ノーザン・ソウルを知らなくても充分楽しめる青春映画の逸品!

エレイン・コンスタンティンノーザン・ソウル

 

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鬱屈したイングランドの街。


面白かった!


最高でした!


ソウルへの愛に満ちた傑作!!


1970年代の、財政が慢性的に悪化して経済が停滞しまくっていたイギリスのドンヨリした感じがホントに素晴らしかった。


高校をドロップアウトして、ソウルミュージックにドップリと入れ込んでいく男の子たちのお話なんですけども、この、「ノーザン・ソウル」という、あんまり知られていない世界を扱っているのが、この監督の素晴らしさですよね。

 

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扱っている音楽があまりにもマニアックだったので、映画を作るためのお金を集めるのがまず大変だったそうで、作ったら作ったで、単館で短い期間しか上映できなかったんだそうですけど、それを覆してお客さんがものすごく来てしまい、あっという間に上映館が増えていって、大ヒットとしまいました。


ちなみに、2014年のイギリス映画でございまして、日本での上映は、なんと、2019年になってようやくなのです。

 


しかも、上映館が少なすぎ!


さて。


この問題の「ノーザン・ソウル」なのですが、実は、アメリカの北部の方のソウルとかそういう意味ではないのでした。


ロンドンのレコード店で、サッカーを見にやってくるイングランド北部の人たちが、ヒットチャートなど目もくれず、黙々と聴いたこともないような60年代から70年代初頭のソウルのシングル盤ばかりを買いあさっていたんだそうです。


そのレコード店で、そういうレコードの事を「ノーザン・ソウル」と呼んでいて、それが一般的な呼称になっていったんだそうです。


ですので、ミュージシャンはほぼ無名であり、むしろ、有名である事を拒否すらしている、独特のカルチャーだったんだそうです。


そういうレコードを夜通し流して踊りまくる(時には、ドラックが結びついていました)という、北部イングランドのユースカルチャーなんです。


聴いた感じは、モータウンっぽい(60年代はモータウン全盛期です)、洗練度の低い、ちょっとB級なソウルなんですけども、そういう中にキラッと光る隠れ名曲があって、ノーザン・ソウルのDJは、そういうのを見つけると、ワザとシールを貼って、曲をわからないようにして、流していたんです。

 

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停滞しきったイギリス経済の中でフラストレーションを発散するには、コレしかなかったのでしょう。

 

劇中で名前の知ってるミュージシャンは、フランキー・ヴァリマーヴィン・ゲイだけでした(笑)。


そういう狭くて、かなりディープな世界を描いているものの、映画はそういうマニアックな知識は一切なくても、大変面白く、非常に優れて青春映画でありまして、でなければ、イギリスで大ヒットするはずもなく。

 

特に有名な役者は出てきませんが、イギリスの役者は基本的にみんな上手いですよね。基本ができているというか。


サントラが欲しくなりました。

 

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公開したばかりなので、写真少なめです。

 

 

 

 

 

 

山中貞雄と並ぶ夭折が惜しまれる監督の傑作にして遺作!

ジャン・ヴィゴアタラント号

 

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奇しくも山中貞雄と同じ年齢で亡くなっている、ジャン・ヴィゴ


長編映画をたったの1本だけ遺して、わずか29 歳の若さで亡くなったジャン・ヴィゴの傑作。


2017年に娘のリュス・ヴィゴらの協力によって4K修復が行われ、それを見ることのできる幸福ですね。

 

ヴィゴも喜んでいるのではないでしょうか。


1934年の映画ですので、サイレントからトーキーへの移行期ですから、ところどころサイレント映画的な手法が出てきたり、今の編集だと場面のつながり方が不自然に感じるところがあるにも関わらず、本作は未だに魅力的な作品ですね。

 

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アタラント号


スタジオ撮影がまだ普通だった時代に、ロケーション撮影を大胆に導入し、カメラは自在に動き回り、時にものすごいローアングル、俯瞰撮影などの斬新な手法の導入(飛行機からの撮影すら行なっています)。

 

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基本が屋外撮影というのは、当時はとても珍しかったんです。

 

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ななんと、飛行機(多分、セスナ機でしょう)から撮影してます!

 

そして。遂には劇映画では初めてと思われる水中撮影!

 

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カメラをガラスの箱に入れて撮影したそうです。スコリモフスキ『早春』はコレをやったのかな?

 

荒削りではあるものの、次々と大胆なアイディアに果敢に挑戦する様は、まさにヌーヴェルヴァーグの先駆をなすものです。


実際、トリュフォーはこの映画を熱狂的なファンだったようです(彼が当時見たのは、映画会社が勝手に編集して短縮した版と思います)。

 

本作の筋書きはものすごくシンプルですが、本作の魅力は、輸送船アタラント号の水夫、ジュールを演じる、ミシェル・シモンの怪演と、アタラント号に住みついていて、絶妙なタイミングで登場人物たちに絡んでくるネコちゃんたちです。

 

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ミシェル・シモンのキャラ造形と彼のガラクタだらけの部屋はクストリッツァにすごく影響を与えているような気がします。


野性爆弾のくっきーのような風貌で、喋り方が殿山泰司(フランス語で話しているのに、だんだん日本語みたいに聞こえてきます)としか思えない、かなりアクの強いキャラでして(笑)、ストーリーの中心を動かしているアタラント号の船長とその夫婦の結婚と家出(というか、船出?)と出戻りは、実はそんなに面白くなくて、本筋ではかミシェル・シモンがとにかく面白いんです。

 

奥さんが出て行ってからの船長の奇行はなかなかの見どころですけどね(笑)。

 

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一応、アタラント号船長と奥さんの話しではあります。船長が後のマーロン・ブランドーを彷彿とさせます。

 

まあ、とにかくこの愛嬌満点の演技は、フランス映画の至宝レベルでして、彼の名演で本作の価値のかなりの部分が決まってしまっていると言っても過言ではありません。

 

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とにかく、ネコちゃんがかわいい!


しかし、それを演出しているのはヴィゴなのですから、29歳でこれだけの演出ができていた彼がその後も生き続けたら、どれほど素晴らしい映画を撮ったのだろう!と思えてなりませんが。。


今見ても余りにも瑞々しい感性に満ち満ちた作品。

 

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フリードキン監督の傑作がようやく完全版で見ることができました!

ウィリアム・フリードキン『恐怖の報酬 完全版』

 


いやー、大感激しました!


本年見た映画でコレがでベスト。


コレまで、監督の意図された形での上映はなかったので、新作とみなします。


ニトログリセリンの爆風を使って、油井で発生した火災(反政府テロの犯行に変わってます)を収束させるためにトラックでニトロを運ぶ。という、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーのオリジナルのプロットこそありますが、もう全く別物の作品になっていて(原題もSorcerer になってます。なんと、マイルス・デイヴィスソーサラー』から取られたのだそうです)、リメイク。などという、安易なものではありません。

 

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反政府テロリストの攻撃で爆発してしまう油井!

 


なので、本作の邦題は、間違ってはいませんが、全く違うタイトルにしてもよかった気はします。


イヴ・モンタン主演のオリジナルも大変な傑作で、前半の吹き溜まりのような南米の街のウダウダ、ダラダラとした描写が今見るとちょっと冗長とはいえ、ニトログリセリンを運ぶ展開に映ったらもう無類に面白いので、是非とご覧いただきたいのですけど、オリジナルの持っているドライで突き放した感じの演出に対して、フリードキン版は、圧倒的にドロドロで凄絶、そして、フリードキンならではの非情で骨太さが漲っており、1970年代の、テロが横行する世相をうまく取り込んだ作品に変貌していて、それでいながら120分にスッキリと言いたいことを絞り込んでいるところが見事なんですよね。


見終わると、もっと長い映画を見ていたんではないの?というくらい濃密で、心底驚きます。

 

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マフィアのボスの弟を撃ってしまった嫌疑をかけらてしまうロイ・シャイダー


冗漫で長く感じるんのではなく、中身が濃すぎて長く感じるんですね。


面白いのは、ドライバーとなる4人が、どうして南米の奥地にまで来ざるをえなかったのか。が、最初に展開するんですけど、1人は殺し屋、1人は反PLOのテロリスト、1人はパリの銀行家、そして、最後がアメリカのアイリッシュ・ギャングです。


みな、それぞれに犯罪や嫌疑のために本国にいられなくなり、国籍も名前も偽り、とんでもない場所に潜伏せざるを得なくなるんですね。


その冒頭がもうものすごいんです。


それぞれがもう映画一本になってるんじゃないの?というくらいにシビれるほどカッコいいんです!


もう、スッカリ、フリードキンの演出にハマってしまうんですね。


そこから、南米のジャンルの中にある、油井の近くにできた町の落差!


なんて小汚い(笑)!

 

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刑務所以下(笑)。

 

とにかく、ドロ沼の中にある感じで、住民も最下層なんてものではない。

 

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事故と石油会社の無策に怒り狂う住民!

遺体は黒焦げ!

 

ちょっとやり過ぎ感はないではないです。。


ロイ・シャイダーが一応、オリジナルのイヴ・モンタンになるんだと思いますが、こういうどうしようもない境遇に追い込まれた感じがホントに出てますね。


さすが、アメリカの川谷拓三。


ジョーズ』よりも更に素晴らしい!


ここから、4人がトラックに乗ってニトログリセリンを運ぶという、メインになっていくんですが、まあココは一切何も言えません(笑)。


まあ、ホントにコワイ。


こんな所に舗装された道なんてあるわけがなく、とにかくハラハラ、ドキドキの連続なのでございます!

 

 

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ひゃー!コワイ!!

 


熱帯雨林特有の滝のような雨がドライバーたちをトコトン苦しめ、人間が入ってはいけない、完全なるアウェイを進む自分たちでなんとか動くように修理したトラックが、まるで不気味な巨体生物のように見えてきます。

 

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ジャジャーン!


驚いたのは、ラストシーンにチャーリー・パーカーの晩年の名作『Charlie Parker with Strings』の『l’ll Remember April』がちょっと流れまして(全体の音楽はタンジェリン・ドリームが担当してます)、コレが絶品なんですよ。チャーリー・パーカーをサントラに使ったのは、イーストウッド『バード』を別とすれば、たしか、ルイ・マルの作品にあったくらいだと思いますが、コレはとても珍しい。

 

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超天才アルトサックス奏者、チャーリー・パーカー


フレンチ・コネクション』の、あの、ナタでドカンと切ったような編集、そして、具体的な物量と無茶な動きで作り出されるダイナミックなアクションは、昨今のCGを駆使した映像では絶対に味わえないゴツさであり、フリードキンのフィルモグラフィーのベスト3に間違いなく入る、それはすなわち、映画史に残る傑作である事が間違いない作品です。

 

 

 

 

スコリモフスキの青春残酷物語!

イェジー・スコリモフスキ『早春』


流浪の監督、スコリモフスキの過去の作品はまだ日本では見ることができないものが多いですが、1970年公開の本作もようやくDVD化しました。


主人公の男の子は、『ルートウィヒ』の、普墺戦争に参戦した事が原因で精神疾患になってしまう、オットー親王役だった、ジョン・モルダー・ブラウンですね。

 

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このマイク役で注目されました。


『ルートウィヒ』ご覧になったら分かると思いますけど、この俳優さん、ホントに繊細な美少年なんですよね。


そんな彼が演じるマイク少年は、個室の銭湯(そういうのがイギリスにあるんですね。この辺はよくわからないです)みたいな所で働くことになりました。

 

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ちょっとフェリーニっぽいシーンですね。


しかし、そこに勤めている歳上のちょっとツンデレなお姉さんのスー(『ルパン三世』第1作の峰不二子っぽいですね)にイジワルをされるんですね。

 

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スーを演じるジェーン・アシャーの小悪魔的な魅力が横溢しております!


そういうお姉さんにジワジワといじめらる映画なんですよ、コレは(笑)。


スコリモフスキは、現在も現役で映画を撮り続けていますが、彼の作風はホントに謎というか、難解なアート作品みたいなのは皆無で、常にものすごく具体的な事を映画にしているはずなんですけども、作風が全く見えてこない(笑)。


しかも、老成もしないで、ひたすらアグレッシブな作品ばかり作るんですよ、未だに。


強いて言えば、あんまり人が思いつかないようなシチュエーションとかを設定して撮るのが好きな人なのかな?とは思いますね。


『シャウト』は、ホントに誰とも似てないし、誰にも影響を与えようがないほどに独特すぎる映画です。

 

本作はそこまでエクセントリックではなく、彼のフィルモグラフィでは相当万人向けな青春映画で、長い労働党政権時代の、気だるい停滞感がなんとなく当時の東欧の停滞感とも呼応しているような感じで、チェコスロヴァキア映画なのかな?と一瞬思ってしまったりもします(ちょっと『ひなぎく』っぽい色使いです)。

 

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しかし、小悪魔なおねえさん(実は婚約者がいます)にイジワルされる。つまり、林家こぶ平がヒロミと所ジョージにいじられまくって「なんだよ~やめろよ~」というあの懐かしのシチュエーションと言いいますか(笑)、それがホントにうまく撮れているんですね。

 

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ホントになんでも出来る監督というのか、このトリュフォーアントワーヌ・ドワネルものっぽさのありながら、英国独特の毒々しさがあって、撮っているスコリモフスキはポーランド人という、もうなんだかわからないインターナショナルなのか何なのかすら判然としないところが面白いですね。

 

ロンドンが舞台なのに、資本はアメリカから出てますし(笑)。


非常に優れたロケーション、撮影、スコリモフスキ演出のみずみずしさ、どれを取っても一級品であり、青春の残酷さを見事に切り取った傑作だと思います。

 

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アシャーは一時期、ポール・マカートニーの恋人でした。キーッ。

 

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トリュフォーとかマルの初期の作品にあった鮮烈さが、このポーランド人の監督によって見事に蘇った感があります。

 

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もっとスコリモフスキの映画を気軽にみることができるようになればいいなあ。とつくづく思いました。必見。

 

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フランスの脱獄モノ、犯罪モノには傑作多し!

フランクリン・J・シャフナーパピヨン


かつて仏領ギネアは、フランス本国には囚人を送り込む、事実上の流刑地でした。


金庫破りと殺人(殺人は冤罪です)で終身刑となったパピヨン(スティーヴ・マクイーン)と贋国債作りで逮捕されたルイ・ドガダスティン・ホフマン)は同じ船で、ギネアに護送されています。

 

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護送船がすでにクソ暑くてキツいんですね。


ちなみに、ギネアはアフリカにある現在のギネア共和国ではなく、南米にある、現在も海外県として存在する地域です。念のため。


現在は約20万人ほどの人口だそうです。


当時の囚人への扱いは恐ろしく過酷で、本作の見せ所はそれを克明に描くことです。


フランスの司法官僚の血も涙もない冷酷さ。というのは、映画史の1ジャンルと言ってよいと思いますが、本作は冷酷非道感(特に誰かを狙い撃ちして懲らしめているとかではないのに)がすごい映画で、当のフランス人は、コレを見てどう思ってるのか、聞いてみたいモノです。


フレンチ・コネクションpart2』や『ジャッカルの日』など、ハリウッドは一時期、ヤケにフランスを舞台にした映画を撮ってましたが、本作は、その代表作といってよく、先ほど挙げた作品ともども、ホントに素晴らしいです。


人間を極めて合理的に管理する事を執拗なまでのタッチで描く監督の拳には、力がみなぎっているのが伝わってくるような作品で、ギネアに到着するまでに、フランスの役人たちの冷酷ぶりがイヤというほどに味わえますね。


チラッチラッとヴェトナム人と思しき人が肉体労働をしていて、足りない労働力を仏領インドシナからも連れ出してまで、囚人を徹底的に管理するすごさ。


サン・ローラン刑務所の所長の挨拶もすごく、整列している囚人たちの目の前にギロチンが設置されていて、「脱走を企てる者がこうである」と、宣告すると、ギロチンがサーっと降下してきて、瓜を真っ二つにするのです(笑)。

 

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規則を守るように。以上。

 


南米の熱帯雨林気候のクソ暑さが全編にわたって横溢している、このイライラ感。

 

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そして、ほとんどの映像がドロドロの泥んこ、ジャングル、そして刑務所という、モテ度-100万点の映像の中で、あのカッコいいアクションスターのマクイーンが、ストーリーが進むごとに酷くなっていく、なかなか壮絶な作品です。

 

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独房入所前


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独房入所後

 

私は、とりわけ、前半の刑務所シーンが圧倒的にすごいと思いました。


この、どんな逆境にも屈しない、不屈の精神。というものを脚本にさせたら、ダルトン・トランボーの右に出る者は、ハリウッドにはいないでしょうね。

 

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クビだけを出させて、警棒でクビを締め上げて自供させるという、絶対抵抗不可能な仕掛けに見える、近代フランスの冷酷性。

 

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なんとか脱走しようとするパピヨンと刑務所でなんとか快適に暮らしていこうとするドガ

 

しかし、パピヨンドガ、そして、ゲイの青年と脱走する、実際は大見世物のところが今ひとつで、散漫な印象を受けますね。

 

なんというか、シャフナーの監督作である『猿の惑星』っぽくね?と感じなくもなく、マクイーンがチャールトン・ヘストンに見えてくるというか。


が、しかし、そのピリオドの打ち方は見る前に知るとつまらないので書きませんが、ボヤッとしている観客を一挙に引き寄せます。


本作は、脱走を企てた本人の手記(結構、面白く盛っているらしいですが・笑)に基づく娯楽作品なのですけども、ルイ・ドガとのバディものとして、大変な力作だと思います。


ジェリー・ゴールドスミスの曲も、彼のキャリアでは最高点に近いのではないでしょうか。


意外にも、アカデミー賞などなど、あらゆる映画賞で無冠ですが(監督賞はあげても良かった気がしますけど)、大スターをダブルキャストにして、しかも予算をいっぱいかけて制作する、みなぎる力作として、今見ても全く古さを感じない映画でした。


エンディングロールの、1973年当時と思われる、すでに廃止された(あまりに人権侵害という批判があったのでしょう)サンローラン刑務所が延々と映し出される映像は、今となっては貴重であり、圧巻です。

 

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当時は全くウケませんでした!

チャールズ・ロートン狩人の夜

 


チャールズ・ロートン。と聞いてピンと来る方は相当に映画がお好きな方ですよね。


イギリスの名優で、晩年にスタンリー・キューブリックスパルタカス』で、煮ても焼いても食えない元老院議員を演じていた、あの太々しい風貌の役者さんです。

 

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この人がチャールズ・ロートンです。

スパルタカス』でグラックスを演じていました。


そんな彼が、1955年にたった一作だけ映画を撮っていた事はあまり知られていません。

 


と言うのも、当時は興行としては全くダメだったらしく(なので2作目がないのです)、当時はほとんど知られていなかったんですが、後に再評価が高まってきた作品なんです。


1950年代のアメリカというと、ハリウッドの全盛期で、戦後直後に青春を送った方は、そのあまりにも豊かで明るい世界に圧倒されたと思いますが、本作は、とても暗く、異様な雰囲気に支配された、言ってしまうと怪作な部類に入り、当時、コレがウケなかったのも、わかります。


とにかく、主演のロバート・ミッチャムが演じる狂信者がホントにコワイですねえ。

 

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歪んだ女性観を持つ怪物的な人物。

 

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LOVE !!!


右手にLOVE、左手にHATEと刺青をしているのが、もうヤバいんですが(笑)、彼は自分の中にいる「神」の命令に従って生きる、まあ、キチガイでして、ある時、自動車の窃盗で懲役30日を食らいました(か、軽いですねえ)。

 

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HATE !!!!

 


しかし、その彼が入っている刑務所の房に、銀行強盗殺人を犯した男が入ってきたんですね。


彼はカネのありかを息子にだけ告げて逮捕され、死刑をされ、あっけなく処刑されました。


死刑囚と懲役30日の人が同じ牢屋にいるというのもおかしいですし、判決が出てあっけなく死刑執行というのも、なんともイージーなんですが、1930年代のアメリカの中西部はそんなものだったのでしょう(オハイオ川が出てくるので、舞台が中西部である事が場面描写からわかります)。


ロバート・ミッチャムは、大金が隠されていること。それを息子が知っていることを死刑囚が寝ている時のうわ言から知ってしまうんですね。


彼は、「これぞ、天のお導き。この金で教会を建てよ。ということですね?」と考え、この家族に近づいてくるんですね。ヒイーッ。

 

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子供たちからカネのありかを聞きだそうとする。

 

これは実際の猟奇連続殺人を犯した人物の分析などでもよく言われますが、こういう人たちは実にフレンドリーに近づいてくるそうなのですが、ロバート・ミッチャムは、あの両手にしているLOVE&HATEの刺青を使った巧みな説教を行なって村人たちの中に入り込んでいくんです(このシーンのパロディが、スパイク・リードゥ・ザ・ライト・シング』に出てきます)。


純朴な人々を言葉巧みに騙し(後に発覚しますが、ミッチャムが演じる狂信者は、25人もの女性を次々と殺害しています)、とうとう未亡人となっていた、強盗殺人犯の妻とまんまと結婚してしまいます。

 

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ミッチャムの狂信に心酔して、狂気的な信仰告白をする妻!


荒木飛呂彦先生のマンガが好きな方だったら、完全にどハマりするような展開ですが、ここから先はどうなるのかは見てのお楽しみですけども、それにしても、このような異様で幻想的で、アメリカ社会における狂信や集団ヒステリーをトコトン描き出したロートン監督の手腕は、やや素人臭いところがあるとはいえ、大変なものです。


夜のシーンがとても多い作品なのですが、この撮影がホントに見事です。

 

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夜のシーンの撮影が実に見事!

 

職業監督では思いつかないような、大胆で斬新な構図が至る所で出てくるのも、見ものです。


映像が当時のアメリカ映画というよりも、サイレント期のドイツ映画のようなコワさを追求しているのも、とてもユニークですね(だから、ウケなかったのだと思いますが)。

 

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リアリズムではなく、戦前のサイレント映画を思わせる表現が多いです。


本作では、ロバート・ミッチャムの世紀の怪演がまことに見事ですが、これに対峙するのが、映画草創期の大スターであった、リリアン・ギッシュというのが、これまた驚きです。

 

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なんと、ショットガンを構えるリリアン・ギッシュ


じつはトーキーになってからも、出演数はさほど多くないのですが(舞台への出演はずっとしていたそうです)、映画に出演しておりまして、本作でも、やや偏屈ですが、芯の強い信仰深い老婦人を見事に演じています。

 


ブッシュ・ジュニア政権がアメリカに誕生した事で、アメリカの宗教保守が注目されるようになり、コレが現在はトランプ大統領の支持者にもなっているようなのですが、こう言った人々は突然現れたわけではなく、アメリカの中西部の田舎に古くからいたという事が、本作を見るとよくわかります。


そういう社会風土がこの映画が公開された時には日本ではよく理解できなかったものと思いますので、映画館公開は1990年です。

 

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イーストウッド監督にリメイクされたら面白そうですねえ。

 

 

 

今見るとますますコワイ!!

マイケル・ウィナー『Death Wish』

 

良くも悪くもチャールズ・ブロンソンを「午後ロー役者」にしてしまった怪作。


とはいえ、後年の、なんの躊躇なく拳銃をぶっ放して殺しまくる作品とは一味違う、かなり狂気じみた作品となっています。


本作は、サム・ペキンパーわらの犬』のような作品になる予定だったらしいです。


たしかに、ブロンソンダスティン・ホフマンにすると、作品として似通ってきます。


が、実際は、キャスティングが二転三転して、ブロンソンなお鉢が回ってきたそうです。


脚本を見たブロンソンは、当初はかなり戸惑ったらしい。


どう考えても、自分がインテリ役といのは、おかしいのでは?と(私もそう思います・笑)。

 

楽しいワイハ旅行からニューヨークに帰ってきたカージィ夫妻。

 

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奥さんを写真に撮りまくるブロンソン

 

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冒頭はブロンソンには珍しいほどのイチャイチャぶりを発揮!


旦那のポール(ブロンソンですね)は設計士としての生活も充実しており娘も成人して何一つ不自由することのない生活をしておりましたが、妻と娘が突然、自宅で悪漢3人(1人は後に有名になる、ジェフ・ゴールドブラムですね)に襲撃を受けました。

 

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本業はディベロッパー。


妻のジョアンナは亡くなり、娘キャロルも相当な精神的なショックを受け、結局精神病院に入院してしまいした。。

 

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襲撃した3人は役名すらありません。

 

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妻の葬儀に呆然としているポールと娘のキャロル。


2人が襲撃されるシーンを見ていると、スタンリー・キューブリック時計じかけのオレンジ』で主人公マルカムたち不良グループが家を襲撃しているシーンに影響を受けているのだろうか。とフト思いました。


ニューヨーク市警も容疑者を逮捕するのに特に熱心にもなってくれません。


そんなポールを元気づけるために、会社はアリゾナ州トゥーソンに出張に行かせます。

 

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実は、朝鮮戦争に参戦していて、父親も銃の名手でした。


そこの大地主が、全米ライフル協会バリバリな人で(笑)、ポールが実は拳銃の名手である事を知ると、彼に拳銃をプレゼントするんです。


すごいですねえ。プレゼントに32口径のリヴォルバー拳銃なんてもらった事ないですが。

 

ポールは、この拳銃で、次々と犯罪者を射殺していくんです。

 

はじめは「なんて事をしてしまったんだ!」と動揺するのですが、次第に行動は大胆にエスカレートし、ワザワザ強盗に襲撃されるように、サイフに現金が山ほど入っているのを見せびらかすようにしたり、深夜の地下鉄の車両で呑気に新聞を読んだりと(当時のニューヨークの深夜の地下鉄は犯罪の温床でした)、襲ってくれと言わんばかりの振る舞いをするようになります。

 

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そんな連続殺人をマスコミは「ヴィジランテ」(自警団)と書いて騒ぎ立て、ニューヨーク市警の怠慢を批判し、コレをポールはテレビや新聞で見るにつけ、ますます自分の行動を「正義」と思うようになるんですね。


この、警察が守ってくれなければ、最後は自分で身を守るしかない。という考え方は、実はアメリカ社会ではそれほど突飛なものではなく、アメリカの保守的な田舎では結構普通です。


コレが、アメリカ屈指の圧力団体である全米ライフル協会を支える思想の根幹でして、ポールのやっている事は、単なる無差別殺人なのですけども、アメリカ社会では、実はかなりシンパシーを得られるキャラクター造形ではあるんですね。

 

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第1作目はもらった拳銃のみが使われ、アクションがメインではなく、ポールの狂気が描かれます。

この暴走するポールを追い詰めるのが、ニューヨーク市警のオチョア警部なのですが、本作が単なるサイコキラー映画にならなかったのは、この警部のリアリティ溢れる演技によるところが大きいですね。

 

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鬼刑事オチョア。


この一筋縄ではいかない警部は、とうとうポール・カージィを追い詰めるのですが、本作が見事なのはここから先なのですけども、それは見てのお楽しみです。

 

ちなみに、本作で奥さんを殺し、娘を精神疾患にしてしまった連中への復讐は遂げられません。

 

ポールの怒りの原点となる出来事のはずなのですが、実は全く解決する事なく本作が終わっているとこも、よくよく考えると異様な作品です。


ラストシーンはよくよく見るとゾッとするコワさがある、トランプ大統領を支えるものは一体なんなのか?という事を考えるに、実はとても重要な作品。

 

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