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偉大な芸術家の死を悼む。

鈴木清順ツィゴイネルワイゼン

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死人のようなのに、一番元気に動き回る、原田芳雄

 

初めて見た時の衝撃は未だに忘れられないですね。

初めて見た清純の作品は『けんかえれじい』で、高橋英樹のほとんど初主演くらいの作品だったと思いますが、はち切れんばかりのエネルギーの通奏低音に、軍部の台頭という、暗い世相が描かれている傑作で、恐らくは清純監督自身の青春時代が反映した作品なのでしょう。

コレに対して、『ツィゴイネルワイゼン』はたまげました(笑)。

一見、同じ監督とは思えないほどにアナーキーデカダンで死の匂いが全編に充満した、とても異様な作品で、こんなの見たことがない(笑)。

 

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大正デカダンを独自の視点で蘇らせる手腕が素晴らしい。

 

戦前の有閑階級のお話しで、やたらとメシを食っているシーンばかりが出てきて(コレがやたらとう美味そうなんです)、あくせく働いている気配が全くなく、登場人物は何だかみんな生きていないような気配すらする。

 

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この器の配置もなんとも異様です。

 

いつ、どこかのかはあんまりハッキリしないですけども、大正時代なのでしょう。

セリフに「ハイフェッツを聴きにいった」とあるのですが、関東大震災はお話の中で起きていないようなので、1917年の出来事ですし、大谷直子演じる原田の奥さんが亡くなる原因であるスペイン風邪の流行は1918〜19年なので、つじつまが合う事は合うのですが。

この、いつどこだかもハッキリしないし(後半になればなるほどそうなっていきます)、登場人物がまるで幽霊みたいで、一応、時間の経過はあり、ストーリーもしっかりあるんですが(笑)、全体的な印象はとても夢幻的で、悪夢的という、もう清純にしか撮り得ない、全く独特の世界になっています。

日活時代の清純は、言ってしまえば、小林旭宍戸錠といった、日活のアクションスターを主人公にしたプログラム・ピクチャーの映画監督でしたから、ここまでぶっ飛んだ映画は撮っていませんでした。

しかし、そのような映画の中で、「清純的美学」としか言いようのない映像が必ず挿入されていて、他の日活映画とは明らかに違うものを放っていました。

本作は、その異彩の部分だけ、即ち、日活を解雇されて、全く映画が撮らなくなってしまった苦境からようやく脱出できたという、開放感を、一挙に爆発させた作品といえ、清純作品の中でもとりわけ異彩を放っているものと思われます。

この清純のイメージを忠実に再現した、木村威夫の美術のすごさは、やはり、特筆すべきで、原田芳雄の家に招かれた藤田敏八が一緒に食べている牛鍋に「ドチャッ」という異様に強調された音とともに鍋に乗せられるちぎりこんにゃくや、藤田の妻の役を演じる大楠道代が腐りかけた水蜜桃を食べるシーンなど、生理にまで訴えかけてくる言い知れない不気味さを見事に演出しておりますね。

 

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食べるシーンがそのままエロスとタナトスを想起するというのは、日本映画ではほとんど見られませんね。

 

思うに、鈴木清順が大正時代にものすごい執着を持って映画を撮っていたのは、あまり、前後の日本が好きではなかったのだろうと思うんですね。

なんでも合理的で効率がよくなっていって行くことにとても嫌悪感があったのではないか。

なので、モダニズムとプレモダニズムが混交していた大正時代への愛着を映像化し続けたんではないかと。

ただ、その執着というか、妄想が他の誰とも違っていてあまりに独特なものですから、私たちは度肝を抜かれてしまうんですけども(笑)、清純が私たちに見せてくれる、幻惑の美に私は酔いしれるばかりです。

明らかに、ブニュエル『アンダルシアの犬』、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『情婦マノン』の引用があります。

 

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ハイ、同じですね。

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適当な映像が見つからなかったのですが、原田芳雄大楠道代をこのように担ぐシーンがありますよね?

 

元気のいい死者/死んだような生者を演じる原田芳雄の役(明らかに薬物中毒です)はある意味、これまで彼が演じたきた無頼漢のヴァリエではあり、定番ではありますけども、藤田敏八が演じる静かな狂気をたたえたドイツ語の教授
が素晴らしいですね。

 

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映画監督としても素晴らしい業績をのこした藤田敏八

 

原田芳雄がいつものさすらいをしている最中に唐突に死んでしまってからの展開は、もう鈴木清順の独断場。

 

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こういう唐突なシーンがフト油断していると、パッと挿入されて驚くんですよね。参ります。

 

いやー、またしてもトコトン堪能させていただきました。合掌。

 

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