アンドレイ・タルコフスキー『アンドレイ・ルブリョフ』
ロシアに実在したイコン画家である、アンドレイ・ルブリョフ(1360頃〜1430)の生涯を描く、タルコフスキーの大作だが、彼の事跡はよくわからないところが多いので、様々なエピソードをつなぎながら、そこから、当時のロシアの政治的社会的状況、そして、ルブリョフの画家としての精神を浮かび上がらせようとする作品で、すでに、タルコフスキーのモチーフである、川や炎、馬が大変効果的に使われている、独特の映像美が確立している点も注目に値します。
農村の描き方に、明らかにブリューゲルの絵画の影響がありますね。
リュブリョフが絵を描けなくなってしまう原因となる、異教徒の祭りを目撃するアンドレイのシーンも、非常に素晴らしい。
タルコフスキーは決して万人向けの作家とは言えないので、どなたにもオススメという訳にはいかない人ですけども、一度好きになればトコトン好きになりますね。
本作の残念なのは、肝心のアンドレイ・ルブリョフに今ひとつ魅力がないことでしょうね。
にもかかわらず、本作を素晴らしいと思うのは、長編第3作目にして、すでに後のタルコフスキーにとって重要なテーマや映像が早くも確立している点と、第2部の冒頭に顕著な、まるで黒澤明の映画を思わせるロシアの動乱の見事な描き方(後の作風を考えると、こんなに馬に乗ってる騎馬軍団のシーンが見事なのは、かなり意外ですが)が混在しているところです。
ある出来事をキッカケに、ルブリョフは、「無言の行」に入って、画業を一度捨ててしまうのですが(この、「話すことのできない」という要素も、タルコフスキー作品にしばしば出てきますね)、こうなると主人公ではストーリーが引っ張れなくなってしまうので、ココから一工夫があるのですが、実はココが一番秀逸です。
動乱を描くシーンを見ていると、タルコフスキーは、デイヴィッド・リーンのような監督にもなっていた可能性があったんだなあ。ということを想像してしまいます。
いろんな要素が、上手く溶け込まずに、ごった煮のように混在していて、いささか冗長でまとまりに欠ける作品ではありますが、それでもラストへの怒涛のエネルギーには、タルコフスキーの並々ならぬ、芸術というものにかける執念というものを感じます。
「1423年 鐘」のエピソードは、全体の白眉でしょう。
この一編をだけ見るだけでも、本作は価値があるといいたい。