ドストエフスキー的な会話中心のSF作品

アンドレイ・タルコフスキー『ストーカー』

タルコフスキーのSF作品としては、『惑星ソラリス』が有名ですが、これもそうなんです。


これでギクリ。ときた方は、かの、『神々のたそがれ』という、トンデモ映画と原作が同じだ。ということで怖気づいたのではないでしょうか。

その予感は少し当たってまして、SF作品ではありますが、宇宙船もエイリアンも惑星間戦争もロボットも何も出てきません(笑)。

SF。を「サイエンス・フィクション」としてではなく、「少し不思議なお話し」と捉える寛容な精神が必要でしょう。

とはいえ、タルコフスキーですから。

超重量級のマジな作品です。これは言っとかないと、後でクレームつけてくる方がいますので、一応忠告しときます。

楽しい映画を見たい人は、悪い事言いませんから、『マッドマックス』の新作を見ましょう。

さて、20年ほど前、ある所に、隕石が落下しました。

軍隊まで動員して調査したのですが、よくわからんのです。

科学者は、その場所を「ゾーン」と名づけました。

あれ?SFじゃないすか。

ハリウッド映画だったら、全米が興行1億ドル突破確実のアクション&サスペンスSF超大作感が満点ですが、冒頭でいきなり白黒で何とも貧乏そうな家族が写っている(笑)。

この家族のオッサンが、前述の「ゾーン」に潜入する事を生業としていて、その職業(?)を「ストーカー」と言うんですよ。

昨今問題視されているアレとはなんの関係もございません。

お話の中心は、このストーカーが、2人の男(作家、教授)を「ゾーン」に連れていく。というのがメインなんです。

というか、登場人物はほぼこの3人のみ!

アメリカ映画だったらここをどれだけ面白く飽きさせずに見せるかに心血を注ぎますが、タルコフスキーが目指しているのはそんな事ではないんですね。

何しろ、あっけないくらい簡単にゾーンに潜入してしまいますから(笑)。

しかし、タルコフスキー的。としか言いようのない、独特の哀感のある白黒の風景は、一体どこの国のどんな場所なのか全くわからないディストピアな感じが見事に表現されてます。

こういうSFの見せ方は、ハリウッドでは考えつかないですよね。

ちなみに、「ゾーン」から、映像がカラーになります。

ここから先は説明を省きますが、これを今見ると、チェルノブイリや福島の原発事故の風景を思い出しました。

そういう恐さが全編にわたって流れていますね。

何も起きない。あるいは、起きしてしまった後を見るこわさ。

当時は、ソ連の核ミサイルの秘密基地などを暗喩していた気はしますね。

別に具体的にそういう事を描いているわけではありませんが、タルコフスキーの描く終末観は、ホントにこわい。

ただの山や森が恐ろしげ。というのは、ある意味、『惑星ソラリス』にも通ずるものがありますね。

実際、「ゾーン」は意志を持っているらしいのです。

じっくり、じっくりと、信仰というものを失って彷徨う現代の人々の有様を描くという、ある意味、『白痴』とか『悪霊』辺りの、ドストエフスキー直系の作品です。

ここでのテーマは、続く、『ノスタルジア』、『サクリファイス』にもそのまま地続きですから、ある意味、三部作ととらえてもいいでしょうね。

この作品のラストは必見です。大名作。

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