ハワード・ホークス『リオ・ブラボー』
すごい。
冒頭4分間一切セリフなしで、お話しの構図を全部説明しつくしてしまう圧巻の編集とカメラワーク!
別に派手な動きは一切ないのに、なんですかね、このカッコよさ。
アル中で文無しフラフラのディーン・マーティン(なぜそうなったのかはお楽しみに)が酒場をフラついていて、コレを見た男がカネを恵んでやろうとするが、痰壷に放り込んでニヤニヤしている。
アル中で萎えてしまったディーン・マーティン。
それでも酒の飲みたさに痰壷に手を突っ込もうとするのだが、痰壷を蹴り飛ばす足が。
パッと見上げるようなショットで保安官のジョン・ウェイン。
カネを放り込んだ男は、いきなりウェインを殴り倒し、男に襲いかろうとする者を早撃ちで射殺。
男はそのまま店を出て、何軒か隣の酒場に入って飲み直す。
そこにライフル銃を持ったジョン・ウェイン。
「お前を逮捕する」
ここで初めてセリフ。
ほお、できるんですかい?と男は笑う。
彼のシマなのだ。客は全員彼の手下なのだ。
写真ではこの素晴らしさが伝わらない!
そこにディーン・マーティンがスッと入ってきて銃を奪ってウェインをサポート。
ウェインはすかさず頭目をライフル銃で殴り倒して逮捕。
こうして、ウェインとマーティンのコンビが誕生(実際は復活)です。
この冒頭からシーンの手際の良さは余りにも神がかっていて、とても1959年の映画とは到底思えないです。
なぜ、ハワード・ホークスをゴダールやトリュフォーが熱狂的に擁護していたのかは、この冒頭だけでわかってしまいます。
さて。
この逮捕された男は、ジョー・バーデットといって、兄のネイサンは大地主です。
ネイサンはこの逮捕に一切抗議せず、手下を潜入されて街を遠巻きに監視しているのです。
このお話しが一筋縄ではいかないのは、このネイサンは広大な牧場を経営する金持ちなんですね。
要するに、カネの力にモノを言わせて、自分の言い分を通そうとしているんです。
およそ法治国家のありようとは思えないような実態ですが、20世紀の初頭まで、アメリカはこんな国でした(笑)。
『シェーン』にしても、土地問題を解決する手段は結局は拳銃による実力行使です(これはワイオミング州で起こった実話がベースになっているんですね)。
こういう世界において「正義」を確立するという事はどういう事なのか?というのが、アメリカの歴史であり、西部劇から刑事もののアクションに至る、アメリカ映画(最近だと、ジャック・バウアーという事になるでしょう)の普遍的なテーマです。
要するに、正義が行政組織とか、企業とかにないんですね。
オレが正義なんです。
常に連発式のライフルで武装しているウェイン。
ここでは、ジョン・ウェインという保安官がそれを体現していて、誰がなんと言おうと、彼は自分の正義のために断固として行動するわけです。
コレをアメリカ人は、是。と考えるわけですね。
こういう一徹の人を使って、合衆国の理念を、各地域に徹底させたわけです。
アメリカ人の保守が銃規制に断固として反対するのは、こういう歴史があったからですね。
あくまでもできの悪い弟が殺人を犯してしまった。というキッカケではあったのですが、結局はこの大土地所有者であるバーデット一族と保安官は「正義」を巡って衝突せざるを得なかったと思われます。
この保安官と地主がトコトン癒着していけば、メキシコになっていくわけです、アメリカ合衆国は。
さて大幅に脱線しましたが(笑)、バーデット一味にずっと監視されているため、保安官たちは街から一歩も出られない。という状況を逆手に取った、ものすごく限定された空間でのみドラマが展開するという面白さ。
主要人物の見事なキャラ立ちと演技の素晴らしさが、笑いなどのアクセントになっているうまさ(ホークスはコメディ映画が得意でした)。
ウォルター・ブレナンの巧みな演技がシリアスな話しの潤滑油になっています。歯が抜けてまくっているので、しゃべりがフガフガしてるのもよい。
アメリカのアクション映画に与えた影響は余りにも計り知れません。
キレのいいガンアクション!
ジョン・ウェインというと、ジョン・フォードとの一連の作品が有名ですが、『赤い河』と本作を見ると、ハワード・ホークスとの相性はフォードに決して勝るとも劣らない事がよくわかります。
ちゃんとムフフなサービスもございます!
蛇足ながら、「必殺シリーズ」テーマ曲は、本作のテーマ曲に着想を得たものであります。