濃厚です。

エミール・クストリツァ『ジプシーのとき』

 

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ベルハン一家。狭いながらも楽しい我が家。

 

冒頭から漂う、独特の可笑しみ。

いい映画というのは、始めの10分が面白くないとあとはもう全くダメですが、コレは合格ですね。

音と映像の量がとにかくすごい。

酔っ払ってひっくり返ってる新郎をどやしつける新婦。

その近くで博打に興じる男たち。

その男での場面に転ずると、何やらアメリカ制作の科学番組が放映させる中で体調が悪く呻いている女の子(どうやら妊娠しているらしい)。

コレを看病する孫のベルハンに七面鳥をあげる祖母。

これに怒るおじ。

唐突にアコーディオンの演奏。

この間にもテレビの音はうっすら聞こえていて、今度はそこに近所のおばさんが乗り込んできて、口論。

で、この間にもずっとアコーディオンの演奏が続いていて、外ではよくわからんカラテみたいな稽古しているベルハンのおじ。

この男の無節操をおばさんは抗議に来ているのだ。

で、外ではカラテ?の掛け声、中ではアコーディオン

そして、口論。

とにかくクストリッツァの映画はうるさいの笑)。

フェリーニと呼ぶには、なんとも泥臭くて野暮ったいし(それを監督はねらってるわけですね)、オルトマンと呼ぶにしてもあまり機能的ではない。

いつも画面で複数の動きがあるので、騒がしいのである。

で、1つの出来事に常に収斂しないように意図的に作ってるんですね。

コレを全編にわたってやり通すんです。

 

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名シーンの1つ。ジプシーのお祭り。

 

役者たちがみな生き生きとしてますね。

ゴラン・フレゴヴィッチの音楽がこれまた素晴らしい。

この映画の公開は1988年なので、まだユーゴスラヴィアが崩壊する前の平和な時代なのですが、ユーゴスラヴィアに住むジプシーは、ムスリムなのですね。

経済的に豊かとは言えないのようですが、独自のコミューンを形成していて、石灰を作って売ったりしてビジネスを成り立たせているようです。

さて、ベルハンの家族を紹介しましょう。

主人公のベルハンは、こころ優しい少年で、女の子のアズラと結婚する事を夢見ています。アコーディオンを弾く事ができます。

妹のダニラは脚が悪くてベッドで過ごしがちです。

おばあちゃん(名前が出てきません)は、いわゆるメディシンマンの能力があります。ベルハンにも多少その能力が伝わっているようです(スプーンを壁に貼り付けたりできます)。

 

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チャールズ・ロートンにそっくりなおばあちゃん。

 

ベルハンのおじさんのメルジャン はバクチに入れ込んでましまっていて、もうやってる事がメチャクチャで家を破壊したりとやりたい放題です。

 

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家を破壊してしまうメルジャン。

 

そして、ベルハンの飼っている七面鳥です(途中でおじさんに料理されてしまいますが・笑)。

この映画を見ていて感じるのは、ジプシーたちの情の濃さですね。

イタリア映画もすごいですが、その10倍といいいますか。

人間と人間の生のぶつかり合いが濃厚なんですよ。

カルピスの原液を更に3倍濃くしたような感じです(?)。

あとですね、いろんな映画の露骨な引用が結構あります。

アーメドが『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドーみたいに話したり、ベルハンが『勝手にしやがれ』のジャン=ポール・ベルモントになったり。

全体的な画面作りはホドロフスキー『エル・トポ』の第2部を意識してるんでしょうかね。

ジプシーのコミューンには、経済的な成功者のアーメドがいて、彼の息子をおばあちゃんが呪術で直したことがあり、その返礼としてダニラの脚をスロヴェニアの首都、リュブリャナの病院で診てもらう事になりました。

 

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ベルハンも病院までついていくのですが、手術が必要な事がわかり、滞在費を捻出できないため、アーメドについて言って、ミラノまで行く事になりました。

 

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アーメドのビジネスというのがすごくて、子供達をたくさん使って物乞いをさせると言うもので、よくそれでクルマとキャンピングカーが買えるよな。というものなのですが、ベルハンも空き巣を生業とするようになります。

アーメドが心臓の持病が悪化して、物乞いビジネスの地位をベルハンに譲ってしまうと、彼のサグライフが始まりまして、完全に『スカーフェイス』のアル・パチーノになりますが(笑)、ここから先は実際に見てのお楽しみに。

なかなか一筋縄ではいかない作品です。

 

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