シリアスなテーマを「6歳の子供」にもわかる観点で描く痛快作

ジョナサン・デミフィラデルフィア


1993年公開なんですね。もう結構昔の映画になっていますねえ。

 

もう古典的名作と言ってよいと思いますので、ネタバレ全開で進めていきます。


人々の偏見と戦う。というのは、アメリカ映画の一つの普遍的なテーマだと思いますけども、本作は、同性愛とエイズ。という1980年代のアメリカで猛威をふるった問題であり、前者は現在進行形でセンシティブはテーマを、真正面から扱っている作品です。


こういうテーマを、社会派の巨匠、シドニー・ルメットが扱うと、かなりシリアスな作品になったでしょうけど、デミはそれを、カラフルで流麗なカメラワークでポップな感覚で見せるのが実に痛快なんです。

 

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思い切りカメラ目線で演技をさせるなど、時折ハッとするようなショットが見られる。

 


デミが有名になったのは、『サムシング・ワイルド』という、これまたポップでストレンジで分類が難しい作品でしたけども、あの曰く難いポップなセンスが全編を覆っております。


その意味で、本作の前に撮られた、デミの最も興行成績が良かった映画であろう、『羊たちの沈黙』はむしろ異色作であり、本作の持つ、ラヴリーさこそ彼の持ち味のような気がします。


さて。


事実として、アメリカの同性愛者の中でエイズが爆発的に蔓延していたのは事実でして、当時、同性愛者であった有名人の多くがエイズで実際亡くなっています。


フレディ・マーキュリー、ジョルジュ・ドン、キース・ヘリングミシェル・フーコーなどなど。


この事から、エイズを「同性愛者に感染する病気」という誤ったイメージが流布してしまいました。


本作は、ゲイでエイズを発症していることを隠していた弁護士を演じる、トム・ハンクスと、彼がエイズを理由に解雇されたのは不当であると弁護した、デンゼル・ワシントンを主演とする作品です。

 

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ゲイでエイズ患者である事を理由に法律事務所。解雇したのは不当であるという訴訟です。お話しのメインは裁判シーンなのですが、訴訟ものに付きまとうような、怒涛の弁護士間のやりとりでもないんです。

 


実際の民事訴訟もそういうものなのだと思うのですけど、結構、淡々と進むんですよ。


しかし、デンゼル・ワシントンと法律事務所側の淡々としたやりとりの中でも、チラッチラッと両者の火花をいいタイミングで放り込むので、裁判シーンがつまらないということは全くなく、むしろ、そこがジワジワと面白いんですよね。


こういう対決モノは、ヒールが立ってないと全くダメですが、メアリ・スティーンバーゲン演じる、爽やかスマイルで、トム・ハンクスをジワジワと追い詰めていく様が見事でした。

 

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訴えられた法律事務所側。

 

主演の二人がとても素晴らしいので隠れがちですが、彼女は本作の影の功労者でしょう。


本作のもう一つのテーマは、デンゼル・ワシントンの変化です。


同性者への嫌悪を家族にもハッキリと表明しており、エイズへの偏見も強い弁護士を演じるワシントンは、当初はハンクスからの弁護の依頼を断っているんです。

 

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しかし、図書館で訴訟のための準備をしているハンクスがエイズ患者である事から周囲の利用者から明らかに嫌がられているのを偶然見かけてしまい(自分で弁護人をしてでも裁判を起こすつもりだったのですね)、弁護士としての正義感から、これを見かねて弁護を引き受けるんです。

 

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その彼の、同性愛者とエイズへの偏見がどうなっていくのかが、実は裁判以上にじつは大切なテーマのような気がします。

 

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引き受けた訴訟から、彼自身もゲイであると誤解されてしまいます。

 

 

本作で繰り返される、「6歳でもわかるように言ってくれ」というセリフは、まさに本作の核心であり、あらゆる人々にこの問題を理解してもらいたいという、デミ監督の願いが込められているのでしょう。

 

もう20年以上も前の映画なのに、ここで扱われる問題は、現在のアメリカや日本で噴出しているという現実がある事を、改めて考えさせられる、ジョナサン・デミの最高傑作です。

 

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私たちが真に「兄弟愛」を持つことができるのはいつの事なのでしょうか。

 

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