小川紳介『ニッポン国古屋敷村』
なかなかソフト化されることのなかった小川プロダクションが数多く制作してきたドキュメンタリーが、現在、続々とDVDとなって、ようやく本作を見る事が出来ました。
養蚕、炭焼き、米作りなどを生業とする山形県の山村、古屋敷村の1年を記録したドキュメンタリー。
小川プロダクションの得意とする、スタッフ全員が完全に村に住み込んでジックリと撮影された大作ですが、ユニークなのは、最初は稲の作付けについての様子が村人へのインタビューを交えながら非常に淡々と続きます。
ドライアイスを使って、どのように冷気が村に降りてくるのかをシミュレート。
なぜ、冷害が起こるのか、これを防ぐためにはどうすればいいのか?だけでなんと、60分近くあります。
次はワリというおばあさんが古屋敷村に嫁いでからのお話し。
コレが驚異的です。
日本人のはずなのですが、字幕がなくては半分もいってる事がわかりません。
炭焼きと米作りの苦労話を小川監督が自らインタビューしながらおばちゃんが話します。
ここまでで前半です。
後半は村で唯一炭焼きを行う、養蚕を行なっている花屋家(石碑には花谷。とありますけど)とその分家のお話しが中心となります。
個人的にはここがとても面白かったですね。
花屋家は獣を鉄砲で獲ることを代々生業にきたが、祟りを恐れて熊の供養塔を建て、狩りをやめてしまう。
はじめは弘さんの行う炭焼きの様子です。
続いて、フィリピンとサイパンで息子2人を亡くしたお母さんのちうさんの話し。
祟りを信じて家業の熊捕りをやめてしまった五代前の與吉さんについて語る弘さん。
この與吉さんの孫娘のさきに婿養子となった清三郎で、この夫婦が分家して2人の間に生まれた子供がこれまた與吉といいます。
この與吉さんの奥さんのさださんが與吉さんについて語ります(與吉さんを「じじちゃん」と呼びます。かわゆす)。
この與吉さんは村のほとんどの人が行う炭焼きではなく、木炭を馬で運んで行商することを生業にしていたようです(冬に手があかぎれになるのがイヤだったみたいです)。
それから、村人のためにまとめて買い物をしていて、コレもいいビジネスになっていたようです。
このドキュメンタリーを撮る一年前に與吉さんは亡くなっていたので、炭焼きの行商やお買い物引き受け業についてのお話は聞けてません。
次はその分家の養蚕に話が移ります。
與吉さんは、商売が軌道にのると、土地を買って稲作を始め、養蚕も始めます。
しかし、これが、GHQの農地改革によって当時、たったの3000円(米一俵買えない値段だ。さださんは証言します)とで買い取られてしまうんですね。地主ですので。
本家もかなり土地を失ったようです。
その與吉とさだの娘がサヨさんで、婿養子に熊蔵さんを迎えました。
養蚕と稲作を行なっています。
熊蔵さんは志願して陸軍に入隊し、満州に旗護兵として行くことになります。
体格が良かったので、上等兵にまで昇進します。
主な任務は占領した鉄道を守ることでした。
反日ゲリラが線路を破壊したり列車を軍用襲撃するんですね。
熊蔵さんはその後満州事変に参加したりなどして、少尉にまで昇進して、最後はソ連に捕まってシベリアに抑留され、昭和23(1948)年に帰還します。
熊蔵さん。
そこから話しはニューギニアに兵隊として行った経験のある鈴木徳夫さんのユーモラスかつ残酷な軍隊経験が挿入されます。
徳夫さん。
靴の裏を舐めさせられて鉄拳制裁食らうという、なかなか、『フルメタル・ジャケット』なバイオレスも回想されますが、ニューギニアで、次第に飢えて兵士がドンドン死んでいく様は、やはり強烈ですが、この人の人柄もあるのだと思いますが、どこかユーモラスです。
この鈴木さんのラッパを吹くシーンは、本作の1つのヤマ場ですね。必見です。
まるで、リュシアン・フェーブルの大著『地中海』のような構成、すなわち、地理、社会経済、政治の順で、語られる限界集落からみた日本近代史。という、非常にユニークな映画。
3時間30分近い作品ですが、全然退屈せずに見る事が出来ました。
コレと『1000年刻みの日時計 牧野村物語』は、小川紳介の双璧ですので、是非ともご覧ください。