タワーレコードへの愛に満ち溢れたドキュメンタリー。

Collin Hanks『All Things Must Pass』

 

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タワーレコードの栄枯盛衰記をひたすら草創期の人々の証言を中心に巧みに構成されたドキュメンタリー。

なんと、最初はドラッグストアの一角で、中古のシングル売ってたのが始まりだったんですね。

それが、アメリカ西海岸という、自由な環境な中でドンドン大きくなっていく様が実に生き生きと描写されていて、実に面白かったですね。

服装に一切決まりもなく、売れない頃のミュージシャンが結構働いていて(デイヴ・グロールはワシントンDC店の店員でした)、店員も二日酔いで働いていたり、事務所で寝泊まりしているような豪傑もいたようです。

ミュージシャンも多くきていたようで、中でもエルトン・ジョンはサンセット大通りにあるタワーレコードにデカイ車で乗り付けて、自宅用、別荘用に必ず2~3枚をセットにして買いまくり、とんでもない量のレコードを毎回買っていたようです。

 

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エルトン・ジョン

 

まあ、要するにヒッピーの溜まり場になっていて、ある種の水滸伝の豪傑みたいな人たちの坩堝だったんですね、当時のタワーレコードは。

 

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いやー、行きたかったなあ、この頃のタワーレコード

経理を担当している方がかなり現実的な人だったので、創業者ラス・ソロモンの梁山泊の頭目のようなあり方をうまくコントロールしていたようで、だからこそ、ビジネスでもちゃんと成功できていたようです。

とはいえ、この経理担当の方も、私生活は毎年スポーツカーを買っているようなド派手な生活してたみたいですけど(笑)。

やはり、日本への出店のくだりは、日本人としては興味深かったです。

回転とともに渋谷店にお客が押し寄せた映像は感慨深いものがあります。

この日本への進出が余りにもうまく言ったのが、タワーレコードを調子に乗せてしまったのでしょう、そこからの人々の証言が、儲け話ばかりになって言って、ドンドンつまらなくなっていきます。

 

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絶頂期のラス・ソロモン。

 

経理担当のバドがタワーレコードを辞めてしまい(数年後に亡くなります)、時代がインターネットへと移行していくと転げ落ちるようにタワーレコードの業績は悪化していき、正直見ていられなくないですね。辛い。

タワーレコードの転落はそのまま現在の音楽業界全体の危機であったので、どんなに堅実に経営していても、やはり、厳しい状況に置かれたのは、間違いないでしょう。

第1号店のサクラメント店が閉店するに辺りが店頭を飾ったのが、タイトルである「All Things Must Pass」だったんですね。

ロックファンの方でしたら、コレがジョージ・ハリスンの大作アルバム『All Things Must Pass』から取った事はすぐにわかると思いますけども、ラストにラス・ソロモンが日本のタワーレコード平和島の本社を訪れるシーンは、音楽好きには涙なくして見ることはできないでしょう。

 

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コレがタイトルの元となったジョージ・ハリスンのアルバム。

 

バックに流れていたのは、そのジョージ・ハリスンの「All Things Must Pass」でしたね。

実はこのアルバム、ビートルズ時代に作っていながら、ジョンやポールに反対されてアルバムに入れることができなかったものばかりでして、ビートルズ時代の無念を晴らしたアルバムとしても大変有名です。

LP3枚組にもかかわらず、なんと全米1位を獲得し、「My Sweet Lord」はシングルとして大ヒットしました。

今後、こういう録音された音楽がどのように聴かれていくのかは、私にはわかりませんが、「いい音楽を人々に分かち合っていく」という、ラス・ソロモンの思想は無くなることはないでしょう。

 

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