『アニー・ホール』以後の彼の作品の総決算と言ってよい作品。
とにかく、圧倒的にうまい。脚本、配役、キャメラ、編集、音楽がもうこれ以上ない時くらいに素晴らしい。
強迫観念のように死を恐れるウディ・アレンのシーンにハリー・ジェイムズやロイ・エルドリッチのジャズが流れ、マイケル・ケインのシーンは、バッハ(レコードの針がブレるシーンは、多分、ゴダールをちょこっとやってみたかったんでしょうね)。
時間軸の使い方は、昔からうまいですが、もう余裕綽々ですね。
どうだ、どうだという、突っ張った作品ばかり作っていた若い頃からは考えられないほどの成長が見られますよね。
『カメレオンマン』の実験精神と『カイロの紫のバラ』での人情モノが絶妙なバランスで融合してます。
アレンの延々と続く、インテリの些か神経質なおしゃべりが中心ではなくて、one of themとなり、もっと複雑な人間模様を描いております。
役者一家(この長女がミア・ファロー演じるアナです。アナ。という名前はユダヤ系に多いので、タイトルからユダヤ系のお話であることが、アメリカ人だとピーンとわかるようになってます)の、特に、お父さん、お母さんが出てくると、必ずと言ってよいほどジャズのスタンダード曲が流れます。
ウディ・アレン=戦前のジャズ、長女ハナの現夫マイケル・ケインと三女リーの不倫のシーン=音楽の使い方は、ワーグナーがオペラで多用した、「ライトモチーフ」という技法で映画のサントラでは昔からよく使われていますが、1980年代でここまでベタに使っているのは、ウディ・アレンしかいないでしょう。
書いていて、人間関係が結構複雑なので、ココで整理しておきますと、
長女ハナ(ミア・ファロー)、
次女ホリー(ダイアン・ウィースト) 役者としてパッとせず。ヤク中。なぜか戯曲家に転身。ウディ・アレンと付き合い始める。
ということになりますが、文章だと煩わしいですが、映画を見ていると全くそういう事は感じません。
コレがすごいですよね。
人間関係が錯綜する話なのに混乱しないのは、恐ろしく古典的なライトモチーフという手法を使っているのというところも大きいですよね。
それでいて、単なるレトロ回帰映画ではなく、あくまでも現代のニューヨークの人々をテーマにしてる点が面白いですね。