ウディ・アレン『カメレオンマン』
ちょっとヒネリ過ぎた邦題が微妙ですが、ウディ・アレンの悪意のエンターテイナーぶりが十全に発揮された、個人的にはウディのベスト3に間違いなく入る、大傑作。
TSUTAYAでは置いてたり置いてなかったりしますが、なんてケシカラン事でしょう。
条例で置くことを義務付けるべきでしょうね。
レナード・ゼリグ。というユダヤ系アメリカ人に関する、完全なニセドキュメンタリーで、アレン独特のハッタリとスノッブと自虐ぶりが爆発しまくりです。
冒頭から、スーザン・ソンタグですよ(笑)。
大爆笑!
当時の映像らしきものを巧みに捏造して、ウディ・アレンが演じるゼリグがあたかも1920年代に実在するかのように語るこのインチキ(笑)!
続いて、フォークナー研究をしているアーヴィング・ハウ、小説家ソール・ビロウがゼリグを語ると。
しかも、1920年代の寵児、スコット・フィッツジェラルドがゼリグのことをエッセイに書いているとまで(笑)。
このゼリグという男には、ある性質があります。
それは、他人になりすましてしまう。という性質です。
ヤンキースの練習する球上に近づくと、ヤンキースの選手になろうとしたり、なぜが、チャイナタウンで中国人になっていたり、黒人のトランペッターになったり、精神科医になったり。
コスプレして楽しんでるだけのような気も(笑)。
一体、なぜ、こんな事をゼリグがしてしまうのか、フレッチャー博士(当然、そんな人は実在しません。ミア・ファローです)がゼリグを研究の対象にするんですね。
ウディ・アレンは病院フェチですから、恰も深刻そうに(内心は嬉しくてたまらないのだと思いますが)医者の質問に答えるのですが、もうおかしいのなんのって(笑)。
そうこうしていると、ゼリグという奇人の噂が広まり、マスコミ(この頃は新聞ですが)を通じてドンドン広まってしまい、ゼリグはセレブになってしまうんですね。
精神異常だの、脳に腫瘍があるだの(アレンは病気フェチでもあるので、こう言われた方が絶好調です)、医者たちは、ラジオで好き放題に勝手な推測を喋ったりと、なんだかどこかの国のワイドショーとどっこいどっこいな展開になっていきます。
それにしても、あたかも当時のような写真や映像を大変手間暇かけて作るのが、すごいですわ(笑)。
音声もちゃんとこもってるし。
こんなくだらない事をホントに真剣にやるってなんて素晴らしいんでしょう。
ゼリグへの人体実験も面白いのなんのって(笑)。
しかし、トコトンふざけ尽くしながらも、その本質には、ユダヤ系アメリカ人、それは即ち、ウディ・アレン自身ですが、なぜ、同化してしまうの体質なのか?を解明した結果は、なかなか興味深いですよ。
ココには書きませんけど。
コレをまた物珍しがって、新聞は、面白おかしくゼリグへの分析を書いていきます。
「カメレオンダンス」や「カメレオンの歌」はもう最高にくだらないです(笑)。
コチラがカメレオン・ダンス
ホントに当時っぽく作ってるのが、もう呆れますよ。
要するに、アレンのファンならわかると思うのですが、このゼリグというのは、ほとんど本人と言ってよい。
医者フェチ、病気フェチ、精神科医の扮装大好き。
完全にアレン本人です。
自分の内面を徹底した偽ドキュメンタリーから浮び上らせようという、実にユニークな映画なのですね、コレ。
しかも、騒ぎが大きくなってしまったので、ニューヨークの郊外にあるフレッチャー博士の自宅で記録及び治療を行うことなるという、コレまたカウンセリングフェチなアレンの好みの展開に。
自分のアタマの中を好きなように見せて楽しんでいる風です。
ある意味、ビョーキですね(笑)。
この研究もあたかもホンモノであるように、ユダヤ系オーストリア人の精神分析学者の権威、ブルーノ・ベッテルハイムに喋らせているという念の入れようです。
催眠療法を受けているアレンの語る内容は、完全にユダヤ教とユダヤ社会をバカにしていて、さすがです。
ごっこを劇中で暴かれてアンデンティティ・クライシスが起きているところをミア・ファロー博士が催眠療法で、喋らせている中身がヤラセ。という何重にもふざけた内容が素晴らしいです。
こういう複雑なヤラセの中で、愛を語るという、なんという屈折した人でありましょう。
催眠療法で話す中身はほとんど恋人同士の会話です。
そういう風にしか愛を表現できないところが面白いですね。
それにしても、誰よりも自己主張が強く、個性の塊のようなウディ・アレンが過剰なまでに環境に適応してしまう男を演じているというのもおかしいのですが、そうやって、アメリカ人、とりわけユダヤ系の人々はなんとかアメリカ社会に順応しないと生きていけなんですよね。という事を暗に言っているのでしょう。
最後にアッと驚く奇想天外な展開が(笑)。
80分にも満たない映画ですが、十分に堪能いたしました。
なぜ、2人がパレードの中心にいるのかは、見てのお楽しみに。
それでは最後に、ゼリグを歌ったというニセ流行歌をどうぞ。