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苦い。

マイケル・チミノディア・ハンター


ヴェトナム戦争もの。というのは、一つのジャンルをなしているが(『タクシー・ドライバー』や『ランボー』、(ナッシュビル』も含めていいと思う)、その中でも、『地獄の黙示録』や『フルメタル・ジャケット』(の前半)と並ぶ傑作と呼んでいい作品。

 

とはいえ、『地獄の黙示録』は、ヴェトナム戦争に名を借りたロードムーヴィーであったし、『フルメタル・ジャケット』は、前半の訓練で人間性を失っていって、狙撃マシーンに変貌していく青年の悲劇が強烈過ぎて、後半のヴェトナム戦争のシーンがぼやけてしまっており、本当の意味でヴェトナム戦争の悲劇を描いた傑作は、この『ディア・ハンター』なのかもしれない。

 

それにしても、ヴィルモス・ジグムントのカメラの大きさは、映画史に残る素晴らしさだろう。
この素晴らしさは、映画館で堪能すべきものである。
ロシア系移民の子孫たちが住む、中西部の鉄鋼業の町のから三人の青年がヴェトナム戦争に向かうのだが、冒頭の1時間が結婚式と鹿狩りというのが、なんとも異色。

 

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アメリカには、こんな社会が実在するんですよ。LAはニューヨークだけがアメリカじゃないんですよ。ということを見せてくれるのですが、ロシア正教会が出てきたり、みなでダンスしているシーンだけ見たら、およそアメリカ映画には見えないですね。

 

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そういう、マイノリティへの眼差しが、チミノ監督には一貫してあると思う。
この事が、次回作、『天国の門』で大爆発を起こすのだが、ここでは敢えて深く抉らずに、通奏低音にとどめている。
そこから、場面は一挙にヴェトナムに飛び、デニーロ、ウォーケン、サヴェージはあっという間にベトコンの捕虜という展開が呆気に取られるが、もっとすごいのがベトコンたちのやっていることで、捕虜同士にロシアンルーレットをやらせて、しかも賭けの対象にしているのである。

 

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とにかくエグい。。


余りにも容赦のない描写に、公開当初から、批判も強かったようだが、チミノはこの映画に限らず、暴力表現が振り切れているところに特徴がある。
容赦なく、徹底的に相手を痛めつける。それが戦争なのだ。という事を、グリーンベレーの訓練の経験があるチミノはかなりデフォルメした形で観客に見せつけるのだが、デニーロたちはこのベトコンたちを油断している隙に皆殺しにして、辛くも逃げ出すのですが、ここから三人の運命が暗転していくんですね。
デニーロは、なんとか無事に故郷に帰ってくる。
サヴェージは、ヘリコプターで救出される時のケガで脚をうしなってしまう。
そして、ウォーケンは行方不明。
と、ここから先は、実際に見ていただきたいのですが、映画の構成が二部構成のようになっているのが、『天国の門』と全く同じで、しかも言いたい事も同じ。であることに、今更ながら驚きましたね。
圧倒的な巨大さ、群衆を描く巧みさ、血まみれで容赦のない暴力表現、ルーツロックへの偏愛(妙にザ・バンドとかそのあたりの音楽への愛を感じるサントラなのです)、それらをかなりの長尺で見せるという手法は、『ディア・ハンター』で確立して、『天国の門』で更に推し進め過ぎて、興行的に大失敗してしまうという、何か、「アメリカの傷」をえぐり出した、ロバート・アルトマンとも同じく、マイケル・チミノというのは、呪われた作家の烙印を押されざるを得ない個性だったのかもしれない。

作品に漂う、やり場のない怒りと悲しみこそが、チミノが一番訴えたかったことなのだと思う。

ジョン・ウィリアムズのギターがしみる。

 

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クリストファー・ウォーケンは狂気と悲しみを見事に演じましたね。

 

追伸

マイケル・チミノ氏は、2016年に亡くなりました。合掌。