またしても映画ではないですが(笑)。

渡辺信一郎『カウボーイ・ビバップ

 

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タイトルからして、好きなものを2つ組み合わせるという「お子さまランチ感」が満点だ。

 

とにかく唖然とするほど、好きなものをぶっこむだけぶっこんでいる、この圧倒的な情報量。

ブルース・リータランティーノジョン・ウー松本零士深作欣二、ペキンパー、松田優作などなど。

毎回のお話を精緻に分析していけば、もう数限りなく膨大なテクストの引用がありますね。

ストーリーの大半が本筋と関係のない逸脱であるというすごさ(であるがゆえに情報量がものすごい)。

しかし、それを絶妙なバランスでミックスされたスタリリッシュさ。

非常にまとまりが悪い作品だと思いますけども(笑)、それが魅力になっているという稀有な作品。

渡辺信一郎は、『サムライチャンプルー』にも言えますけども、主要キャラが圧倒的に立っていて、それでストーリーが自然に動いてしまうというか、いかにこのキャラクターを使って逸脱していくか。を楽しんで作っているようです。

 

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宇宙船「カウボーイビバップ」の面々。元警官、元ヤクザ、冷凍保存されていた人、天才ハッカーと天才犬による珍騒動が基本。

 

そして、そのなんでも放り込んでいく世界観を見事に再現していく、圧倒的な画力には心底驚きます。

多分、コレに匹敵するものを考えると、ガイナックスが制作した『王立宇宙軍』くらいしか思いつきません。

今や、日本を代表する作曲家となった菅野よう子のサントラの出来栄えは、ちょっと桁外れですね。

今堀恒雄菊地成孔という、日本でもトップクラスのミュージシャンを起用して作られたサントラのハイブラウ感は、とてつもないです。

とにかく、過剰なまでのクオリティをテレビアニメという枠から溢れ出すような勢いで作ることができたのは、『王立宇宙軍』と同じく監督第1作であったというのが大きいのでしょうね。

好きなもの、やりたい事を全部放り込んで、後は野となれ山となれ。という無謀なエナジーが全話にみなぎっていて、それは逸脱の会でも、主人公スパイクを中心としたシリアスな回でも同じ熱量というのがすごいです。

ルパン三世』以後、最もキャラクターを確立したアニメ作品だと思いますが、意外にスピンオフ作品やpart2のような形で制作される事がない作品ですが(映画版が1作だけ作られました)、恐らくは、もうこの熱量で作る事は監督はできないほどに打ち込んだという事なのかもしれません。

かのサンライズがロボットアニメ以外で作り上げた金字塔である。というのも、よく考えると衝撃的です。

 

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若いクリエイターたちのまっすぐな「大人ぶり」が眩しい。

 

 

コレが原点。

三隅研次座頭市物語

 

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勝新太郎をスターダムに押し上げた異形のヒーローの記念すべき第1作。

勝新が驚くほど若く、まだスーパーマン的な部分がなく、テレビ版に漂っているような、あの独特の虚無感はまだ漂っていないですが、やはり原点というのは、見ておくものです。

 

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座頭市というお話しの基本はもう完成していて(座頭市は、スジはいつもシンプルです)、旅から旅の生活をしている、盲目の按摩師(それを座頭というんですね)にして侠客(そして天才的な居合の達人)である、市という男が宿場町にたどり着いて、地元のヤクザにわらじを拭ぎ、そこの抗争に巻き込まれていく。という筋書きですね。

 

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飯岡助五郎一家。 

 

ある意味、この長大なシリーズは、そのヴァリエーションだけで成り立っていると言ってよく、なので、この作品の魅力は、細部にあります。

冒頭のサイコロ博打での、市がワザとサイコロを外にこぼして全員にサイコロの目がわかるようにして大負けし、今度は騙して全員からカネを巻き上げるというシーンは、市のこれまでのヒーロー像を覆る痛快なシーンですが、コレがこのお話しの価値観の基準なんですね。

また、飯岡助五郎から出入りの時の為の褒美を倍に跳ね上げるなど、抜け目のないキャラクターとして、これまでのヒーロー像を見事に変えていきました。

本作は、飯岡一家と笹川一家の抗争に座頭の市が巻き込まれていくというお話しですが、やはり見どころは、笹川一家の用心棒に没落した浪人の平手造酒(ひらてみき。と読みます)を演じる、天知茂でしょう。

 

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 座頭市と平手造酒の奇妙な友情。

 

ちなみにいうと、この平手造酒は実在する人物でして、飯岡助五郎と笹川繁蔵の抗争によって、1844年に死んでおります。

この武士でありながら、ヤクザ同士のケンカで死んだという得意なキャラクターは、講談や映画の格好の素材でして、戦前から無数の作品が作られました。

そういう大定番のキャラクターに、盲目の居合の達人を戦わせるという、キワモノ寸前の、今風に言えば、ほとんどマンガみたいな設定のお話しです。

コレを普通にやってしまうと、ホントにマンガ以下というか、どうしようもない感じですけども、勝新太郎は、この非現実的なキャラクターにどうやったら説得力を持たせることができるのかな、徹底的に腐心したようです。

あの、座頭市特有の異様な殺人は、勝新太郎自身で編み出したもののようでして、「盲目が圧倒的に強いという事はどういう事なのか?」を真剣に考えたんですね。

天知茂は、ある意味、これまで培われてきた結核になりながらも酒に溺れている剣豪。というすでに定番となったキャラクターを演じるという安定感があります。

しかも、役者としてのキャリアは明らかに天知茂が上ですし、それは画面からハッキリ伺えます。

 

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あの怪物、勝新太郎は、まだまだ天知茂を圧倒するには至っておりません。

そういう、まだまだ未完成な部分も踏まえて本作を楽しんでもらいたいですね。

三隅研次の、暗さを活かした画面演出も、素晴らしいです。

大映のプログラム・ピクチャーに過ぎなかった作品(当時の大映のスターは市川雷蔵なのであって、勝新太郎は、正直、三番手、四番手の俳優でした)が、映画26作、テレビドラマ100話にまで広がり、世界中にファンを獲得するまでになった第1作目を是非ともご覧ください。

 

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コレもよかった!

原恵一百日紅

 

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杉浦日向子のマンガの映画化ですがとても不安でした。

杉浦の素晴らしい原作を台無しにしやしないのか。という不安ですよね。

しかし、監督の名前をちゃんと見てなかったんですね。

 

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ファザコンのお栄。親を「鉄蔵」と呼び捨てにする。自分の作風を確立しようと悩んでいる。

 

 

原恵一。と言えば、あの『クレヨンしんちゃん』の映画版の名作、『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の監督です。

よほどの覚悟があっての杉浦作品への挑戦であるとすぐに思いました。

しかもその挑戦は全く無謀でもない。

杉浦作品の素晴らしさもまた、「細やかな日常描写」なのであり、まさに原が『戦国大合戦』で私たちに見せてくれた世界なのですよね。

原監督は、『クレヨンしんちゃん』での挑戦を更に深めるために、敢えて最も険しい作品に挑んだのでしょう。

それだけ、やり遂げたい意欲が満ち満ちていたのでしょうね。

葛飾北斎を中心とする人間模様。と、言って仕舞えばたったそれだけのことを浮つくことなく丹念に、しかし、重くならずに描けると言うのは、やはり、並ではありません。

 

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北斎とお栄。ゴミ屋敷です。

 

北斎やお栄の「絵の世界」、盲目の少女、お猶(北斎の娘です)の「音の世界」をさりげなく対比させる巧さ。

決してベタベタやナアナアにならず、行きすぎてカサカサにもならない人間描写だけで全く飽きがこない。

 

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北斎と離縁した元妻。北斎の余りにアナーキーな生活に逃げ出しただけで、交流はある。

 

 

そういうリアリズムと叙情の見事なバランスに、気持ちいいファンタジックな描写が生きるんですね。

監督の人間を見る目の優しさが一貫しています。

 

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 妹のお猶。

 

確かな時代考証も素晴らしい。

 

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細かいところに行き届いた描写。

 

なんちゅうか、ホントにうまいですよ(笑)。

 

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コレがお栄こと、葛飾応為の絵です。ものすごく凝った技法で描いてますねえ。

 

没年すら定かではなく、北斎研究が進んでいった事で浮上してきた北斎応為を主人公に据えた原作の素晴らしさをここまで、映画というものに仕上げてしまう原恵一の才能は、まさに日本の宝だと思います。

クレヨンしんちゃんからここまで引き出してしまう原恵一はすごい!

原恵一クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦』

 

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驚いた。。

なんというか、ものすごく丁寧なんですよ。

1つ1つのセリフに一切子供だましの手抜きがないんですよ。

モーレツにすごい!とかじゃなくて日常描写がものすごくシッカリしてるんです。

 

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「おまたのおじさん」や「れんちゃん」としんのすけの交流が素晴らしい。

 

しんのすけが自宅の裏庭からタイムスリップしてしまった天正2年、1574年の春日合戦という史実を絡めるという構想。

 

しんのすけを預かっている無骨者の武士、井尻又兵衛(しんちゃんはおまたのおじさんと呼んでます)、彼が密かに恋心を寄せる廉姫(れんちゃん)との身分の違う恋愛を、しんのすけの視点(それは現代人の視点でもありますが)からとてもデリケートに描いていることに驚嘆します。

 

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武士同士の約束を交わす2人。アホアホ幼稚園児がしっかりとした男の子になっていく描写が素晴らしい。

 

なんというかですね、あまりにもちゃんと作っていて、腰が抜けますよ(笑)。

 

脚本は監督の原恵一が自ら書いていますが、ものすごい実力者です。というか、実写も含めて、日本でもトップクラスの方と言ってよい。

こんな、手堅い仕事ができる監督が日本にいたんですね。

しかも、『クレヨンしんちゃん』の映画で行なっているというのが、なんともすごい。

そこに野原一家もタイムスリップしてから、ドタバタ度が上がってきて、ちゃんと子供を飽きさせないように配慮して作っているところがうまい。

 

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ホントに合戦に巻き込まれてしまった野原一家。

 

車ごとタイムスリップしていて、なんだか『戦国自衛隊』を彷彿とさせるのもいいですね。

こういう丹念な描写とともに、戦闘シーンが恐ろしく緻密でかなり時代考証にこだわって描かれていることにも驚いてしまいますね。

 

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合戦シーンの描写の確かさにも驚いてしまう。

 

何度も言いますが、『クレヨンしんちゃん』ですよ、コレ(笑)。

しかし、やっぱり一番驚くのは、人間描写ですよね。

 

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 ひろしに刀を渡す又兵衛。こういうサムライの高潔な精神が随所に光る作品だ。

 

それがあればこその合戦シーンの素晴らしさですし、そこに野原一家が突撃する荒唐無稽さが生きるんですよね。

しかも、泣けますからね、この映画。

クレヨンしんちゃん』を使ってここまで自在に自分の絵を描ききった原恵一の才能に脱帽です。

山中貞雄丹下左膳余話・百万両の壺』や宮崎駿ルパン三世 カリオストロの城』の系譜の作品と言えると思います。

いやー、ホントに面白かった!見てない方は是非ともご覧ください。

キッズコーナーからDVD借りるのに少々勇気が要りますが。

 

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れんちゃんがかわゆす。。

 

加藤+鈴木コンビが生んだ、シリーズ最高作!

加藤泰『緋牡丹博徒 お竜参上』

 

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シリーズ第6作目ですが、内容は「花札勝負」の後日談。

イカサマ賭博で儲けている「ニセお竜」と「バケ安」の娘で病気で盲目となっていた五十嵐君子(高倉健が手術代を出してくれた事で手術を受けて視力が回復しております)をお竜さんが探す。というところから話しが始まります。

 

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今回は、鈴木則文加藤泰が脚本を書いた入魂の一作でシリーズ最高傑作という人もいますね。

もうどこからが加藤泰なのか鈴木則文なのかが判然としないほど完全に融合してしまっていて、驚きます。

私も加藤泰の最高傑作の1つは、コレだと思います。

冒頭の花札勝負のシーンは相変わらず身震いするほど美しいです。

 

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このシリーズは、いろんな東映はスターとお竜さんの共演がお約束になってますが、お竜さんとの相性は、この菅原文太が一番素晴らしい。

 

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このみかんを渡すシーンの美しさ!

 

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 加藤泰のローアングル!

 

仁義なき戦い』でのギラギラしたキャラクターが強烈すぎるのですが、ここでの抑えた演技もいいんですよね。

それにしても、明治時代の浅草を再現した美術が見事!

 

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東映の美術で感心した事はあんまりないんですが、やっぱり加藤泰は違いますね。

もう、全編いい構図の連発で、完璧という領域に達してしまっていて、ケチのつけようがございません。

 

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加藤泰の美学は本作をもって完成したと言っても過言ではないでしょう。

お君とお竜の出会いのシーンの驚異的な長回しは、東映任侠映画史上というよりも、日本映史上に残る名シーンでしょう!

鈴木則文映画の常連の京唄子鳳啓助山城新伍やシルクハットの大親分は、相変わらず楽しいですね。

 

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上海に行くらしい、大親分(笑)。

 

鈴木則文ワールドが加藤泰美学に違和感なく溶け込んでいるのがまことに楽しゅうございます(笑)。

これから間も無くして、深作欣二の『仁義なき戦い』が大ヒットして、こういうファンタジックな様式美の世界である任侠映画はあっという間に消えてしまい、主演の藤純子も呆気なく引退してしまいました(その後、司会者として復活し、役者としても芸名も富司純子と改めて復帰しました)。

 

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ラカンから劇場の興行権を奪い取ろうとする鮫洲一家。

 

お竜さん=藤純子というのは、余りにも強烈に結びつきすぎてしまっており、任侠映画とともに消えていかざるを得なかったんですね。

その意味でも、次のスターである菅原文太との共演というのは、とても象徴的な意味がありますよね。

太く短く燦然と輝いたからこそ、「緋牡丹のお竜」は未だに輝き続けるのだと思います。

 

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お竜さん!

加藤泰『緋牡丹博徒 花札勝負』

 

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緋牡丹博徒シリーズの第3作目。

加藤泰の極端なローアングルのワンシーンワンショットが冴えまくってますね!

冒頭のお竜さんの口上のシーンから、もうしびれました!

 

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この人物をちょっと真ん中からズラす構図が加藤泰美学!

 

戦後、いろんなスタイルを持った映画監督がいましたが、ワンショットだけでこの監督です!とわかる人のチャンピオンは、恐らく、加藤泰でしょうね。

 

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このローアングルは加藤泰の専売特許!

 

加藤泰のローアングルと独特のアップは画面に独特の緊迫感をホントに与えますね。

似たような撮り方の人が後にも先にもまったくいないです。

こういう撮り方は、当然のことながら、とても時間がかかったと思うのですが(構図にものすごくこだわっていると思われ、少しでも監督のイメージと違うとテイクがかさみそうです)、加藤はこのスタイルをやめませんでしたね。

本作の脚本はある意味、加藤泰と真逆の美学を持つ鈴木則文です。

ほとんど「お約束」のような脚本にして、シリーズの途中から見ても観客がついてこれるようにする、サービス精神の塊のような人でしたが、これを使って、様式美を作っていくと言う方向に持っていった加藤演出は見事という他ありません。

 

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賭博のもつ独特の緊張感も本作の魅力。

本職のヤクザに花札の指導を受けているそうです

 

渡世人としての修行を行なっている緋牡丹のお竜が、なぜかいつも嵐寛寿郎が親分の組みにワラジを脱いで、その地域のヤクザ同士の揉め事に巻き込まれていくという(アラカン前近代的なヤクザであるのに対し、相手はかならず近代的なヤクザ組織を目指していて、洋服を着ていたりします)、筋書きはもう完全に決まっているのですから、加藤の仕事は、後はそれをいかに見せるのか。という事に専念できるという事であり、そこにトコトンこだわる加藤泰にとって東映任侠映画とジャンルは、やはり適性があったのだと思います。

 

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 アップと引きだけで映画を構成していくというのも独特ですよね。

 

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 お竜さんと健さん手のアップだけで表現する仄かな恋心!しびれます!!

 

コレは今更いう事でもありませんが、藤純子という、「お竜さん」を演じるために生まれてきたような人が主役であった事が、本作の人気を決定づけましたね。

女性の侠客。という得意なキャラクターによって、和服を着てのまったく独自の殺陣、そして、それを極端なアップと引きのワンショットのつみ重ねで撮る加藤演出は、まことにユニークという他ありません。

 

また、バケ安こと、五十嵐安次との花札勝負は、必見。

 

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 水道橋博士にロレックスなバケ安。

 

そこに鈴木則文のギャグ(若山富三郎演じる、「シルクハットの大親分」という名物キャラなど)がそこかしこに用意されていて、2人の良さも見事に生きているところが素晴らしいです。

 

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 ズルイよね、このメイク(笑)。

 

どこもかしこも加藤泰の美意識にあふれたショットの連続にクラクラしますが、シルクハットの大親分の舎弟、不死身の富士松との最後の討ち入りシーンは(途中から健さんも参加します)、もう加藤泰!というしかない美学が溢れる名ショットですので、是非!

 

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始めと終わりのキメの構図が同じなのだ!

 

 

 

とてつもないスケールで描かれるSF大作の結末!

富野由悠季『The Ideon : Be Invoked』

 

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主人公コスモの家族や友人を殺された事への怒りこそが本作の原点!

 

一応、テレビアニメの『伝説巨神 イデオン』は39話をもってイデが発動して終わります。

が、オチの方向としてはおかしくないのですが、些か説明不足で、飛躍しすぎているという批判が、熱狂的な視聴者が湧き起こりました。

富野由悠季も本来の話数をカットして番組が終了した事が無念だったようで、あのような乱暴な終わり方を敢えてしたのでしょう。

で、要望に応える形で総集編の「接触編」と、放映できなかった、4話分を劇場公開用した「発動編」をまとめて一挙に公開するという事となりました。

『機動戦士 ガンダム』3部作は、テレビアニメ版よりも格段に完成度の高い作品ですが、本作には問題があります。

それは、「接触編」だけを何の予備知識もなく見ても、ストーリーがサッパリわからないんですよ(笑)。

38話分のストーリーをたったの100分でまとめるというのは、富野由悠季でも不可能なことであり(笑)、ハッキリ言って、「発動編」を上映するためのアリバイでしかなかったのではないでしょうか。

という事で、止むを得ず、最終回を除いた第38話までを見ることをオススメしたんですね。

 

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さて、前置きが長くなりましたが、ここからがようやく本作に入っていきます。

ほとんどの原画を湖川友謙が描いたと言われる絵は、現在見ても桁外れです。

余りのクオリティに心底驚きます。

とりわけ戦闘シーンの描写の凄さは、今もってこれを超える作品はないかもしれません。

バッフ=クランは、とうとうドバ・アジバ総司令自ら出馬して全軍をあげて数百万光年を包囲してイデオンとソロシップを撃滅するという、宇宙大戦争に発展してしまいます。

 

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総司令ドバ・アジバ。オーメ財団と手を結び、ズオウ大帝の打倒を考える。

 

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 長女のハルル・アジバ。

 

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ハルルは重機動メカ、ザンザ・ルブに乗ってコスモたちと戦います。ちなみにバッフ=クランでは、「白」には皆殺しの意味があります。

 

これまでは、バッフ=クラン側はサムライ数人が重機動メカを数機を従えて、イデオンとソロシップを奪い取る事が目的だったのですが、アバデデ様、ハルル・アジバ、オーメ財団の傭兵のダラム・ズバらの猛攻撃を受けるも、コスモたちはコレを乗り切ってしまい、しかもイデオンの力が明らかに強大になっていくことがわかるにつれて、ドバ総司令が自ら動かざるを得ない所にまで自体が悪化してしまったわけです。

 

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イデによって、突然、ドバ総司令の母艦に送られてしまった、カララとジョリバ。

 

ユウキ・コスモたち、ソロ星の生存者たちは、あくまでも、異星人、バッフ=クランから攻撃されているのを(なんと、地球人からも攻撃や裏切りを受けます)、必死で逃げ回っているだけなのですが、惑星を一瞬で破壊してしまうような力までもってしまうイデオンは、バッフ=クランから見ると、バッフ星を滅ぼしかねない存在にしか見えないんですね。

 

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テレビの後半では、惑星を破壊してしまうほどの存在になってしまうイデオン

 

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 板野一郎独特の爆発効果!

 

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 半狂乱となったシェリルの最期。

 

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子供すら白兵戦をやらざるを得ないほどの極限状態を描く。

 

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 「死ぬかもしれないのに、なんで食べてるんだろう、オレ」

 

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 イデオンのミサイル一斉放射!!

 

ココに、このお話しの根本的な悲劇があり、お互いの生存をかけた殲滅戦にまでなってしまうという、余りににも絶望的なお話に向かっていきます。

機動戦士ガンダム』は、むしろ、地球連邦政府の腐敗や宇宙移民政策における政治的経済的格差問題に反旗を翻したコロニーが独立戦争を企てるという、極めて人間的なお話しです。

 

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オーメ財団が開発した、最終兵器ガンドロワ!いいデザインですね(笑)。


本作は、人間ドラマは愛憎のドラマということではむしろ濃厚なぐらいなのですが、話しの核心が、「イデ」という、謎の存在についてのお話しなんですね。

テレビアニメ版を見ていると、おおよその事はだんだんわかってきます。

高度な文明を誇った、「第6文明人」(地球人が宇宙開拓を行ってから、6番目に出会った人類とあう事です。バッフ=クランは『第7文明人』という事になります)が生み出した技術が「イデ」であり、それがイデとソロシップの原動力であるという事。

イデは意志の集合体のようなもので、赤ん坊が生きようとするような、純粋防衛本能に反応して、強力な力を発揮する。

そして、そのイデのエネルギーは無限であり、よき力はよき心によって発動する

 。と、ココまでは、わかってくるのです。

余り言いすぎると、ネタバレになりますので、違った側面から、この「イデ」というものを考えてみたいのですが、この「イデ」は、西アジアに起こった、万物創造主としての神。というものとは、実は違うのが、とても興味深いです。

この「イデ」が左右しているのは、あくまでも人類の運命だけなんですね。

強烈な二項対立でありながら、それは、正義と正義の戦いなのでありまして、だから熾烈なのですが、善が悪を滅ぼすようなことでもないですし、神罰を下しているようなラストでもありません。

むしろ、イデは両人類にチャンスを与えているようにも見えます(しかも、何度も?)。

なので、どちらかというと、東洋的な転生とか輪廻の思想に近く、手塚治虫の『火の鳥』の、まさに火の鳥ような存在に近いと思います。

 

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コスモの「なぜ殺す!?」という簡単なセリフがこれほど痛切に響く作品もないだろう。富野演出の真骨頂だ。

 

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「そうよ!みんな星になってしまえ!」イデオン全編でもベスト3に入るカーシャの名セリフ。

 

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ドバ総司令の怒りの涙!『イデオン』は、アジバ家の愛憎劇でもあります。

 

そういう意味でも、富野由悠季手塚治虫門下生の中で、1番コアの部分を継承した1人と言えるでしょう。

アニメ史上、最も凄絶な戦いを描きながら、とうとう哲学的、宗教的な領域にまで入り込んでしまった、まさに金字塔とも言える作品です。

見終わった後、ポカーンと呆然とするようなラストを目撃する事になるでしょう。

私はテレビシリーズから本作を含めて、富野由悠季の最高傑作と呼んでいいのではないかと思っています。

 

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俗に「トミノ節」と言われる、シェークスピアのようなキメ台詞が余りにもカッコよくキマるのが、富野作品の特徴だか、本作はそのキマりっぷりが他の作品を圧倒している。

 

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2001年宇宙の旅』は富野監督に多大な影響を与えたものと推測されます。