ちょっと視点を変えると。

ダン・ギルロイ『ナイトクローラー

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昨年見逃していて、ようやく見ました。

コレは、めちゃくちゃ面白かったですね。

昨年の封切りでは、

ゴダール『さらば愛の言葉よ』
イニャリトゥ『バードマン』
ジョージュ・ミラー『マッドマックス

が、飛び抜けてよかったですが、そこに本作が食い込んできました。

ロサンジェレスを舞台とした、クライムものというのは、腐るほどハリウッドは製作してきましたが(ロケーションも地元なのでラクなんですよね)、コレはコレまでのハリウッド犯罪モノの中でもまた新しい段階にきたな。と思わざるを得ない傑作です。

有名な俳優は、レネ・ルッソくらいしか出てこず、主役も世界的には無名ですが、彼が演じる矢沢永吉すらビビるような上昇志向は、ほとんどドン引きもの。

金網のフェンスなどを盗んではカネにしているような主人公、ルイス・ブルームは、何とかして、このドン底生活から這い上がろうとしているですが、たまたま目撃した交通事故現場で目にした、犯罪現場でのひどい様子を撮影して、放送局に売りつけるという商売がある事を知ります。

現在のアメリカは、大学も出ていないような連中は、ボロカス扱いである事を骨身に沁みてわかっているルーは、質屋でソニーのハンディカムみたいな安い機材を買って、見よう見まねで、警察の無線を傍受して事故現場に行ってみても、うまいこと撮れないんですね。

しかし、とある犯罪現場の被害者を別アングルからもっと接近して撮れた映像が売れたことから、ルーの成り上がりライフが少しずつ噛み合ってくるんですね。

インド系と思しき若者を助手で雇って過激な映像を求めてロサンジェレスを爆走しているのですが、だんだん機材が良くなっていって、車もパワーがあるヤツになっていくと。

このエスカレーションが、ルーをドンドンおかしくさせていくのですが、このテの映画では主人公の精神がおかしくなっていくパターンだとおもうのですが、恐るべきことに、主人公はますます元気に、そして、頭脳が冴え渡ってくるので、この人は、根っからこのエゲツない職業が向いてるんですよね(実際、嬉しそうにそう語るシーンがあります)。

利用できるモノは何でも利用し、それは、ほとんど犯罪スレスレ。

一応、ルーの成功譚なのですが、ドンヨリ感がものすごい。

ラストの強盗殺人犯を追い回す描写は、ジェイソン・ボーンのシリーズなどの方がものすごいアクションなのですが、この映画の使い古されたアクション・シーンがこんな風に視点を変えるとおぞましくも残酷に描写できるんですよ。というコトを、見せてくれましたね。

そういう意味で、アクションものは今後、この映画の影響受けたものがでてきそうですね。

そして、主人公の「アメリカン・ドリーム」を手に入れるお話でありながら、全く共感できず、何とも陰鬱なところが90年代リバイバルでもあり、今後、ハリウッドはこの流れが結構出てくるなと見ました。

それにしても、ココまでやらないと、現在のアメリカは、上に押しあがれないのか?と思うと、とても暗澹たる思いがしますね。

私は、心情的には『はじまりのうた』にシンパシーを感じますけども、この徹底してエグみを追求した本作の脚本の持つ力は、認めざるを得ないです。

コレが初の監督作品でだいぶ遅咲きの監督ですが、今後も注目でしょう。

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