今見てもビックリな手法で撮られた映画です。

ジャック・ドゥミシェルブールの雨傘

 

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美しいオープニング!

 

1957年11月から始まり、1963年12月からまでの物語で、全編セリフが歌(歌は全員プロの歌手に吹き替えです)という異色の映画。

シェルブールはフランスの軍港でして、ココから、アルジェリア戦争に兵士が送り込まれたんですが、本作はまさにその悲劇です。

 

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カトリーヌ・ドヌーヴ出世作となりました。

 

アルジェリア、仏領インドシナとの植民地戦争の敗北(フランスにとってのヴェトナム戦争です。ちなみに、ヴェトナム戦争は、このインドシナ独立戦争の続きですね)、アフリカ諸国の独立と、第二次世界大戦後のフランスは全くいいところがなく、結果として、戦後成立した第四共和政憲法改正によって消滅し、ドゴール大統領によって始まる、現在の第五共和政となります。

こういった政治的な危機の時代を、ミシェル・ルグランという、当時、フランスどころか、世界でも屈指のポピュラー音楽の作曲家を起用して、彼の才能を遺憾なく発揮させた点でも大変重要です。

自動車修理工のギィと傘屋の店員のジュヌビエーブの悲恋。という、ベタベタなメロドラマが、こうも新しく見えるという、ジャック・ドゥミの演出はやはり並外れたモノがあります。

私は基本的に映画は白黒である。という原理主義者ですが、1950年代から1960年代にかけてのフランス映画の色使いがものすごく好きで、偏愛していますが、この映画の成功のかなりの部分は、そのコミック寸前まで徹底された配色ですね。

それにしても、セリフがすべて歌。というのは、一歩間違うとほとんどキワモノですが、それをそうしないルグランの才能ですよね。

ちょっと突き抜けた仕事だと思います。

本作をミュージカル。と呼ぶのは私は躊躇があります。

それはセリフが歌なだけで、登場人物は踊ったりしないからであるのと、音楽が一切途切れずに延々と続くからです。

ミュージカル映画は、延々と音楽が鳴ってることはありませんし、普通のセリフのシーンもありますからね。

ほぼ、全編にルグランのサントラが貼り付いているというのは、ハリウッド映画にもありません(笑)。

そういう意味で、コレは「ジャック・ドゥミ映画」としか言いようがない特異な作品です。

ありとあらゆる意味でキワモノ要素だけでできているわけなのですが、これらが合わさった結果として見えるものは、フランスにしか作り得ない名品というのがとても不思議です。

ジャックのドゥミの才能は、まことに特別なものですね。

彼は全く独自のジャンルを作ってしまったようなものです。

  

ジュヌビエーブの母が経営する傘屋に役所から8万フラン(当時はどれくらいの価値なのかわからんですが)の税金を払えという通知が来てしまい、やむなく母は宝石を売ってお金を作ることとしました。

 

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 宝石を売って何とか金策しようとするが。

 

宝石商のロラン・カサールがたまたまその窮状を知って、コレを助けようとします。

このロランとジュヌビエーブを結婚させようと、母親は思いますが、ジュヌビエーブはギィと結婚したいと思います。

しかし、ギィには、招集令状が来てしまいます。

 

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メインテーマを歌うギィとジュヌビエーブ。

 

アルジェリア戦争に派遣されるわけです。

この時にジュヌビエーブとギィによって歌われる曲は、本作のメインテーマで大名曲です。

ココまでが第一部。

 

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第二部は、1958年1月のお話しで、実は、ギィとの間に子供ができていたことが発覚します。

母は、カサールと結婚させることを諦めていません。

じつは、カサールは前作『ローラ』の主人公です。

本作では宝石商に出世してるんですね。

ドゥミはどうもバルザックを尊敬していて、彼の「人間喜劇」技法を採用しているんですね。

困ったことに、このカサールはとてもいい人で、よくできている。

 

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カサール、ママ、ジュヌビエーブ。


しかも、ギィとは違って金持ちです。

ジュヌビエーブのお腹は大きくなっていきますが、カサールはそれでも受け入れます。できた人です。

 

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お腹が大きくなって隠しきれくなった。

 

で、2人は結局、結婚してしまいます。

 

と、あらすじの説明はここまでにしておきましょうか(スジがわかっていても特に差し支えない作品ではありますけどもも)。

こうしてあらすじを説明していると、もう、ほとんどプッチーニのオペラですよね。

それが20世紀中頃に置き換わっているだけで。

ある意味、これは「最後の19世紀」とも言えますね。

そういう意味ではとても反動的な作品ではあるんですけども、ジャック・ドゥミは人間というものは、いつの時代も同じことで苦しんでいるのであって、大切なのは、それを現在生きる人にどのように見せるのか。ということと考えているようで、徹底した文法破壊それ自体が痛快なゴダールとは、同じ「ヌーヴェル・ヴァーグ」に括られながらも、かなり違います。

私の唯一の不満は、ジュヌビエーブ扮するカトリーヌ・ドヌーヴでしょうか。

ドヌーヴは結構老け顔で顔が役者として出来上がりすぎていて(それ自体は悪いことではありません)とても清純な女の子に見えないのです。

本当の天使であるジュヌビエーブ・ビュジョルドが演じたら、どんなによかったでしょうね。

ま、アレだけシッカリと主演をやってるので、贅沢な不満ですが。

 

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