記念すべき200本目は、ケン・ローチ!

ケン・ローチ『私はダニエル・ブレイク』

 

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永年のキャリアを持ちながら、それに反比例する日本での知名度の低さはまことに腹立たしい限りですが、ケン・ローチ監督はコレに対して淡々と作品を作り続ける事でしか答えないところがまた彼らしいですね。

彼の作品が今ひとつ知られる事がないのは、故ない事ではありません。

有名な役者は一切出てきませんし、題材はいつもイングランドの労働者階級を扱っていますので、アクションもサスペンスも一切ありません。

逆に言うと、全く売れる要素がないのに、映画製作をこれだけ長い間やり続けていると言う事が、驚異的なのですが。ケン・ローチは莫大な利益は上げてはいないでしょうけども、確実にその価値を理解してくれる人々が少なからずいて、そう言う人々からの支援で映画を撮り続ける事が出来ているのでしょうね。

今回も、ダニエル・ブレイクという、ニューキャッスルで大工を長年やってきた、頑固なオヤジが主人公のお話しです。

このダニエルは、心臓発作を仕事中に起こしてしまい、医者から仕事は控えるように言われてしまいます。

しかし、役所の調査によって、「勤務可能」という審判が出てしまい、手当てが役所から貰えないことになってしまいました。

 

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大工仕事一筋だったダニエルは、「インターネットを使え」の役所の言い分に悉く苦しめられる。

 

 

ダニエルには、精神を患っている妻がいて、介護をし続けていたんですが、亡くなってしまいます。

しかし、その大変な生活が祟ったのか、その後、仕事中に心臓発作を起こしてしまったんですね。

ダニエルは役所に不服を言うのですが、役所はとにかく手続き通りやりなさい。ネットから申請してください。の一点張り。

仕事柄、インターネットの必要性が全くなかったことから、どうしていいのかわからないことを訴えても一切助けず。

と、そんな時、子供連れの若い女性が手当てをもらえない事に抗議しているではありませんか。

 

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道に迷って時間に間に合わなかった事を訴えても、役所は一切きいてくれない。。

 

 

ダニエルはこの女性、ケイティと2人の子供を不憫に思い、いろいろと助けるようになります。

 

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ダニエルとケイティたちとの交流が素晴らしい。

 

 

この作品では、一貫して役所のひとたちの対応がダニエルやケイティたちの窮状に応えず、むしろ、彼や彼女の生活を苦しめる方向にしか導かない事ですね。

 

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医者は仕事はムリと言ってるのだが。。

 

 

心臓が悪いのに、失業手当ての申請を受けるために一定時間就職活動をし続けないといけないという、ほとんど不条理な状況にダニエルは陥ってしまうんです。

なんというか、イングランドの福祉の仕組みの冷酷さが浮き彫りになってくるんですね。

まだ公開されたばかりの作品なので、ネタバレはこの辺にしておきまして、なぜ、こんな何の変哲もない人たちを登場人物に選ぶのか。が、ここまででもわかってくるのではないでしょうか。

ケン・ローチ監督は、イングランドのシングルマザーや病気によって働けなくなった人々への行政サービスの不具合となぜ、彼ら彼女らが貧困状態から抜け出せないのかを見事なまでに明らかにしているのですが、コレは、誰にでも起こりうる事であるわけですから、どうしても主人公たちは、スター感が漂っていては、説得力がありません。

有名な役者が一切出てこないのは、この問題に共感をもってもらうためのケン・ローチの演出なんですね。

その辺がネオ・リアリズモなんかが考えるリアリティともまた違います。

それにしても、こういう余りにも身近な問題をコレだけ丁寧に扱って、なおかつ、劇映画としてちゃんと面白くみせてしまうローチ監督の手腕には相変わらず脱帽です。

彼が映画を作り続ける根底には、社会の不合理への怒りを持ち続けているからなのでしょうけども、それ以上に感じるのは、名もなき庶民たちへの温かい眼差しが本作でも横溢している事でしょうね。

一見、ニューキャッスルは冷たい街のようですが、ダニエルの隣に住んでいるアフリカ系の青年など、ダニエルたちを助けてくれる人たちが少なからず出てきます。

こういう善良な人たちの良心を描いているところが、ケン・ローチの素晴らしさだと思います。

ラストシーンはサラッとしてますが、見終わった後にズシンと来る重さが見事でしたね。

もっと多くの人に彼の映画を見てもらいたいものです。

ちなみに、本作はカンヌ映画祭パルムドールを受賞しました。

 

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