ルイス・ブニュエル『皆殺しの天使』
オペラ鑑賞の後の楽しい晩餐の筈が。。
メキシコ時代にブニュエルはたくさんの映画を作りましたが、これもその中の1つ。
フェリーニがこういう映画を作ったら、当然、ニーノ・ロータの音楽がついていて、シルヴァーナ・マンガーノやクラウディア・カルディナーレなどのお気に入りの女優に煌びやかな衣装を着せ、当然、マルチェロ・マストロヤンニが主演でしょう。
で、音楽も登場人物たちも躁病的に盛り上がり、最後は鉄球でお屋敷は崩壊。みたいな(笑)。
しかし、本作の監督はブニュエルです。
大スターは一切出てこず、恐らくほとんどは地元メキシコの役者さんです。
お世辞にも上手い人たちではありません。
音楽は、ピアニストが余興でピアノを弾くシーンと、お客の1人がポロポロと弾いているのを、「病人がいるからやめろ!」と、とめるシーンしかなく、いわゆるサントラはありません。
この音楽がほとんどないというのは、ブニュエル作品の1つの特徴です。
が、この音楽がめずらしく重要な要素になっていきます。
作品のほとんどはオペラ鑑賞のあとに食事に招かれた客と、お屋敷の主人、奥さん、召使いたちが屋敷から出ることなく進みます。
異様なのは、なぜか、この客たちは迎えが来ることもなく、誰一人帰ることができなくなってしまいます。
ブニュエルには、いつまでもご馳走にありつく事のできないという、『ブルジョワジーの密かな愉しみ』という、どこかネジが外れたような傑作がありますが、本作はその原点に当たる作品でしょう。
なぜ出られないのか?
なぜか、兵糧攻めにでもあったように食料はなくなり、誰一人電話で連絡を取ろうともしない。
歩いて帰ればいいのに、それもしないで、ただイライラしている。
しかも、一人は体調が急変しているにも関わらず、誰も救急車すら呼ぼうとしない。
結局、男性は死んでしまうのですが。。
ブニュエルはなぜ帰れないのかへの説明は一切しません。
やがて、警察や家族たちが屋敷に殺到するのですが、彼ら彼女らも中に入る事ができません。
どうして誰も踏み込もうとしないのか。
中は水すら欠乏して、とうとう水道管を壊して直接飲む始末です。
ほとんど唯一医者だけが理性的な行動をし、ヒステリーやパニックになりそうになる客たちをなだめています。
幻覚まで見てしまいます。
この不条理な寓話は最後、トンでもないラストを迎え、観客は完全に置いてけぼりを食らうのですが、コレは見ていただくほかありません!
どうして教会なのかは見てのお楽しみ。
エーッ!と大声を上げざるを得ないラスト!! カンヌ映画祭で観客は呆気にとられたとか(笑)。