『ツインピークス』の要素はここにすでに出来上がっていました。

デイヴィッド・リンチブルーベルベット

 

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オープニング。青いカーテンを赤くしたら、ブラック・ロッジですよね。

 

コレはホントに何度見たのかわからないほど見ましたね。

リンチの作品で一番好きな映画は何ですか?と言われるとやっぱりコレです。

彼の作品で一番最初にハマったのは、あのテレビドラマ『ツインピークス』がキッカケでしたが、ほの主演が同じカイル・マクラクランなので、レンタルビデオで借りて見たんですけども、たまげましたね(笑)。

なんだこの映画はと(笑)。

 

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この呑気な映像にロイ・オービソンが歌う「ブルーベルベット」がかぶるのですが。

 

ツインピークス』と同じくサスペンス仕立てなんですけども、大学生役のカイル・マクラクランが、お父さんのお病気のお見舞いに行った帰りに、耳の片方を拾う。というところから、好奇心でアレコレ調べ始めるというところが、何やら青春ムービーなのですが、そこから先がリンチなのですね。

 

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耳を拾うっていう発想がすごい。。

 

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恋人のローラ・ダーンと興味本位で片耳事件を調べはじめる。

  

その片耳を切り落とされた男と息子が人質にされていて、言うことを聞かされている人妻がいるんです。

その女性を奴隷にして言うことを聞かせているのが、デニス・ホパーなものだから、大変なんですね(笑)。

 

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デニス・ホパー演じる最高のキャラ、フランク・ブース!

 

ホパーが演じるフランク・ブースという男は、なぜか酸素ボンベを常に携帯していて(笑)、タイトルにある通りの青いベルベットが好きなんです。

まあ、ベルベットフェチなんですね。

その女性を演じているのは、ロベルト・ロッセリーニ監督と大女優イングリット・バーグマンの間に生まれたイザベラ・ロッセリーニです。

 

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ロッセリーニ本人に歌わせてますが、めちゃ歌がヘタです(笑)。

 

彼女は売れない歌手なんですけども、彼女の家にマクラクランが興味本位で浸入してしまった事から、彼の住む、ツインピークスよりも更に田舎町にとんでもなく病的な連中がいる事が判明していくんです。

 

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ロッセリーニの自宅に潜入してマクラクランが見てしまったものは?

 

どうですか?

コレだけでも『ツインピークス』とかなり似ていると思いませんか?

マクラクランの彼女役はローラ・ダーンですが、このマクラクランとダーンは、そのまんま『ツインピークス』のジェームズとドナになりますよね。

 

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だんだんとリンチの変態ワールドに取り込まれていくマクラクラン。

 

ここではクーパーに当たるのは、ダーンのお父さん(刑事です)なのでしょうか。

あと、本作が重要なのは、音楽として初めてアンジェロ・バダラメンティが起用された事でしょうね。

リンチとバダラメンティのコンビは映画では『マルホランドドライブ』まで続くことになりますけども(『ツインピークス』の新作で再びコンビが復活しました)、あの独特なリンチの世界観を構築する上で、バダラメンティの音楽を欠かす事は出来ないでしょう。

バダラメンティなのか、リンチのアイディアなのか私にはよくわからないのですが、ロイ・オービソンの曲を狂気や暴力のシーンに使うという発想は、キューブリックが『時計じかけのオレンジ』で「雨に歌えば」を歌いながら主人公のマルカムが男性を殴るシーンよりも強烈なインパクトがあります。

 

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この「エア・オービソン」のシーンは、一度見たらもう忘れられません!

 

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こういう、映像と音楽をシンクロさせていく力は、フェデリコ・フェリーニに匹敵するでしょう。

また、歌姫であるジュリー・クルーズの歌がここで初めて出てくるのも、『ツインピークス』とつながっていきますね。

ただ、『ツインピークス』と違うのは、謎解きはそんなに重要ではなくて、異様な登場人物たちの奇行に力点があるのが、只者ではないんですね(笑)。

リンチは本作の前に『砂の惑星』というSF映画を撮っていて、批評家からも駄作の烙印を押され、興行的にも大惨敗して、ドン底におりました。

最近明らかにされましたが、このSF小説の金字塔的作品の映画化を熱望し、ものすごい準備をしていたのは、当初はアレハンドロ・ホドロフスキーでした。

制作寸前まで話が進んでいたのですが、そのすべてご破算になっていく過程が『ホドロフスキーのDUNE』というドキュメンタリー映画で明らかになっているので、是非ご覧ください。

話が逸れましたが、映画監督としてのリンチの危機的な状況を救ったのが、大物プロデューサーのディーノ・デ・ラウレンティスで、彼がいなかったら、リンチはもう映画を撮る事は出来なかったかもしれません。

かなりの低予算で、撮影期間も短く、役者たちのギャラも相当安かったそうですが、それでもこの傑作をモノにして、現在につながっていく、1950年代のアメリカ文化への偏愛と、そのダークサイドを描いていくという、リンチ独特の美意識が確立し、なおかつ、興行収入も確保したという、リンチ復活のキッカケとなった傑作。

リンチ入門編としても最適です。

 

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 いつの時代なのかわからないのも、リンチ作品の特徴ですね。