サイコホラーというやり尽くされた感があるジャンルをそう感じさせない黒沢演出が素晴らしい!

黒沢清クリーピー

 

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大学教授に転職し、新居に移ってきた夫婦は一見幸せそうだか。

 

現在、世界で最も評価されてある日本の監督の1人である、黒沢清の近作なのですが、私は今まで全く見たことがなかったんです。

1980年代から評価されていたようなんですけども、この辺でデビューした監督の映画がかなり抜け落ちているのは、私に日本映画への強烈なトラウマを与えた作品が原因なのですが(笑)、その事については以前に書きました。

森田芳光相米慎二は見ることができたので、今年のテーマは、黒沢清ジャ・ジャンクーにしようかと思います。

とある連続殺人犯の事件で重傷を負い刑事を辞職し、大学教授に転職した男(西野秀俊)が、6年前の日野市で起こった家族の失踪事件を調べてみませんか?と、元部下だった刑事(東出昌大)に依頼されます。

 

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元部下を演じる東出昌大

 

元刑事としてのカンが、明らかに何か事件が起こっていると読み、家族の中で唯一取り残された女の子を大学に呼んで、警察やマスコミに一切話さない事を話してもらうことにしました。

彼女は当初、警察から散々尋問を受けた結果、記憶が曖昧で、彼女の供述は役に立たないと判断されました。

しかし、彼女は、最近になっておぼろげながら当時の事を思い出し始めているんですね。

 

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少しずつ失踪前の記憶が戻りつつある。

 

と、1つの謎めいた未解決事件を、犯罪心理学の教授として元部下と調べていくお話と同時に進むのが、竹内結子演じる教授の妻とその隣人である、香川照之のお話しです。

 

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 次第に西野家と親しくなるが。

 

教授の夫妻は、実は稲城市に引っ越してきたばかりで、そこは新居でした。

その隣に住んでいるのが、香川照之とその娘と妻なのでした。

お話しではもう一つの隣人が出てくるのですが、これは説明を省きます。

教授も香川照之演じる、西野という隣人をどこか胡散臭い男がとは思っているんですが、事件の調査にのめり込んでいます。

しかし、この隣人西野が、誠に独特なキャラクターでして、このキャラクター造形がホントに見事です。

時折、「えええっ⁈」とほとんどワザとらしいくらいにおかしな驚き方をするんですが、それがホントに異様でどこか笑えます。

 

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とにかく独特のウザキャラぶりが素晴らしい香川照之

 

と言いますか、ここまで書いてませんが、この話、登場人物が香川照之だけでなく、どこか全員不自然で、ものすごく低体温というか、演技が不自然に抑制されていて、特に、西野秀俊は、感情があんまりないみたいな演技を敢えてさせています。

コレは明らかに黒沢清の演出なのですが、それが始めの1時間くらい掴めないんです。

しかし、それがある出来事がどーん!と起こることでそのタメみたいなものがものすごく効いている事がわかります。

サイコサスペンス。というのは、ヒッチコック的に心理描写やカメラアングルに凝る方向にどうしても向かいがちで、プライアン・デパルマはそういう事を臆面もなくやりますけども、黒沢清はもうさすがにそれをやめてしまって、全く違うアプローチでサイコサスペンスを撮ってますね。

そこがもう只者ではないです。

季節感もあんまりない(一応、夏なんですけども、寒々しくも見えるんです)、登場人物も大体体温が低い感じで、香川照之をやり過ぎなくらい気持ち悪さ満点に演じさせるというやり方は、ちょっと見たことがないような独特な演出です。

この類い稀さが世界で高く評価されるのだなあ。と納得できます。

本作はサスペンスなので、これ以上内容には立ち入りませんが、笑ってしまうほどの人工的な演出と、ジワーッとと押し寄せるコワサが奇妙なバランスで成立していて、余り見たことがないタッチの映画で驚きました。

コレは香川照之の代表作の一つとなったのではないでしょうか。

 

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