ジョーゼフ・ロウジー『エヴァの匂い』
赤狩りで本国を追われ、ジプシー監督となったロウジーが放った、鋼鉄製のヌーヴェル・ヴァーグ。
フランス人よりももっと乾いていて冷徹ですね。こわいです。
書いた小説が映画化されて一挙に金持ちになった作家のタイヴィアン。
ヴェネツィアでのレセプションに招待されて浮かれております。
場面は一転して、ジャンヌ・モロー演じるエヴァが浮気相手と一緒に雨宿りをするために窓ガラスを壊してとある家に侵入しました。
ホテルへ帰るボードが壊れてしまったんですね。
ヴェネツィア特有の事情です。
移動手段が車ではないんですね、この街は。
しかし、その家が小説を書くために借りたタイヴィアンの家でした。
ビリー・ホリデイの歌う「Willow Weeps for Me」のレコードをかけながら、堂々と風呂を沸かして入っているという。
肝が太い。というのをはるかに超えた狼藉ぶりであります。
そこにタイヴィアンが帰ってきます。
しかし、モローは全く動じる気配もなく、「メシいんない」とサッサとベットルームに行ってしまいます。
部屋でジャズを聴いているというね(笑)。
連れの男は、要するにアッシーでして、ヴェネツィアまでの飛行機代やら宿泊代やらを出してあげたり、絵画を買ってあげたりなんかしてるんですけども、態度が余りにも傲慢なので、タイヴィアンはこの男を雨の中、追い出してしまいます。
「やっと2人になりましたね。ウッシッシ」とタイヴィアンは迫りますが、エヴァは一発かまして気絶させてしまいます。
2人のローマのデートシーンが異様で素晴らしいですね。
黒人のパーカッション3人と黒人ダンサー1人がパフォーマンスを繰り広げるお店のいかがわしさがいいですよね。
ホントに映画的な表現で、パッと出の人ではできない演出です(ロージーは1909年生まれで、ヌーヴェル・ヴァーグよりも一世代前の監督です)。
それにしても、どのシーンも非常に音楽が優れてますけども、音楽を担当しているのが、ミシェル・ルグランですね。
ミシェル・ルグラン。未だに現役です!
彼の仕事でもベスト3に入るんではないのか、というくらいに音楽が見事です。
ジャンヌ・モロー演じるエヴァは、一体何を考えているのか、ほとんどわかりません。
男は利用するための道具である。
自分以外を信じずに生きているのはわかりますが、なぜそうなのかはわかりませんね。
そんな彼女にタイヴィアンはのめり込んでいきます。
彼にはフランチェスカという婚約者がいるのにです。
こんなに美女なのに!くー。
そういうわけのわからないもの(それが女というものなのだ。とロウジーは言いたいのでしょう)に、溺れていく演出をビリー・ホリデイ、パーカッションとダンスを駆使するうまさ。
とうとう、3万ドルの仕事を捨てて、ヴェネツィアの高級ホテルでのアヴァンチュールを選んでしまうという、一線を越えてしまうあたりで完全にタガが外れていきますね。
フィルムノワール的な白黒映像がコレを更に引き立てます。
ココから映画は恐くなってきます。
見ていて思うのですが、増村保造と若尾文子が組んだ映画を思い出しますね、このジャンヌ・モロー演じる太々しい娼婦(ハッキリとは言いませんが『ローマで評判の女だぞ』というセリフがあります)を見ていると。
ただ、ロージーはジックリと容赦なくチェックメイトしていくところが増村とは全く違います。
ロージーは、もっと、欲望というものに廃残していく姿を撮る事に執念があるんですね。
でも、見ていると、コレは1つの愛の形なのかな?という気もしてきましたけどもね(笑)。
さて、皆さんはどうみますか?
とにかくヘヴィースモーカーである。