ジェイムス・アイヴォリー『眺めのいい部屋』
ジョージに興味を持ち始めるルーシー。
付き添い人のシャーロットはイギリスを代表する女優、マギー・スミス。
イギリスの文豪、フォースターの原作の映画化。
すでにかなりのキャリアを積んでいたアイヴォリーがついに、決定的となる作品を撮った作品と言ってよく、ここから、アイヴォリーの監督としての評価は世界的に高まっていきます。
フィレンツェを観光で訪れたルーシーは、「眺めのよい部屋」を予約したつもりでしたが、実際はその反対側の部屋となりました。
20世紀初頭まで、こんなにカッチリとした服装だったんですね。
ちょうど、「眺めのいい部屋」だったエマソン親子は、「だったら、私の部屋と交換してもいいですよ」といいます。
エマソン氏の申し出をルーシーの付き添い人である、シャーロットは断ります。
自分たちよりも階級の下の人間に借りを作るなど以ての外だったからですね『結局、交換するんですが)。
「眺めのいい部屋」です。
この感覚は、もう現代の日本人にはわからない感覚ですね。
しかし、本作で重要なのは、このイギリスの階級社会です。
ルーシーは、このたまたま部屋を譲ってくれると申し出てくれたエマソン氏の息子、ジョージの事が気になって仕方がありません。
このルーシーの心の動きを、彼女の弾くピアノ曲で表現しているのが、とても面白いですね。
と彼女の心は、婚約者であるセシル・ヴァイズではなく、ジョージ・エマソンに向かう。というのが大筋のストーリーなんですけども、この、ほとんど古典的な恋愛劇を、敢えて現代風にアレンジするでもなく、むしろ、そのまんま再現しているところにアイヴォリーの真骨頂がありますね。
コレは、その後の彼のフォースターやカズオ・イシグロ作品の映画化にも踏襲される方法論です。
本作では、ルーシーよりも更に階級が上である、ヴァイズ家との婚約を破棄して、ジョージとの結婚を選ぶという、ヴィクトリア朝の厳格な社会規範が少しずつ崩壊し始める予兆を描いているんですが、たった100年前のこの出来事が、もう現代の感覚とコレほどまでに違ってしまっているんですね。
20世紀初頭のブルジョワジーの世界を美しく見せます。
個人的には一番ツボのキャラクターはビーブ牧師(一番左)。
ダニエル・デイ=ルイス、若い!
若い男性が全裸で水辺でキャッキャするシーンは日本公開当時は、かなりカットされたみたいです。
なんというか、「常識」とか「社会規範」というものは、実は相当アヤシイものなのだ。という事が、結構わかってきますよね。
それは、ゲイであるアイヴォリー監督の、セクシャル・マイノリティがごく普通に社会に受け入れられる時代がいずれ来る事を暗に示しているのかもしれません。
後に撮られた『日の名残り』と比べると、もう少し内面の掘り下げが欲しい作品ですが(主人公ルーシー役のヘレナ・ボナム=カーターがまだこの頃は演技力不足です)、ダニエル・デイ=ルイスやマギー・スミスの見事な演技と美しい映像は、やはり見る価値があります。