山口和彦『女必殺拳』
志穂美悦子の名を世に知らしめた、「女必殺拳シリーズ」の記念すべき第1作。
監督が鈴木則文と思っていたら、彼は脚本のみで参加してるんですね。
千葉真一率いるJACの名の名声を「サニー千葉」とともに世界中に轟かせたの功績は決して小さいものではありません。
志穂美悦子のアクションがガチですごいのは、もうオープニングで充分証明されてますので、是非とも。
それにしても、中国に返還される前の香港はいいですよね、怪しくて。
『Gメン75』の特別番組でも、やたらと香港ロケがあったような気がしますけども、そういう、「エキゾチズム」を身近に感じさせる都市でした。
ただし、本作では香港ロケは一切ございません!残念!
志穂美悦子の兄は、「セントラル貿易」という会社が行なっていると思われる麻薬密売の捜査のためにGメンとして東京に行ったのですが、行方不明になってしまいました。
兄の行方不明を伝えられる志穂美悦子。
なぜか、拳法の使い手をたくさん養っている貿易会社なのが不思議なんですけども、昔の娯楽映画は、そういう敢えて脇が甘くできているところが素晴らしいですよ。
ご覧ください!このバカ煽り!!
ストーリーはですね、どうって事はないんですよ(笑)。
それは悪口ではなくて、そこにそんなに力点はないんです。
もう、志穂美悦子の素晴らしいアクションを見て欲しいんです。
ヌンチャクの見事なさばきを見よ!
身のこなしが生半可でなさすぎて、もう振り切れてます。
中国人と日本人の混血という設定も要するに拳法の使い手。という事にしたいが為のご都合主義なのであって、特に意味もありませんし、演技もさしてうまいわけではない(後に、アクションから演技派にシフトしていきますが)。
というか、そこを千葉真一も鈴木則文も求めていなくて、その初々しさ、演技ではないアクションの純粋な素晴らしさを彼女に体現してもらいたかったんだと思います。
彼女の身体能力は、ちょっとやそっとの特訓などで身についたものではなく尋常なレベルではありません。
ちょうど、フレッド・アステアがダンスをトコトンまで極めたのと似ています。
当然の事ながら、千葉真一のアクションも出てきますので、ご安心を。
都合のよいタイミングで現れる千葉真一。
なので、撮影もアクション以外はかなりボヤッとしていて、テレビの『仮面ライダー』くらいのクオリティではあります(笑)。
その点で、ジャッキー・チェン主演のカンフー映画と比べると、見劣りする所があります。
未熟な拳法家のジャッキーが老師匠にしごかれて敵討ちをするという決まりのストーリー展開ではあるんですが、その話しのディテールの詰め方が、シッカリしてるんですよね。
この点が、スッカリ斜陽になってしまった、当時の日本映画の厳しい現実ではあるんですけども、それでも藤田敏八などはそれを逆手に取った映画を撮ってますからね。
しかし、彼女を後継するようなスターは未だに日本には存在しない事を考えると、志穂美悦子の日本映画史における凄さがわかるというものです。
現在は、長渕剛の奥さんとして、芸能界を引退してしまいました座が、その決して長くはない芸能活動において、刻印した強烈な映像は今以て強烈なインパクトを与えます。
鈴木則文が自ら撮っていたら、もっと長くて面白いシリーズになった可能性があるんですけども、当時、「トラック野郎シリーズ」があったので、ホントにもったいないですね。
追伸
この作品に出てくる「少林寺拳法」は、日本で生まれた拳法です。念のため。