市川崑『ぼんち』
大阪の船場で5代続いた足袋問屋の没落した主の回想。というスタイルを取る、山崎豊子原作の小説の映画化。
船場の文化の絢爛さは、谷崎潤一郎『細雪』にふんだんに書いてますが、もう、あの世界はスッカリ失われてしまいました。
後年、『細雪』を映画化する事になる市川崑にとっては、コレは前哨戦とも言える作品であり、そういう意味でも面白いわけです。
増村保造、川島雄三にも起用された船越英二が喜久ぼんのお父さん役(婿養子で立場がとても弱いのがGood)ですが、コレがいいですね。
その奥さんが山田五十鈴(笑)。
実権を握る二人!
なかなか強烈ですよ。
いきなり、主人公の奥さん(中村玉緒です。グフフフ〜)を「船場のしきたり」でいびっておりますね。
こんなに可愛かったんですよ、グフフ〜
祖母まで一緒になっての嫁イビリとは、ヤバいす(笑)。
この河内屋は、女性が実権を握っている商家でありまして、主人公の喜久ぼんは、市川雷蔵。
私は、眠狂四郎とかよりも、こういう役をやってる時の雷蔵のほうが好きですね。
雷蔵は大映に働かされすぎて、過労死したとしか思えないですけども、ホントに惜しい事をしました。
とにかく、異様なほどテンポがよくてこわいくらいですが、自分たちで雷蔵のヨメを選んでおいて、「コイツは態度が悪い」だのなんだの言いがかりをつける、ハハシズムとグランドハハシズムは、雷蔵をグニャグニャの体制順応主義者へと育ててしまったようです(笑)。
結局、生まれた男の子だけ分捕って、嫁の中村玉緒は実家に帰してしまいます。
蔵相の国会での失言に端を発する昭和金融恐慌は、足袋問屋の河内屋にも直撃しましたが、河内屋の店主である船越英二は、実は銀行を幾つかにわけて預金していたので、ダメージが少なくて済みました。
また、一見グニャグニャですが、芸者遊びを結構楽しんでいるんですね、船越英二。さすが船場の商人です。
商売人としては一流である父のもと、雷蔵も一生懸命に頑張るわけですけども、実権は母親と祖母に握られ、婚姻すら握られるのです。
そんなところに出会ってしまう、我らがあやや。
「指輪好きやねん」と、客から貢がせた指輪を見せびらかすようなお下品な芸妓役(芸名はポン太)をやってもあややの美貌は相変わらず。
ポン太と喜久ぼん。
こういう女優さんがなかなかいないんだよね。
宮川一夫のキャメラは冴えまくり、市川崑の要求に見事に応えてますね。
ホントに美しいです。
こういうのを「クールジャパン」というのではないのかと思いますが。
そういえば、あややを主演に起用する大映の監督。と言えば、増村保造ですが、この2人はヤッパリ違いますね。
増村はあくまでもカットしてしまうこと、それ自体が快感であり、画面への猛烈な圧縮が映画への熱気を増していきます。
それに対して市川は、流麗かつスタイリッシュに進めますね。
ハッとするようなアングル、細かいカット数を増やすことによるテンポづくりが素晴らしいですが、増村のように、登場人物の断固たる決断力による物語の推進というものはむしろなく、川が流れていくような中で、登場人物たちの思考や感情はむしろ、取り残されているという印象すら受けます。
雷蔵には、女性遍歴以外にほとんど主体性がないですが、物語はサクサク進むのです。
敢えて淡々と描いている戦争の描き方が独特ですね。
戦争によって、余りにも呆気なく雷蔵の河内屋は没落してしまいます(実際、多くの商人がそんなものだったのでしょう)。
戦後もなんとかしようしたようですが、ヤッパリだめで、スッカリ零落しました。
あと、中年のダメオヤジの役がものすごく上手いです、雷蔵は。
この作品全体を覆う、マザコン的な世界観が見事ですけども、一家の没落をアッケラカンと描いているところが面白いですね。
これをもっとコミカルに描いた、『黒い十人の女』もオススメです。
本編のクライマックスは愛人たちの入浴シーンです!エロたくましいです!
そして、最後の最後に、一番幸せな女性は誰だったのかな?という事が明らかとされます。