出演者がことごとくその後有名になっていきますね。



日本映画史に燦然と輝く名作。

彼の才能が見事に爆発した作品で、戦前の日活が時代劇を量産して隆盛を極めていたことがよくわかる作品でもあります。

幕末。なのにタイトルの背景に電車が走っているところからして人を食ってますが(笑)、原作は落語の「居直り佐平次」と「品川心中」がベイスとなっており、それを川島が自己流にアレンジしたものになってます。

佐平次を演じるのは、戦後、ジャズドラマーとして人気を博していた、フランキー堺

ここでの演技が余りにも素晴らしかったので、フランキーはその後完全に俳優になってしまい、彼がジャズメンであったことが忘れられてしまうくらいです(私も彼がジャズメンである事を知るのは、ずっと後です)。

この映画を見ていて心底驚くのは、登場人物の所作がビックリするほど細く演出されていることですね。

品川の遊郭が舞台の作品なので、ロバート・アルトマンの映画のように登場人物が多いのですが、私は幕末期の江戸を見たわけじゃありませんが(笑)、町人の所作が全員見事です。

江戸しぐさ」は、この映画で勉強されるといいでしょうね。

そのクセ、キャメラアングルがおかしかったり、長州藩の連中(井上聞多伊藤俊輔久坂玄瑞です)のコスチュームやメイクはマンガスレスレ(戦前の時代劇は実はそんな感じで、ほとんどコスプレなんですよね)なのが一筋縄ではいきませんねえ。

何しろ、我らが裕ちゃんが高杉晋作やってるのがおかしいですよ。

晋作の刀には、「大日本狂生高杉春風」と彫り込んであるんですが、ほぼ意味合いが、ヤンキーが学ランの裏にする刺繍(笑)。

彼にはほとんど演技指導はなく(してもムダですが)、所作やセリフが完全に現代人。

要するに素のまんまです。

よく、こんな無軌道な演出が日活上層部に認められましたねえ。

結核もちなのに、一番元気に動き回っているのが佐平次。というのがこのお話しの独特の屈折感が出ているところで(川島雄三筋萎縮性側索硬化症でした)、ラストに、佐平次の正体がなんとなく仄めかされるのですが、それは見てのお楽しみ。

岡田真澄に「あっしは品川生まれの品川育ちの生粋の江戸っ子でやんす」と言わせるギャグセンス。

東海道を行軍するイギリス軍のバグパイプの演奏に、日蓮宗の題目を掛け合わせるナンセンス。

細かいディテールのおかしさを挙げればキリがありませんが、実に細かいところにまで神経が行き届いた映画ですね。

脚本に今村昌平が参加し(助監督もやっている)、音楽は黛敏郎時代考証が、なんと、木村壮八という、日活とは思えない豪華絢爛なスタッフに驚きますが、川島雄三はそれだけ日活で有望視されていた監督だったのですね。

結局、日活が肌に合わず、川島は佐平次よろしく、日活を出て知ってしまうのですが。

小津、黒澤、溝口と比べると今でも知名度で負けますが、決して長くない人生で非常に沢山の映画を作った川島の代表作を是非ともご覧ください。

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