要再評価!

エドワード・ヤン『恐怖分子』。

平日だったせいか、観客はたったの3人でした。うーん。

これほどの名作なのですが。。


何とも恐ろしげなタイトルですが、
クローネンバーグのような映画ではないです(笑)。

それよりも、とても似ている映画がありますね。


お金持ちのおぼっちゃまであったルイ・マルは、自分でお金を調達して、これまたおぼっちゃまのマイルス・デイヴィスにサントラを依頼して製作された、低予算ながらも、映画史に残る傑作となった作品ですが、これのプロットと『恐怖分子』はよく似てますね。

医者と小説家の夫婦とカメラマン志望の少年と不良少女という、全くつながりのない4人の人生が、不良少女のイタズラ電話をきっかけに複雑に絡み合い、悲劇が生まれるというあらすじですが、『死刑台のエレベーター』同様に、複数の話が同時進行で進み、かつ、大人の対応をする少女と、子供のように振る舞う大人たち。という構図が似ています

とはいえ、ヤンとマルは全く資質の違う監督であって、やはり、全く独自の語り口を持っております。

ヤンの作品に一貫する、対象への独特の突き放したような距離感は、ホントに独特のモノがありますね。

これは、後に、『クーリンチェ少年殺人事件』における非常に長いワンショットとして結実しますが、この作品では、まだそこまでではなく、しかし、その、撮影対象へののめり込みを厳に戒めるような緊迫感のある、どこか寂しげなトーンは、彼の一貫した演出です。

少女がヒマを持て余して行った、あるイタズラ電話が、スランプにあった小説家を蘇らせてしまい、これがキッカケとなって引き起こる、ある家族の崩壊。

タイトルは、その少女を指しているわけですが、ホンの些細なことが、とんでもない事故や事件につながってしまうという、公的機関のデータへのハッキングや、無差別テロが世界の各地で起きている現在を恰も予見したような、エドワード・ヤンの初期の傑作が、今日では容易に見ることができなくなっているのは、本当に残念な事です。

また、スターと言えるような人はほとんど出演せず、ほとんど素人に近い若者を起用するのも、ヤン独特のスタイルで、この辺はちょっと、相米慎二みたいですね。

まだ、キネカ大森で上映してますので、この機会に是非。


追伸1
この映画では、ニコンやキャノンのカメラなど、80年代初頭の台湾が日本製品だらけである事がわかります。
また、角川映画の『里見八犬伝』の巨大なとてもこっぱずかしいポスターが出てくるのも必見。

追伸2 
エドワード・ヤンは、生前、台湾映画界とはなかなかうまく折り合いがつかず、台湾での上映すら満足にされていない作品も多かったそうです。
彼の映画製作ペースが、ある時期からドンドン落ちていくのは、国際的な知名度にも関わらず、最後まで製作資金を工面するのに苦しんでいた事が大きいのだそうです。
彼が若くして亡くなってしまったのも、この辺の事が無関係ではなかったでしょう。
どうか、DVDボックスという形でもいいので、何とかソフト化してもらいたいものです。
本作は未だにDVDになっておらず、都内ではVHSがTSUTAYAの六本木に置かれているくらいです。
この不遇の天才の再評価がなされる事を思わざるを得ません。

追伸3
なんと、『恐怖分子』がDVD化される事になりました。


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