のところが今ひとつで、散漫な印象を受けますね。
なんというか、シャフナーの監督作である『猿の惑星』っぽくね?と感じなくもなく、マクイーンがチャールトン・ヘストンに見えてくるというか。
が、しかし、そのピリオドの打ち方は見る前に知るとつまらないので書きませんが、ボヤッとしている観客を一挙に引き寄せます。
本作は、脱走を企てた本人の手記(結構、面白く盛っているらしいですが・笑)に基づく娯楽作品なのですけども、ルイ・ドガとのバディものとして、大変な力作だと思います。
ジェリー・ゴールドスミスの曲も、彼のキャリアでは最高点に近いのではないでしょうか。
意外にも、アカデミー賞などなど、あらゆる映画賞で無冠ですが(監督賞はあげても良かった気がしますけど)、大スターをダブルキャストにして、しかも予算をいっぱいかけて制作する、みなぎる力作として、今見ても全く古さを感じない映画でした。
エンディングロールの、1973年当時と思われる、すでに廃止された(あまりに人権侵害という批判があったのでしょう)サンローラン刑務所が延々と映し出される映像は、今となっては貴重であり、圧巻です。