富野由悠季『The Ideon : Be Invoked』
主人公コスモの家族や友人を殺された事への怒りこそが本作の原点!
一応、テレビアニメの『伝説巨神 イデオン』は39話をもってイデが発動して終わります。
が、オチの方向としてはおかしくないのですが、些か説明不足で、飛躍しすぎているという批判が、熱狂的な視聴者が湧き起こりました。
富野由悠季も本来の話数をカットして番組が終了した事が無念だったようで、あのような乱暴な終わり方を敢えてしたのでしょう。
で、要望に応える形で総集編の「接触編」と、放映できなかった、4話分を劇場公開用した「発動編」をまとめて一挙に公開するという事となりました。
『機動戦士 ガンダム』3部作は、テレビアニメ版よりも格段に完成度の高い作品ですが、本作には問題があります。
それは、「接触編」だけを何の予備知識もなく見ても、ストーリーがサッパリわからないんですよ(笑)。
38話分のストーリーをたったの100分でまとめるというのは、富野由悠季でも不可能なことであり(笑)、ハッキリ言って、「発動編」を上映するためのアリバイでしかなかったのではないでしょうか。
という事で、止むを得ず、最終回を除いた第38話までを見ることをオススメしたんですね。
さて、前置きが長くなりましたが、ここからがようやく本作に入っていきます。
ほとんどの原画を湖川友謙が描いたと言われる絵は、現在見ても桁外れです。
余りのクオリティに心底驚きます。
とりわけ戦闘シーンの描写の凄さは、今もってこれを超える作品はないかもしれません。
バッフ=クランは、とうとうドバ・アジバ総司令自ら出馬して全軍をあげて数百万光年を包囲してイデオンとソロシップを撃滅するという、宇宙大戦争に発展してしまいます。
総司令ドバ・アジバ。オーメ財団と手を結び、ズオウ大帝の打倒を考える。
長女のハルル・アジバ。
ハルルは重機動メカ、ザンザ・ルブに乗ってコスモたちと戦います。ちなみにバッフ=クランでは、「白」には皆殺しの意味があります。
これまでは、バッフ=クラン側はサムライ数人が重機動メカを数機を従えて、イデオンとソロシップを奪い取る事が目的だったのですが、アバデデ様、ハルル・アジバ、オーメ財団の傭兵のダラム・ズバらの猛攻撃を受けるも、コスモたちはコレを乗り切ってしまい、しかもイデオンの力が明らかに強大になっていくことがわかるにつれて、ドバ総司令が自ら動かざるを得ない所にまで自体が悪化してしまったわけです。
イデによって、突然、ドバ総司令の母艦に送られてしまった、カララとジョリバ。
ユウキ・コスモたち、ソロ星の生存者たちは、あくまでも、異星人、バッフ=クランから攻撃されているのを(なんと、地球人からも攻撃や裏切りを受けます)、必死で逃げ回っているだけなのですが、惑星を一瞬で破壊してしまうような力までもってしまうイデオンは、バッフ=クランから見ると、バッフ星を滅ぼしかねない存在にしか見えないんですね。
テレビの後半では、惑星を破壊してしまうほどの存在になってしまうイデオン。
板野一郎独特の爆発効果!
半狂乱となったシェリルの最期。
子供すら白兵戦をやらざるを得ないほどの極限状態を描く。
「死ぬかもしれないのに、なんで食べてるんだろう、オレ」
イデオンのミサイル一斉放射!!
ココに、このお話しの根本的な悲劇があり、お互いの生存をかけた殲滅戦にまでなってしまうという、余りににも絶望的なお話に向かっていきます。
『機動戦士ガンダム』は、むしろ、地球連邦政府の腐敗や宇宙移民政策における政治的経済的格差問題に反旗を翻したコロニーが独立戦争を企てるという、極めて人間的なお話しです。
オーメ財団が開発した、最終兵器ガンドロワ!いいデザインですね(笑)。
本作は、人間ドラマは愛憎のドラマということではむしろ濃厚なぐらいなのですが、話しの核心が、「イデ」という、謎の存在についてのお話しなんですね。
テレビアニメ版を見ていると、おおよその事はだんだんわかってきます。
高度な文明を誇った、「第6文明人」(地球人が宇宙開拓を行ってから、6番目に出会った人類とあう事です。バッフ=クランは『第7文明人』という事になります)が生み出した技術が「イデ」であり、それがイデとソロシップの原動力であるという事。
イデは意志の集合体のようなもので、赤ん坊が生きようとするような、純粋防衛本能に反応して、強力な力を発揮する。
そして、そのイデのエネルギーは無限であり、よき力はよき心によって発動する
。と、ココまでは、わかってくるのです。
余り言いすぎると、ネタバレになりますので、違った側面から、この「イデ」というものを考えてみたいのですが、この「イデ」は、西アジアに起こった、万物創造主としての神。というものとは、実は違うのが、とても興味深いです。
この「イデ」が左右しているのは、あくまでも人類の運命だけなんですね。
強烈な二項対立でありながら、それは、正義と正義の戦いなのでありまして、だから熾烈なのですが、善が悪を滅ぼすようなことでもないですし、神罰を下しているようなラストでもありません。
むしろ、イデは両人類にチャンスを与えているようにも見えます(しかも、何度も?)。
なので、どちらかというと、東洋的な転生とか輪廻の思想に近く、手塚治虫の『火の鳥』の、まさに火の鳥ような存在に近いと思います。
コスモの「なぜ殺す!?」という簡単なセリフがこれほど痛切に響く作品もないだろう。富野演出の真骨頂だ。
「そうよ!みんな星になってしまえ!」イデオン全編でもベスト3に入るカーシャの名セリフ。
ドバ総司令の怒りの涙!『イデオン』は、アジバ家の愛憎劇でもあります。
そういう意味でも、富野由悠季は手塚治虫門下生の中で、1番コアの部分を継承した1人と言えるでしょう。
アニメ史上、最も凄絶な戦いを描きながら、とうとう哲学的、宗教的な領域にまで入り込んでしまった、まさに金字塔とも言える作品です。
見終わった後、ポカーンと呆然とするようなラストを目撃する事になるでしょう。
私はテレビシリーズから本作を含めて、富野由悠季の最高傑作と呼んでいいのではないかと思っています。
俗に「トミノ節」と言われる、シェークスピアのようなキメ台詞が余りにもカッコよくキマるのが、富野作品の特徴だか、本作はそのキマりっぷりが他の作品を圧倒している。
『2001年宇宙の旅』は富野監督に多大な影響を与えたものと推測されます。