コレは怖い。

ジョーゼフ・ロウジー

『召使』

 
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ダーク・ボガードとロウジーのコンビ作品は結構ありますね。
 
コレもその1つです。
 
ダーク・ボガードは何度もハリウッドからお呼びがかかっていたらしいですが、結局、一度もハリウッド映画には出てません。
 
でも、ハリウッドを赤狩りで追放されたロウジーとは何度も仕事してるので、思うところがあったのでしょうね。
 
冒頭にアルトサックスのワンホーン・カルテットの演奏が出てきますが、これは、映画の音楽を担当しているジョン・ダンスワースのカルテットでしょうね。
 
ダンスワースはジャズメンながらも、映画音楽でも成功した人です。
 
ジャズメンなので、サントラは全編にわたってサックスが大活躍で、ほとんどジャズなのですが、映画の音がモノラルなので、合ってますね。
 
奥さんのクレオ・レーンは歌手でして、本作では主題歌を歌っていますがコレがまたイイですよ。
 
ボガードはタイトル通りの召使いを職業にしている人で、トニーという貴族の召使いとして新たに雇われるところから始まります。
 
新居に越してきて、召使いが必要になったからなのですが、この貴族には婚約者のスーザンがおります。
 
たった1人しか雇われてないので、当然ですが全部ボガードがやるのですが(ロンドンの高級住宅みたいなものなので)、そのボガードを婚約者はどうも好きになれないんですね。
 
そんなところに妹のベーラがやってきます。
 
アーッ、『時計じかけのオレンジ』のアレックスに半殺しにされた、あの作家がチョコっと出演してます(笑)!
 
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左がフランクですね。
 
後に政府に「適切に処置」されてしまう、フランクさん(実際はカトリックの神父役ですが・笑)と貴族と婚約者などがレストランにいるシーンとボガードが妹のベーラと駅で出会うシーンが交錯する場面がカメラと編集、音声のうまさを見ますね。
 
とりわけ、レストランのシーン。
 
フランクさん、女性2人はストーリーと全く関係ないのにロージーはパッとショットを入れて、何ということのない会話を入れる。
 
そのリズムですよね。
 
これぞ映画独特の表現だと思います。
 
やっぱり映画は白黒でモノラルでなくては。
 
で、貴族に雇われる事になった妹のベラ、なんと、サラ・マイルズですね。
 
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『ライアンの娘』のロージー役です。
 
しかし、ここからなんだかおかしくなってくるんですね。
 
ボガードとマイルズは貴族が出かけると、突然、勝手し放題を始める。
 
ボガードがなんだかおかしいのは、マイルズに公衆電話から電話した時から少しずつ出てますね。
 
女性たちが「早く電話を切ってよ!」とせがんでいると、「どけこのサノバビッチ!!」みたいなかなりひどい事を言うんですね。
 
なんだか怖いですね。
 
故郷のマンチェスターの母が病気だと言うんで兄のボガードは帰省するのですが、なぜか、マイルズだけ家にいるんですね。
 
貴族さん、だんだん調子が狂ってきますね。
 
このジワジワと何だか変だなあ。を伝える感じ、見事な演出ですね。
 
素っ頓狂な顔をしているサラ・マイルズがうまいですねえ。
 
なんと、貴族さんと関係を結んでしまう。
 
かなりめちゃくちゃでございます。
 
なんとなく、『ブレードランナー』のダリル・ハナが、タイレル社の技術者の家にうまいこと居候していくの件を思い出します。
 
婚約者のボガードへのドSな扱いぶりが見事で、コレを受けるボガードのドMぶりも素晴らしい。
 
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ボガード、マイルズの、貴族が不在時の狼藉は、ますますエスカレートしていくのですが、コレがある日、とうとう貴族さんにバレてしまいます。
 
と、ココまでにしときましょう。
 
ココから先は実際にご覧ください。
 
とにかく容赦ない描き方に、よく上映できたなあという内容です。
 
ロウジーは、アメリカを飛び出してからややしばらく低迷しましたが、脚本家のハロルド・ピンター(2005年にノーベル文学賞を受賞してます)と組んでからはまさに絶好調と言ってよく、主演にダーク・ボガードを起用して素晴らしい作品を作りました。
 
結局、ロウジーはハリウッド時代よりも、このイギリスで一番いい仕事ができてしまったという事になりますね。不思議なものです。
 
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