ローラ・パーマーの後半は一切いらないのではないか。

デイヴィッド・リンチ『Twin Peaks : Fire Walk with Me』

 

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テレビシリーズへの怒りの表明でしょうか。この後、テレビを思いっきり破壊します(笑)。


邦題は本作の内容を的確な表しているとは言い難いので、原題のままで。

コレ、公開当時に見た時は、正直、アタマを抱えてしまいました。

というのも、何か、もっと続きがある上での一部を見ている気がしてならなかったからです。

で、それは当たってまして、テレビドラマ放映から25年後に続きが放映される事となりました。

この完結編とも言える続編は、全てリンチが自ら監督し、脚本もマーク・フロストと完全に協力して全話を書き上げました。

そして、予想をはるかに上回る傑作である事に驚いてしまうのと同時に、この続編が、映画版に描かれていると事とものすごく結びついている事がわかりまして、改めて見てみると、なるほど、そういう事だったのか!とスンナリわかってくるんですね。

ローラ・パーマーの殺人事件の一年前に起こった、テレサ・バンク殺人事件の捜査から本作は始まるのですが、この捜査を行うFBIのチェット・デズモンド特別捜査官(恐らく、ジャズミュージシャンのチェット・ベイカーとポール・デズモンドの名前をくっつけたものでしょう)は、ゴードン・コールやデイル・クーパーとともに、「青いバラ事件」を追っていたのですが、彼も捜査中に失踪してしまいます。

 

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デズモンド特別捜査官。

 

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胸には、「青いバラ」が。詳しくテレビ新作をご覧下さい。

 

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コレも実はヒントです(笑)。


実は、失踪したのは、彼だけではなく、デイヴィッド・ボウイ演じる、ジェフリーズ特別捜査官も失踪していました(続編では触れられませんでしたが、ウィンダム・アールも失踪してます)。

 

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失踪していたはずのジェフリーズが突然FBI本部に現れます。彼がいう「ジュディ」はテレビ新作で最重要タームとなります。

 

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止まっている絵なので、わかりづらいですが、クーパーが画面に固まって当たり続けて、その横をジェフリーズが歩いているというシーン。コレと似たシーンは新作の第17話で出てきます。


結局、クーパーも失踪しているんで(笑)、この事件に関わる人間は、コールとダイアン、アルバート以外は全員失踪しているんですね。

 

デズモンドはテレサ・バンクス、ジェフリーズはジュディ、そして、クーパーはローラを追いかけているという事で、失踪した3人は、実は同じ構図になっています。

 

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テレサ・バンクス。


この事はこの映画版ですでに示されていて、「青いバラ」をデズモンドが捜査している事も示唆されてたんですね。

また、テレサ・バンクスが住んでいたトレーラーハウスの管理人をしていたのは、改めて見ていると、ハリー・ディーン・スタントン演じる、カール・ラッドでした。

 

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管理人のカール。リンチ作品にはチョイチョイ出てくるハリー・ディーンですが、2017年に亡くなりました。合掌。


そして、ここにあの「6」の番号のある電信柱がありましたね。

 

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続編で何度も出てくる電信柱ですが、もう出てきていました。

 

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デズモンド特別捜査官もこの電信柱が気になっています。

 

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デズモンド失踪後にクーパーが現場を訪れます。

 

ブラックロッジへの道は、電線、もしくは電気を介して繋がっている事が続編で描かれていますので、ここで仄めかしたのは、デズモンドの失踪は、やはり、ブラックロッジと関係があり、「ボブ」もまた、コレを通って移動している事がわかりますね(その近くにテレサ・バンクスが住んでいました)。こういう謎解きが、テレビでの続編を見ると、一挙にわかってくるんですね。

映画版で唐突に出てくる「コンビニエンス・ストア」は、テレビドラマ続編で何度も出てきます。

 

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映画版だと唐突な「コンビニエンス・ストア」ですが、新作ドラマだと何度も出てくる重要なシーンとなります。こういう所がリンチ/フロストの油断ならない所です。

 

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要するに、この映画版は、新作テレビシリーズを見ないと、よくわからないような作りに初めからなっていて、そりゃ、わからないわけなんです(笑)。

ただ、本作は、ローラが「ボブ」に殺害されるまでの7日間を追うという、ホントにリンチがやりたかったのかどうか疑問の展開がかなりの部分を占めているんですけども、正直、ココは面白くないと思います。

ローラの最期は、映像化するよりも、観客の想像に託したほうが良いことぐらい、リンチ/フロストがわからないとは到底思えないのですが、『ツインピークス』が『誰がローラを殺したんだ?」という所にばかり注目されてしまい、シリーズの途中で、犯人を明らかにせざるを得なかった事は、リンチ監督にとって、最も不本意だったと思われ、それを映画でもやらざるを得なかったのは、かなり辛かったでないかと思われます。

よって、リンチの演出もローラ・パーマー中心のシーンになると、俄然、気が抜けて凡庸に見えます。

ローラと友人達を演じる役者たちの力量不足も目立ち、見ていて辛いですね。

 

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あっちゃ〜、ドナ役が変わっている。コレは痛恨事であります。恐らく、ハードなシーンをやりたくなかったのでしょうね。。


ツインピークス』の中で、ジェームズやボビー、ドナと言った友人たちが語っているローラをただそのまま映像化しているだけで、特段それに意味があるように思えません。

すでに「ボブ」が何者なのかも、テレビドラマで見て知っているわけですから、オチがわかりながら見ているサスペンスなど、面白い筈がありません。

 


このように大変問題が多い作品なのですが、前半のテレサ・バンクスの事件の面白さがバツグンなので、そこだけを見て、ローラ・パーマーのお話しは一切見ない。という見方もあるでしょうね。

 


テレビドラマの新作を見た方には、前半は必見だと思います。

 

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一応、ローラの魂は救われたのだ。という終わり方です。リンチも納得してない気がしますけど。