肝心なところは見せない。

ロマン・ポランスキ『ローズマリーの赤ちゃん

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正直申し上げると、あんまりホラー映画は好きではないです。

しかし、監督がわれらがロマン・ポランスキ。

この人の、どこか巨匠になりきれないB級感覚がとても好きで、結構好きな監督なんですが、

音楽を担当しているのは、ポーランドジャズを代表する、クシシュトフ・コメダ

戦後ポーランドで初めて世界的なスターとなった、ズヴィグニエフ・チブルスキ同様、事故で若くして亡くなってます。

共産党政権下で作られた『水の中のナイフ』などで脚光を浴びて、アメリカを拠点に映画を作り始めた彼が決定的な評価を受けることとなる映画ですが(同じ年に、あの、チャールズ・マンソンと彼の信徒によって、奥さんのシャロン・テイトが惨殺されています)、主演のミア・ファローは、この映画が初主演で、あっという間に大スターになってしまいますね。

前半のファローが悪魔に強姦される夢のシーンはかなり強烈です。

80年代には、ウディ・アレンのお気に入りでした。

舞台俳優として、少しずつ評価を受けつつあるダンナさんのガイを演じているのは、ジョン・カサヴェテス

映画製作の資金を稼いでるのでしょうけども、こんなに男前な映画監督はそういませんね。

本作はなんといっても、ミア・ファローの身体を張った演技がなんといっても素晴らしいですね。

悪魔に強姦される夢のシーンはポランスキのエゲツない演出もすごいですが、コレに応えるファローもすごいです。

同じ階に住んでいるオバハンは、ほとんど大阪のノリでグイグイと来て(強引にディナーに誘って長々と時間拘束したり、友達のオバハンを連れ込んでおしゃべりしたり)、単にヒョウ柄の服を着てないだけなのが、いいですねえ。

なんちゅうか、生理的にイヤーな感じを表現することにかけて、ものすごくうまいですね、この映画は。

じいちゃん、ばあちゃんのイヤなところを見事に描いているというか(笑)。

こういう感じは荒木飛呂彦先生は相当影響受けてのではないでしょうか(先生は熱狂的なホラー映画のファンとして有名で、新書すら書いているくらいです)。  

あと、ポランスキは何か、「血」というものに妙な執着がありますよね。

飛び降り自殺した女性の頭から盛大に血が噴き出してるところとか、妊娠したかを調べる採血検査のシーンで、ホントの採血をしてますよね(今の映画でこんなことにしたら、アウトなのでは・笑)。

『吸血鬼』という映画をポランスキは撮っているくらいですし、『チャイナタウン』のラストシーンも、フェイ・ダナウェイの頭が銃で撃ち抜かれて、めちゃくちゃになって血まみれ。が最後ですから、この人の奥底に何かこだわりがあるのでしょう。

さて、本作の醍醐味は周到に伏線を張り巡らせておいた前半から、ファローの妊娠が判明してからの後半ですね。

妊娠への不安と体調不良に苛まれるファローのもとに、亡くなった知人の作家から送られてきた本。

一時期、体調を回復させた時に「渡してほしい」と、託された本に、隠されたメッセージ。

いやー、ひっぱる、ひっぱる(笑)。

単にファローがマタニティ・ブルーになっているだけなのでは?と見る側を思わせといて、最後の最後までポランスキは引っ張ります。

コレはホントにみてください。

ホラー映画のコワさよりも、そこまで持っていくサスペンスの力がホントに素晴らしい。

大事なところは一切絵にしない方が、よっぽどコワイ。

アメリカこわし!

最後にニューヨークの市街地が俯瞰で撮られるシーンが冒頭と同じく出てきますが、全然違うものに見えてきますね。コワイです。

とても複雑な生い立ちを持った外国人だからこそ、撮れた傑作でありましょう。

ちなみに、本作の美しいテーマ曲は、ズート・シムズのアルバム、『Zoot at Ease』で取り上げられていまして、ズートの素晴らしいソプラノ・サックスを聴くことができます。

サイドメンのハンク・ジョウンズのピアノが見事にズートの演奏を際立たせています。

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