1967年公開です。
ということは、出演している人たちのほとんどが、戦争経験者であるというこのすごみ、重み。
しかも、昭和天皇や重臣たちの家族は健在であるわけで、時代的な緊迫感がハンパではございません。
この映画、タイトルが出るまで、ナント、20分もあるのですが、そのタイトルが出る場面が最初の見せ場でして、早くも岡本喜八の演出の素晴らしさに唸ってしまいます。
クーラーもクールビズもない昭和20年8月を、みなさん軍服を着、スーツを着て動き回っているので、登場人物がことごとく汗だくの映画です。
ギラギラした汗の感じは、やっぱり白黒こそあってますね。
鈴木貫太郎が、日露戦争を猛然と戦った人に全く見えず、阿南惟幾が、むしろ、この人がクーデタを起こして、連合軍と本土決戦に入ってしまうのでは?と思うところはありますが、岡本演出は仲代達矢のナレーションを使うことで、事態を観客に俯瞰させ、サクサクとスピーディに展開させていくので、かなり長い映画にもかかわらず、シッカリと見ることができます。
リメイク版は臨場感を優先しているので、ナレーションはなく、しかも、原作や岡本版にもない情報を放り込むので、いささかせわしなく感じ、そこが疲れます。
本作は、リメイク版と異なり、陸軍の動きに重点が置かれてまして(終戦の詔勅が完成するのに、1時間ほどしかかかってません)、陸軍将校によるクーデタに焦点を当てて描いています。
ま、実際、原作もクーデタについての記述がメインなので、リメイク版は半藤一利の原作にかなり盛ってるんですね。
畑中少佐を演じる黒沢年男のイッちゃってる目。ストーリーが進むにつれ、それはドンドンすごくなってきますよ。
陸軍の将校の動きを、畑中少佐と井田中佐に象徴的に絞り込んでおり、こちらのが、わかりやすいです。
これとぶつからないように、鈴木貫太郎が笠智衆(意外と似ている)なのがミソで、詔書に閣僚全員の署名が終わった後に、阿南が鈴木に南方からの土産である葉巻を渡すシーンが、完全に一瞬小津映画になっていて、面白いです。
いつもの笠智衆なのに、腕がないので、ものすごく不気味ですので、必見。
にもかかわらず、風格がちゃんとあるのがすごいですね。
私は岡本版の方が好みです。