「デトロイト」を知るために必須の作品です⁈

ポール・ヴァーホーヴェン『ROBOCOP』

 

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デザインが今見ても秀逸ですが、なんと、宇宙刑事ギャバンを参考にしているそうです!

 

オランダ人監督、ポール・ヴァーホーヴェンの名前が世界的に有名となった、イルな名作。

この映画の公開は、1987年で私は中学生でしたけども、当時はギャグとしてゲラゲラ友人たちと笑いながら見ていたものですけども、2018年現在はこのヴァーホーヴェンが描いている世界に恐ろしく近づいている事に気がつき、この作品の狙いどころは、実は笑いではなかった事に気がつきます。

ディストピアックな近未来モノにつきものなのは、桁外れに巨大な企業ですけども、本作はオムニ社です。

刑務所、軍事、宇宙開発、そして、とうとう警察まで事業の対象となりました。

衰退しきって、犯罪の巣窟となった街のステロタイプとして、デトロイトが挙げられますが、そこを舞台として、なんと、市警が株式会社のオムニ社によって経営されているという(ということは、警察官にはスト権があるということです・笑)、リアルに救いがない世界観を作り上げたのは、やはり、外国人としての視点があったればこそですよね。

作中で実際に警官労組によるストライキが始まってしまい、デトロイトで暴動が起きます(しかも、その顛末は描いてません・笑)。

 

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デトロイト市警のストについてインタビューを受ける失業者がジワります(笑)。 

 

オムニ社は意図的に殉職警官を作り出して、ロボコップを作り出すという、典型的ながらもやはり相当エグい、倫理観の破綻した資本主義社会の行き着く先(それはそんなに遠くない気がしますけど)を見ているようです。

 

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ロボコップに改造されていく過程を、マーフィーからの視点でのみ描くはうまいですね。お金はかかりませんから(笑)。

 

しかも、荒廃したデトロイト市を再開発するために、治安を回復させる必要があるため、24時間働き続ける警官を作る必要があるという事から、ロボコップを生み出しているんですね。

1970年代のニューヨークは大変荒廃してましたけども、ジュリアーニ市政になってから、一挙に街は浄化されましたけども、何かそれを思い出しますね。

「浄化」の結果、何が起きたのかは、言うまでもありませんが。

そんな邪悪な企業の思惑の犠牲者になってしまったのが、デトロイト市警の真面目な警官である、アレックス・マーフィーであり、殉職という形をとって、勝手にサイボーグに改造され、24時間働ける「ロボコップ」にされてしまいました。

 

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ピーター・ウェラー、若い!

 

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クラレンスの一味によって惨殺されてしまいます。。 

 

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ハゲでメガネのクラレンスが悪党のボスというもの、B級感覚満点です!手下もアタマが悪くて最高ですし(笑)。

 

この際、過去の記憶は一切消したはずなのですが、実は消えてなかったんですね。

そこから「ロボット」として作られた事にになっている「ロボコップ」がおかしくなってくるんですね。

 

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相棒である、アン・ルイス。そういう役名なんですってば(笑)。ブライアン・パルマ監督の元奥さんです。

 

さて、そこからがどうなるのか?というのがこの映画の見どころですから、アマゾンプライムなりで見ていただきたいです。

この映画のもう一つのキモはやはり、作中に挿入されるテレビ番組やCMの使い方ですよね。

核戦争を戦うボードゲームとか、SUX6000という作中に出てくる高級車のCM、メキシコとアメリカが戦争しているニュースやアメリカの衛星軌道上にあるレーザー兵器(レーガン政権の時に本気で作ろうとして、議会から否決されるんですけども)が誤射してしまい、サンタバーバラで多数の死者が出たという大惨事をサラッと伝えるニュース番組が、この近未来世界(年代は作中で一切言ってません。そこもとても巧妙です)のバッド感を猛烈に増幅させる効果があります。

 

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デッカい事はいい事だ(笑)。

 

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 悪ノリ核戦争ゲームのCM(笑)。ソ連の末期ですね。

 

そして、なんといっても、繰り返し放映される「1ドルで楽しむべ!」とオヤジがお約束のセリフを言う、お笑い番組ですよね(笑)。

 

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「1ドルで楽しむべ!」は名言です(笑)。

 

コレと当時のハリウッドのギリギリのバイオレンス描写の対比が実に見事なんですね。

 

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 オムニ社の副社長、ジョーンズが開発させていた、ED-209。重役の1人を射殺してしまい、不採用です。。

 

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 その誤射によって惨殺される重役。。

このギャグと惨殺の落差の凄さがこの映画の特徴です。

 

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ジョーンズを押しのけてロボコップの計画をグイグイと社長に推す、モートン

 

ロボコップの地道な捜査みたいなものはほぼカットして、作中ではたったの2人を尋問したのみで、後は圧倒的な力で一挙に解決していく所に力点を置く演出など、メリハリの付け方のうまさとカットするところはドンドンそぎ落として、100分くらいの娯楽作品にスッとまとめ上げる手腕は、只者ではありませんね。

 

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見てなくても正確に撃ち抜きます。

 

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組織をあっという間に一網打尽にされるクラレンス。ロボコップ、凄すぎます。

 

しかも、最後は西部劇(特定の作品という事はないと思いますが)へのオマージュになっているという、実は、問題のほとんどは解決しないまんま終わっているのですが(どう考えても、1番悪いのはオムニ社の社長なのですが・笑)、変な清々しさを持って終わる強引さも凄いものがあります。

ヴァーホーヴェン監督は外国人で、まだまだハリウッドでは実績がなかったので、ハリウッド映画としてはそれほど予算かけて作ってないんですけども、お金がない中でどう工夫すれば効果を上げる事が出来るのか?という事からしても、教科書のような作品でもあります。

ちなみにヴァーホーヴェンはその後、物議を醸し出す映画を作りすぎ、ハリウッドから出ていってしまい、現在はヨーロッパでやはり物議を醸し出す映画を元気に撮ってます(笑)。

 

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 このカッコいいラストショットで全てがモウマンタイになるのです(笑)。

 

奇想天外な恋愛映画でありました。

 

パク・チャヌク(朴贊郁)『渇き』

 

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奇跡の人となってしまったサンヒョン。

 

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奇跡を起こしてくれ!と駆け寄る人々。

 

次回作が全く読めない人ですけども、今回の主人公は神父です。
しかも、生存率が低く、治療法のないウイルス性の病気から生還し(50人志願した中で、唯一の生存者です)、韓国で「奇跡の人」扱いされるという、アドモドバルもビックリなお話しです。

どうもこのサンヒョン神父さん、生存して韓国に戻ってから、語感が異常なまでに鋭くなってしまいました(笑)。

で、今度は日光に当たると皮膚が焼けてくる。

 

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しかも、並外れた身体能力を発揮するようになり、ケガをしてもすぐに治ってしまう。

ハイ。なんと、吸血鬼になってしまいした。

 

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なんと、意識のない患者から少しずつ点滴の腕から血を吸ってます(笑)。

 

相変わらずのエグ味とエロは健在ですが、なんと、ベースはオモシロというのは、かなり意外です。

 

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奇想天外な設定と展開が最後まで読めずに引っ張るお話は、一切説明しませんので、是非見てください。

彼の映画はいつ見ても思いますけど、よくこんな脚本が思いつき、そういう演出できるよなあと思いますね(笑)。

邦題は原題の直訳ですけども、コレがまた秀逸です。

パク・チャヌクはカンヌでグランプリを受賞した巨匠と言ってよい監督だと思いますけども、基本は娯楽作品を作っている人なので、臆せずドンドン見てもらいたいものです。

 

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『監獄のお姫様』の元ネタと思われる、エクセントリックな復讐劇!

パク・チャヌク(朴贊郁)『親切なクムジャさん

 

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チャングムの誓い』とは全く違う役を見事に演じる、イ・ヨンエ

 

「復習3部作」の第3作目。

日本では、『チャングムの誓い』でおなじみのイ・ヨンエが、ガラッとイメージを変えております。

何しろ、冒頭で刑務所から出所です(笑)。

13年も服役していたというのは、かなりの重犯罪です。

なんと、少年誘拐殺人です。

お話は2014年に、主人公イ・クムジャが出所する時点から始まりますが、時間がものすごく前後し、初めは何の話なのかほとんどわからないまんま、しかも、クムジャの内面がほとんどわからないまんまドンドンと話がすすんでいきます。

しかし、その断片的なシーンの連続がやがてある事に帰結していきます。

 

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刑務所の中で、牢名主として台頭し、「親切なクムジャさん」と呼ばれるようになります。

 

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各シーンがアドモドバル並みにぶっ飛んでます。

 

それは、クムジャが実は冤罪である事でして、しかも、本当は身代金さえ取れれば、それでよいはずの誘拐が、実は共犯者の裏切りによって破綻してしまったのだと事だったんですね。

この事を言えないまま、黙って服役して出所した彼女の主犯への復讐がこのお話のメインテーマなんですね。

 

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普段は英語の塾講師をしている真犯人。

 

全く先の読めない展開、エキセントリックな演出と、パク・チャヌクの映画はもう誰とも似ていない全く独自のものですね。

あえて言えば、タランティーノとアドモドバルなのですが、バイオレンスがもつ痛みとかリアルが、タランティーノは意外と日本映画的なフィクションに近いのですが、パク・チャヌクは圧倒的に重いですね。

コレは韓国映画全体に言える事ではあるのですが。

 

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この共犯者の男は、実は子供を4人も殺害しており、クムジャはその最後の4人目の少年の誘拐と殺人の罪をすべて被ったんですけども、実はヨンエの復讐はその4人目だけではなく、全員の復讐を晴らす事に最後は結実していくんですが、そこがどうなっていくのは見てのお楽しみでして、それが本作のタイトルに、なぜ「親切」とついているのかがだんだんとわかってくるわけですね。

恐らく、本作からインスピレーションを得て作られたのが、宮藤官九郎脚本でTBSで放映された『監獄のお姫様』だと思います。

冤罪を晴らすために出獄後、真犯人に復讐するという構図が全く同じです。

パク・チャヌクの演出は基本的にかなりドギツいので、それは覚悟して見なくてはいけませんが、結局、この予想のつかない展開に持っていかれてしまう腕力がこの監督にはあります。

 

最近、あまり多くない、女優の力量で見せる映画になっているのも素晴らしいですね。

 

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バーフバリ !バーフバリ !!

S. S. ラージャマウリ『バーフバリ 伝説誕生』

 

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運命の子、バーフバリ 。

 

もう最高でした、バーフバリ !!

インド映画史上、最高の予算をつぎ込み、最高の興行収入をあげたという本作は、アクション、ミュージカルなどなど、とにかく面白いモンはなんでも放り込んで最高に楽しいエンターテイメントを作るんだ!という熱気に満ち溢れている最高の映画でした。

本作は前後編で出来てまして、コレはその前半で、エッ、そんないいところで終わんの?オイ!というところでブッツリ終わってます。

コレは現在上映中の後編「The Concludion」を見るしかなくなりました(笑)!

恐らくは同時に撮影して、長すぎるんで2つに割ろうという判断なのでしょう。

お話はちょうど2部構成になっていて、前半が主人公が反乱軍に加わるまで、そして、後半がマヒシュマティ王国の歴史を語ることで、タイトルである「バーフバリ 」という言葉がなぜ民衆を熱狂されるのかを回想して生きます。

えっ、後半が回想?

そうなんです。

その回想が終わって現在のシーンに戻った途端、前半が終わるという、無茶な構成なんですよ(笑)。

しかも、後半の前日譚がものすごく濃厚なので、前半も面白いんですが、もう霞んでしまいました(笑)。

後半は王国の王位継承問題と隣国のラスタマンみたいな連中との大戦争を描いてますけども、主役の2人がそのまんま王国の2人の王子役になっていて、主人公がなぜ王位継承者にもかかわらず、捨てられて全くの別人として育つことになったのかの因縁を語るんですね。

 

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王位継承者である事を知らずに自然児として青年となるジヴドゥ。まあ、孫悟空ですね(笑)。

 

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戦争アクションがメインですが、美女が出てきて歌って踊るシーンもチャンとあります!

 

指輪物語』をビックリするほどのエキストラの動員と、VFXタップリの戦闘シーンのすごさもいいんですが、そのケレン味タップリなお話を、存在感のある役者、特に実権を握っているシヴァガミと彼の忠臣カッタッパが見事です。

 

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現在のカッタッパ。

 

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反乱軍の紅一点、アヴァンティカ。

 

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 強大な権力をもつ国王、バラーラデーヴァ。

 

ですので、単なる安手のチャンバラになってません。

よくあるお話ではあるのですが、それを一切手を抜かずにやっているのが、素晴らしいですね。

やや脚本や構成は強引ですし、VFX技術や編集の粗さがやや目に付きますが、それは本作のキズとはならないでしょう。

むしろ、海外上映のために上映時間が長いことを抗議されないように、事前にかなりのカットを加える事でややわかりづらくなっている事です(コレは残念な事に後編もそうなんです)。

 

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敵国のボス、こんなです(笑)。わかりやすい!

 

できれば、インドで公開した長さと同じものを日本のみならず、世界中で見られるようになる事を希望します。

バーフバリ !

 

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オルドリッチの精神は未だに生きております!

クレイグ・ブリュワー『ハッスル&フロウ』


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タランティーノ作品っぽいタイトルロゴがイカしてます。


最初の10分の主人公のDジェイのピンプ&ハスラー生活(よい子はググっちゃダメだよ!大人は自己責任でググってね!)の荒みきった様子は、お子さんがいらっしゃる方にはとてもみせらんない映像です(笑)。

 

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荒んだ生活からいかにして脱するのか。


まあ、とにかくメンフィスの最下層の人々を見てますと、イラクアフガニスタンでドンパチやってる場合なのですか、ブッシュ大統領(本作は2005年の作品です)?と言いたくなりすけども、そんな彼がメンフィス出身で全米でもヒットを飛ばすことに成功した、スキニー・ブラック(人気ラッパーのリュダクリスが演じてます)というラッパーの事を知りました。

そういや、オレもガキの頃は、ラッパーになろうとしてたよなあ。という事を思い出したDジェイ(名前はDジェイなのにラッパー元ラッパーなのがややこしいです。しかも、実在するトラックメイカーにもDee Jayという有名な人がいるのでますますややこしいです)は、ハイスクールの頃に一緒につるんでいた、キーの自宅に押しかけます。

 

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MC漢に似てなくもないキー。プロデューサーを担当。

 

キーは録音技師として真面目に働いて、奥さんもいる堅気の暮らしをしているんですが、悪い旧友が必死で考えてきたライムを聴いているうちにだんだんと意気投合してしまいます。

ココからお話がロバート・オルドリッチ的に面白くなっていくんですね。

Dの小汚い家の一部屋が録音スペースになり、機材を搬入したり、キーが連れてきたトラックメイカーのシェルビーという、なんだか頼りなさそうな白人青年がああでもない、こうでもないと手探りで曲を作っていく過程は、面白いです。

 

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トラックメイカーを担当するシェルビー。

 

サントラもうまくて、ヒップホップの映画だからヒップホップだろ。みたいな事はしなくて、むしろ、ソウル主体なんです。

この物語はサグライフを描いてるんではなくて、実は構造的には、努力と根性のお話なので、やはり、ソウルがピッタリくるんです。

 

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そうそう、このフレーズだよ!

 

ラップミュージックはDたちが作っている曲を聴かせるという形で、ジックリと聴かせていき、同時にラップミュージックに詳しくない人たちにも、こうやって作ってるんですよ。という事を知ってもらっているんですね。


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そこがとてもエンターテイメントとして上手いと思いました。

この制作過程は見てのお楽しみに。

さて、そうやって完成させた曲を売り込むのですが、Dがクサ(よいこはやってはいけません)を流しているお得意さんである店に、あのスキニーが来るという話を店長(なんと、アイザック・ヘイズです!)がDに教えるのです。

 

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まさかのアイザック・ヘイズ

 

満を持してDは店でスキニーと会うんですが、ココからラストにかけての二転三転ぶりがまさにオルドリッチ流儀のタダでは転ばない精神に満ちていて、よかったですねえ。

 

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サウスの興隆を代表するラッパー、リュダクリスが演じるスキニー。

 

どうよかったのかは見ていただくしかないんですけども(笑)、スキニーにテープで渡した時の彼のセリフが2005年当時をとても反映してます。

「もうテープは古いぜ。再生する装置持ってねえよ」

しかし、2016年に公開された大傑作アクション映画『BABY DRIVER』の主人公の趣味はミックステープをカセットに録音してコレクションする事であり、現在はカセットテープは、世界的に見直され始めています。

映画で一度もインターネットを見ている場面がなく、携帯電話はあの折りたたみの携帯です。

たったの13年前なのですが、インナターネットがまだアメリカ全体に普及しきっていないんですね。

スキニーはCDアルバムが売れてスターになっているんです。

主人公のDの行為は、意図的なアングラ志向によって気をひこうとしているのですが、インターネットが普及しきった現在の若者から見ると、実はもう意味がわからなくなっている可能性がありますね。

ヘタをすると、カセットテープでまたミックステープを作るのがオシャレでカッコいい事になっているの可能性がありますよね、現在だと。

という事で、ラップミュージックの世界は10年どころか、もっと短いスパンでガラッと変わりうる世界で、現在はその速度はより増している気がしております。

前述のしたように、ギャングスタなサグライフではなくて、成り上がりたい人たちの努力と根性が基本なので思ったほどエグいシーンはないので、そういうのが苦手な人でも本作はオススメできます。

オルドリッチが好きな人でこの映画を見ない理由はないでしょう。

 

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Dたちの計画はうまくいくのでしょうか。

 

 

 

 

角川アイドル映画と思ったら、とんでもないしっぺ返しを食らいますぞ!

大林宣彦時をかける少女

 

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この映画を彼女の引退作品とするつもりが大当たりしてしまいました。

 

筒井康隆原作の小説の映画化(結局、筒井作品で未だにコレが一番有名なのでしょうか?)

原田知世初主演にして角川映画。という所に苦手意識が猛烈に上がりますが(笑)、大林監督は自分の与えられた環境でいかに好き放題やるのかという事にかけては天才的な人で、冒頭から白黒撮影に一部着色した映像を作るなど、実験精神旺盛です。

 

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同時上映が薬師丸ひろ子松田優作ダブル主演の『探偵物語』で興行収入が手堅かった事で、映像的にかなり攻めた作品にしました。

この、そんなに期待されてないチャラいアイドル映画という免罪符を使って実験してやろうという不敵な精神が侮れません。

この作品は、実は大林監督のライフワークの一つである、「尾道もの」でして、最初の3部作の第2作目にあたります(『さびしんぼう 』が第3作目です)。

 

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とにかく、ロケーションがうまい!聖地巡礼」の先駆でしょうね。

 

それにしても、原田知世の可愛らしさ、初々しさ!

 

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弓道のシーンなどなど、サービスも忘れません。

 

タイトル通り、時をかける能力が、土曜日の理科室の掃除の時に原田知世に発動してしまうのですが、そのその契機となる、明らかにマルセル・プルースト失われた時を求めて』のパクりである、「ラベンダーのにおい」(プルーストは「マドレーヌのにおい」ですが)という、1980年代とは思えない、前時代的なロマンティックな設定(それは尾美としのり演じるクラスメートの「醤油のにおい」というセリフもリンクしてきます)が、なぜが大林演出の中では無理なく共存できるのかが、面白いです。

 

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 「ラベンダーの香り」とは?

 

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やはり、尾美としのりがクラスメートととして出演してます。

 

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さびしんぼう 』でも高校教師役だった岸部一徳

 

事前に知っても瑕疵のない程度に核心部を言うと、この彼女の「時をかける」という能力によって、彼女自身が記憶を改変していた事に気がつくんですけども、ココにタイムパラドクスがとても上手く使われているの所がホントに唸りました。

SFの「F」を見事にファンタジーにしてしまったんですね。

アイドルを前面に立てた、チャラい映画だと思っていると、とんでもない返り討ち(そして、それは見事で嬉しい返り討ちです)を受ける事必定の、大林宣彦の代表作にして、原田知世を一躍スターにした作品。

なんと、ラストはPVで終わるというギャフン感で照れ隠しをしてます。

 

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 戦前の映画スター上原謙入江たか子

 

 

 

大林マジックが炸裂する、見事な青春映画

大林宣彦さびしんぼう

 

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まさに大林作品にとってのジャン=ピエール・レオーである、尾美としのり

 

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なんと、1人4役の富田靖子

 

尾道を舞台とした、いわゆる「尾道三部作」の第3作目。

主人公尾美としのりは、明らかに大林宣彦自身の分身でありますが(アントワーヌ・ドワネルですよね)、舞台こそ彼の故郷である尾道ですけども、彼の生きた時代ではなく、あくまでも現代にしています。

現在も名脇役として活躍する(宮藤官九郎脚本のドラマ、『あまちゃん』や『監獄のお姫様』でもいい味を出してました)、尾美が高校生役なのですから、もうこの映画も随分昔の映画になってしまった事に驚きますが、まるでキャメラと音楽が踊っているような大林演出は余りにもうまくて、真底驚きますね。

 

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 おバカな男の子たちを撮らせても天下一品!

 

ファンタジーというものの本質を掴んでいるので、どんなに飛び跳ねても揺らがないものがあります。

佐校長室のオウムの「雨にも負けず」をマッシュアップするおかしさ、浦辺粂子のとぼけた味わいなどなど、所々に配置されるギャグとともに大林監督の暖かい目線がいいですね。

 

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佐藤允が校長先生なのも(笑)。

 

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 本作のお約束となるシーン。

 

当時、フジカラーのCMに出ていた樹木希林をお正月のシーンに使ったり、その娘役の小林聡子とのからみで、尾美としのりが階段から転げそうになったりするシーンはちょっとニヤリとさせられます(『転校生』の階段から2人が転げ落ちるシーンを踏まえているわけです)。

 

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まさかフジカラーのCMのパロディ。

 

さびしんぼう」を演じる富田靖子の圧倒的な可愛らしさと天真爛漫さは、本作を切ないファンタジーにするのに貢献しています。

 

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チャップリンのような、フェリーニ『道』のジェルソミーナのような存在の「さびしんぼう」の素晴らしさ。

 

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富田は近所の女子高生役も演じています。

 

これ以降、富田は今ひとつパッとしませんが、故に本作が光り輝くのです。

この「さびしんぼう」とは一体何なのかは見てのお楽しみですが、大林監督は、「恋をすると誰しも『さびしんぼう』である」といっている哲学を具現化した存在です。

 

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父親役の小林稔侍がいい味を出してます。

 

ショパンの「別れの曲」がシツコイぐらいいろんな変奏で使われるのもうまいですねえ。

とにかく前半のコミカル、後半の切なさが一挙に進んでいくうまさには舌を巻きました。

未だに創作意欲が衰える事を知らない大林宣彦の美しい青春映画です。

 

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 大林ファンタジーの1つの到達点でしょう。